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ドラゴンと魔法とアールグレイ  作者: Aドラゴン伯爵
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黒煙とのデュエル 後編

「ボアアアアアア!ボアアア!ボアアアアアアアア!」

 雄叫びをあげながら、ドラゴンがリチャードを猛スピードで追いかける。

 リチャードとドラゴンのスピードを比べると一目瞭然で差は詰められている。

 しかし、リチャードには狙いがあった。

 リチャードが北西へ一直線に進んでいると、そこはチルターン丘陵だった。

 ここならば、ドラゴンとの勝負が長丁場になっても黒煙が問題になりにくい。

 リチャードはそう考えたのだった。

 空では未だに魔法使いとドラゴンのチェイスが行われている。

 そして、黒煙がほうきの柄に触れようかというところまで来た時だった。

「今だ!」

 リチャードはほうきを一気に方向転換させ、ドラゴンとすれ違うように背後へと回り込む。

 ドラゴンは急激な方向転換に対応しきれず、急ブレーキをかけようとして、黒煙のジェット噴射をやめる。

 そして、リチャードは無我夢中に魔法の光線を発射した。

 魔法の光線はドラゴンの右翼、それも煙突のような器官に命中する。

「ボアアァアアァア!」

 ドラゴンは激痛による雄叫びを上げ、リチャードは狙いが成功したのを見て、してやったりと拳を振ってみせた。

 ドラゴンは旋回してリチャードを視界に捉えると、リチャードはいつでも回避できる姿勢をとる。

 もう一度あの突進を食らったら今度こそ終わりだというのは、リチャードも分かっていた。

 ガッ、チャン

 ドラゴンは黒煙の中で力むと、得意の突進を見せた。

 しかし、あらぬ方向へ進んでしまう。ドラゴンは振り返って、もう一度ギアを入れ、リチャードも「また来る……!」と、身構えたが、突進は空を切った。

 制御を失った巨体が、黒煙の中で無様に揺れる。

 ドラゴンは突進することを諦めると、攻め手を黒煙を爆発させる攻撃中心に切り替える。

 火薬のように粉塵が弾ける音が一帯に響き、丘陵の空では爆風が吹き荒れた。この攻撃が街中で乱発されなかったのが幸いだった。

 しかし、それも長くは続かない。丘陵付近の空がいつからか曇り、雨が降り始めた。

 ドラゴンの黒煙が薄くなり始め、炎のブレスも湿気が着火を許さなくなってくる。

「ボアアァオ!ボアアアアアアアア!」

 ドラゴンが吼える。しかし、威勢の良さというよりは、嘆く声に近いような、そんな咆哮だった。

 一方のリチャードも、この雨が必ずしも好影響ばかりとは限らなかった。

 ドラゴンを攻め立てようと、魔法石から光線を放とうとするが、光が雨粒に乱反射して、制御が効かない。

 リチャードとドラゴンは共に、相手からの遠距離攻撃に関しては警戒を緩めて良くなったが、こちら側も攻め手に欠ける状況となった。

 羽ばたくドラゴンとリチャード、二人の間には妙な間が生まれる。

 リチャードは目でドラゴンを制しながら、手持ちの武器を、杖からサバイバルナイフへと変える。

 このサバイバルナイフは魔法石を取り出すために使用されるものなのだが、まさか生きたドラゴンに向ける日が来るとは、リチャードも想定していなかっただろう。

 黒煙が薄くなった分ドラゴン本体の姿も、幾分か見やすくなっていた。彼も爪を気にしている。お互いにトドメを刺すなら物理攻撃、この一撃で仕留めると、思惑は一致していた。

 雨音とドラゴンの羽ばたき音が聞こえる。共に向かい合い、仕掛けるタイミングを伺っている。

 刹那、リチャードとドラゴンはお互いに動いた。

「うりゃあああああ!」

「ボアアアアアアア!」

 二人はあっという間にすれ違う。

 マスクが外れる。鋭利な爪の斬撃によって、マスク紐が切れたのだろう。

 マスクが外れると、リチャードの頬に一文字のような傷がついていた。

 そのかわり、リチャードはナイフをドラゴンの腹に突き立て、振り抜くことに成功した。

 一方のドラゴンは本来なら間違いなくトドメを刺せていた。しかし、ギアの負傷も災いし、頬に傷をつけただけで、リチャードに致命傷を負わせることは出来ていなかった。この決闘は、明確にリチャードがドラゴンの力量を上回ったと言って良かった。

 ドラゴンは空を飛ぶ力を失い、そのまま牧草地へと墜落していく。

 リチャードが陸地に降り立つと、故障したマシンのように、情けなく黒煙を吐くドラゴンが横たわっていた。

 リチャードが、ドラゴンの解体をしようとした……その時。

「ボアウアアオ……」

 ドラゴンが一唸りする。こいつはまだ、生きている。

 リチャードは一瞬怯んだ。その一瞬の隙が仇となる。

「ボアアアアアア!」

 咆哮して辺りの空気を揺るがすと、ドラゴンは起き上がる。黒煙も黙々と復活していき、リチャードには"なぜこいつにこれほどの力が残っているのか"が甚だ理解できなかった。いや、それを理解できる状況や精神状態ではなかった。そして、ドラゴンはリチャードに向けて、腕を振り上げた。

