負けたかっただけ
代表選考戦。
その言葉を聞いてから、俺は少しだけ希望を取り戻していた。
負ければいい。
それだけだ。
かなり簡単である。
俺は寮のベッドへ寝転びながら思った。
ようやく平和が見えてきた。
◇
翌日。
教室へ入ると、なぜか皆が騒いでいた。
「代表選考戦だ!」
「誰が選ばれるんだ!?」
「絶対レイだろ!」
やめてほしい。
俺は静かに席へ座った。
するとアルトが飛んでくる。
「レイ!」
「……なに」
「聞いたか!?」
「きいてない」
「代表は各学年二人だ!」
へぇ。
興味ない。
するとアルトが続ける。
「しかも今年はペア戦らしい!」
「……ぺあ」
「ああ!」
嫌な予感しかしない。
◇
その日の昼休み。
いつもの席。
フィアが来た。
「……聞いた」
「なにを」
「代表選考戦」
「ああ」
フィアは小さくため息を吐いた。
「出たくない」
「わかる」
完全に同意だった。
するとフィアが少し考えて言った。
「負ければいい」
「わかる」
また一致した。
かなり嬉しい。
◇
放課後。
一年生全員が訓練場へ集められた。
前にはクロード先生。
「これより代表選考戦の説明を行う」
ざわつく生徒たち。
俺は帰りたかった。
本当に。
「今年の形式はペア戦だ」
歓声が上がる。
なぜ喜ぶ。
すると先生が紙を広げた。
「組み合わせは既に決まっている」
嫌な予感。
かなり。
◇
「アルト・ミーナ組」
歓声。
「レイ・フィア組」
しーん。
一瞬静まり返った。
そして。
「えぇぇぇぇ!?」
大騒ぎになった。
なんで。
フィアも少し驚いていた。
「……私たち?」
「らしい」
別にいい。
どうせ負けるし。
◇
だが周囲は違った。
「主席とフィアだぞ!?」
「優勝確定じゃね!?」
「反則だろ!」
違う。
負ける予定である。
かなり。
するとクロード先生が小さく息を吐いた。
「レイとフィアか」
遠い目をしている。
「実力だけなら文句はないんだがな……」
何故か疲れていた。
先生も大変そうである。
◇
説明が終わった後。
フィアがこちらを見る。
「どうする」
「まける」
「同じ」
即答だった。
素晴らしい。
価値観が合う。
かなり。
「適当にやる」
「そうする」
握手はしなかった。
だが心は一つだったと思う。
負けよう。
本気で。
◇
その様子を離れた場所から見ていたアルトは、なぜか感動していた。
「もう作戦会議してるのか……!」
違う。
「さすがだ……!」
違う。
本当に違う。
俺は静かに思った。
早く負けて帰りたい。




