静かに本を読みたかっただけ
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王都から視察が来る。
その話を聞いてから、 俺はずっと憂鬱だった。
絶対面倒だ。
しかも父親は妙に嬉しそうだった。
「王都の人間がレイを見るのか……!」
「ふふっ♡ きっと驚くわね♡」
頼むから驚かせないでほしい。
俺は朝食のパンを齧りながら思った。
静かに暮らしたい。
なぜそれだけで済まないのか。
◇
その日。
俺は逃げるように街へ来ていた。
家にいると、 両親がずっと“視察”の話をするからだ。
疲れる。
「……静かな場所」
そう呟きながら歩いていると、 小さな建物を見つけた。
看板には、 “資料館”と書かれている。
人も少ない。
静か。
完璧だった。
俺は迷わず中へ入った。
◇
中には大量の本が並んでいた。
古い紙の匂い。
静かな空気。
最高である。
「……ここ住みたい」
思わず本音が漏れた。
受付のおじいさんが、 優しそうに笑う。
「坊や、本が好きなのかい?」
「しずかだから」
「ははは、変わった子だねぇ」
普通だと思う。
俺は適当に棚を眺め始めた。
すると。
ガタッ!!
「!?」
奥の棚が大きく揺れた。
積まれていた本が崩れ始める。
しかも下には、 小さな女の子。
危ない。
俺は反射的に一歩下がった。
すると。
コツン。
俺の足が、 床に落ちていた棒へ当たる。
棒が転がり――。
カタン。
近くの梯子へぶつかった。
梯子が倒れる。
さらに。
ドンッ!!
倒れた梯子が本棚を支えた。
崩れかけていた棚が止まる。
セーフ。
しーん。
館内が静まり返った。
俺は固まる。
……いや、 そんな綺麗に止まる?
女の子もぽかんとしていた。
「た、助かった……?」
「……よかった」
本当に。
怪我なくてよかった。
だが。
「す、すごい……!」
受付のおじいさんが震えていた。
「崩落を計算して……?」
してない。
偶然だ。
むしろ俺が驚いてる。
◇
問題はそこからだった。
奥から、 ローブ姿の老人が出てきたのだ。
なんか偉そう。
「騒がしいと思えば……」
老人は止まった本棚を見る。
そして。
ゆっくり俺を見た。
嫌な予感。
「坊主」
「……?」
「今のをやったのはお前か?」
「ちが――」
「隠すか」
なんでだ。
話を聞け。
老人は真剣な顔になっていた。
「魔力を一切漏らさず、最小限の動きで棚を止めた……」
違う。
棒に当たっただけ。
しかし老人は何かを確信したように呟く。
「……王都の噂は本当だったか」
やめて。
その流れやめて。
すると受付のおじいさんまで興奮し始める。
「ま、まさかあの“沈黙の英雄”……!?」
その名前、 本当に広まってるのか。
恥ずかしい。
かなり。
◇
帰宅後。
「レイ〜♡」
母親がぎゅっと抱きついてくる。
「今日は資料館を守ったのね♡」
「まもってない」
最近これしか言ってない気がする。
父親は腕を組みながら頷いた。
「知識を好む強者か……」
違う。
静かだったからだ。
すると次の瞬間。
コンコン。
家の扉が叩かれた。
父親が出る。
そして。
「……っ!」
急に空気が変わった。
なんだ?
父親が緊張した顔で振り返る。
「レイ」
嫌な予感。
「王都からの使者だ」
終わった。
俺は静かに現実逃避したくなった。
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