 一閃、雲が……いや、ドラゴンのまとっていた黒煙が突き破られてその場が晴れる。

 晴れた光が照らすその場所では、ドラゴンの首が垂直にズレて、瞬く間に胴体と分離していった。

 その場所にいたのは、どこからともなく颯爽と現れたロイヤーだった。

「リチャードくん!大丈夫ですか?」

「ロイヤーくん…………なんで?」

「君がドラゴンと戦闘しているところが見えたので、駆けつけたんですよ!危なかったですねぇ。お怪我はありませんか?どこか痛い所があれば、僕が手当てを……」

「大丈夫!……大丈夫だから、ロイヤーくん」

 遮るように、リチャードが身の安全を主張する。

「大丈夫なら……いいんですが…………なんでドラゴンに挑んだりなんかしたんですか?」

 ロイヤーが手を差し伸べながらリチャードに尋ねる。

「もう社内でも噂になってたりするのかな……。僕は一週間以内に結果を出さないと……クビなんだ。社長もずっと待ってくれるわけじゃない。半年間も……結果を……出せないのは…………僕くらいだって…………」

 自分の境遇を話していると、なにか緊張の糸が切れたように、リチャードの瞳から涙が溢れてきた。

 生活と結果に板挟みになって、どこか今日一日は無理をしていたのかもしれない。この涙はそんな無茶の反動なのだろうか、はたまたドラゴンを追い詰めかけたものの結果にならなかった悔しさか、それはリチャードのみぞ知る。

「なんだ〜そんなことですかぁ」

 リチャードの涙など知る由もないかのように、ロイヤーはホッとした様子だった。リチャードはロイヤーが予想外の反応を示したことにギョッとして、勝手に彼へと視線が誘導されてしまう。

「安心してください。それなら、このドラゴンは君が討伐したことにしてしまえばいいんですよ!」

「えっ、でも……それじゃあ」

「心配しないでください。あのドラゴンは間違いなく消耗していました。僕が気付かれずに首を落とせたのも、ドラゴンの注意を君が買ってくれていたからです。それに、君が死ぬよりも僕がもう一匹殺した方が、この街にとっても、僕達にとっても……より良いとは思いませんか?」

 会社のルールでは、報告の偽装は、れっきとしたルール違反である。まだ新入社員とはいえ主力格の彼が、そんなリスクのある提案を持ち出すことがリチャードには到底理解ができなかった。

「リチャードくん。都合のいい提案は受け入れるべきです。特に、あなたの未来がかかっているんでしょう?」

「そうだけど…………でも……できないよ」

「リチャードくん。人には得手不得手があります。僕は最前線で戦うのが得意ですが、君は違う。ですから、前に出るのは僕に任せてください。」

「でもっ……」

「いいんですよリチャードくん。なにせ君は……」

 リチャードは、その先の言葉が聞きたくなかった。自分で言うのと他人に言われるのでは、現実としての重みが違うからだ。

「魔法使いには向いていませんからね」

 どこまでも澄み切った爽やかな笑顔で、ロイヤーは言い切ってしまう。

 その理解を超越した彼の行動に、リチャードはただ唖然とするしかなかった。


 夕暮れの帰り道、リチャードは一人で家路に着く。

 どっと疲れを感じる理由は、ドラゴンとの激闘だけではないのだろう。

 自分があれほどまでに苦戦した相手に一瞬でトドメをさしてしまうロイヤー。そんな彼との実力差は既に歴然だったが、より痛感させられる出来事となっただろう。

 社長に討伐の報告はしなかった。というより、できなかった。

 自分は間違いなく死んでいたし、自分が討伐したと思ったドラゴンには、まだあんなに動けるほどの力が残っていた。

「本当に俺は……魔法使い……失格なんだろうなぁ」

 リチャードは自分の魔法使いとしての才能の無さを憂いた。

 そして、もう一つ不安があった。

「こんなん貰ってもなぁ」

 リチャードは自分のバッグから手のひら大ほどの大きさの石を取り出す。

 石は全体的に黒いが所々が赤や赤みのオレンジに脈打つように反射する。あの、黒煙のドラゴンの魔法石だ。ロイヤーに「これは君が受け取るものだ」と言われたのを、断れずに持ち帰ってきたのだ。

「ロイヤーくんは、ちょっとアレなところがあるけど……優しいには……優しい……優しいのか?」

 リチャードはあそこまで堂々と、しかも笑顔で魔法使いに向いてないと言得てしまう人が、本当に優しいのか疑問に思い始めてしまう。なので、それ以降家路の間常に弱音を吐いても、彼について触れることはなかった。

「ただいまぁ〜」

 リチャードが家に帰ると、プロがリチャードに飛び込んでくる。

「リチャードォ!」

「ぉわふ!」

 あまりにも力が強くそのまま、リチャードは倒れ込んでしまう。プロはというと、リチャードが居なくて寂しかったのか、リチャードに抱きついたままだった。

 しかし、プロは突然顔を赤らめると、声を荒らげてリチャードに尋ねる。

「り、リチャード!」

「?どうした、プロ」

「誰!?それ!プロ知らない!」

「誰?」

「それ!」

 プロはリチャードのバッグを指さした。


 第二話【完】

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