(46)最終日-15 お終い
「これが黄山さん殺害の全容です。お昼に二階さん達と旅館の庭を歩いている時に、夜の下調べが出来たのが良かったです」
八子がにやりと笑う。
右の口角が少しあがる独特な笑い方だ。
「これで、あなた方が知らない連続不審死の裏は大方話したと思います。ですから、私、もう眠りますね」
「は? 眠るとは? 君には訊きたいことがまだ山のようにあるんですよ」
江戸川が眉根を寄せた。
白木は八子に軽く会釈する。
「ええ。ありがとうございました。僕が疑問に思っていた部分は大方解消しました。今度はゆっくりお休みください、オリジナルの八子さん」
「オリジナル?」
江戸川がよくわかっていないつぶやきを発する。
八子の表情は変わらないが、あれは、意識して表情を動かさないでいるだけだろう。
「私の人格が入れ替わっていたことに気付いていたんですか?」
「あなた達、人格によって、笑う時に上がる口角が変わるんじゃないですか? オリジナルの八子さんの時は右。男の子だと左、だと思うんですけど」
「気付いたのはあなたが初めてです」
ふんわりと八子が笑う。
今度は両方の口角が上がっている。この場合はどちらの人格が優勢なのだろうか?
白木がそんなことを考えている間に、八子は目を閉じて動かなくなった。
「おい!」
江戸川他お付きの警察官が彼女をゆすっているが、うんともすんとも反応が無い。
今度こそ、人格を1つにするための内面での何かが始まるのだろう。
「それで、モモ達もう自由にしていいの? きちんと帰れるの?」
振り返った桃子がなんとも心配そうな目で白木を見てきた。
「帰るのは、暗示を解いてもらってからの話だね。開聞岳に登頂して大丈夫だった人達は、暗示にかかってないってのがわかってるからいいけど。桃ちゃんみたいに登ってない人は、うっかり掛かったままの可能性があるから」
「どうなのお巡りさん」
空気を読まず桃子が江戸川に詰め寄る。
江戸川は本当に困った様子で困惑しつつ、それでもどうにか答えを絞り出した。
「暗示の解除については県警の方でどうにかします。帰りの足についても、当初から予定していた便が使えるように善処しましょう」
「じゃあ、時間通り旅館をチェックアウトの予定で帰る準備するね」
「僕も失礼します」
江戸川を放置して、白木と桃子は自分の部屋に向かう。
ここから困るのは警察の仕事。
予定通り帰してもらえると言質をいただいたのだから、帰してもらおう。
そのためには自分達の帰り支度も必要だ。
事件の顛末はそのうちニュースで流れるだろう。
八子がどうなるのかだけは、ちょっと予想がつかない。
知らない方が良いことなのかもしれない。
「あ! おじちゃん、モモ、お父さんにお土産買ってない!」
「鹿児島中央駅や空港で見ればいいじゃない。あっちの方が色々あると言えばあるよ」
最後までお読みいただきありがとうございました。




