表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/46

(26)6日目-5 事件検証4

「28日の検証はそこそこいい感じだったかもね。じゃ、次。29日ね」

「うん」

「亡くなったのは青島(あおしま)未紗十(みさと)さんと阿二(あに)青人(あおと)さんの2人で合ってる?」

「うん」

「あの2人、サンセットクルーズからの帰りにいなくなってたけどさ。まさか死んでるなんて思いもしなかったよね」

「うん」

「どこで死んでたか場所知ってる?」


 難しい表情で桃子が腕を組んだ。


「細かい場所はわかんないけど、サンセットクルーズで行った岬のわりかし近くの岩場だって聞いた気がする」

「それってひょっとして、クルーズ中に噂になってた、恋が成就するとかなんとかって怪しいスポットなんじゃない?」

「あー。そんな話題も出てたね。あれ? じゃぁひょっとして、デートでそこに行ったところをグサリ?」

「グサリってことは刺されてたの?」

「ん。なんか、刺されて血まみれでお亡くなりしてたってお巡りさんが言ってたよーな。モモ達、凶器を持ってないかの荷探しもされたし」


 警察が殺害手法まで教えるだろうか。

 それとも隠すほどの情報ではないからか。

 遅かれ早かれマスコミが流す情報だと判断して、欲しい情報集めのために、些細な情報は出したのかもしれない。


「しかしあれだよね。亡くなってた場所が岬近くの岩場だなんて聞くとさ。クルーズ中に聞いた噂、あれ、殺害対象を現場に誘い込むためにわざと流された話題みたいに感じちゃうよね」

「恋が実るって言われると行っちゃうよね!」

「桃ちゃんもだけど、女子は好きそうだよね」


 白木は興味無いけれど。

 言ったら面倒そうなので口には出さないでおいた。


「それでさ。死亡推定時刻とかも知ってる?」

「細かくは知らないよー。夜って聞いたような気はするけど」

「広いね~。それ、早めの時間帯の夜だとツアー参加者は無理だね。バス移動で拘束されてたから。けど、深夜帯ってなると、誰でも犯行可能な時間ではある」

「はいはいはいはいっ!」


 元気に右手を挙げながら、桃子が机越しに身を乗り出した。


「モモ思ったんだけど、現場に来た人殺しといてって、殺し屋さんに依頼もできるんじゃない?」

「それはまた……。殺し屋に頼むって、現場に誰も来なかった時の依頼はどう扱えばいいのさ?」

「依頼は前払い。誰も来なければ誰も殺さないけど、複数人来てもお値段変わらずとか?」

「大人数来すぎたら、殺し屋さんが仕事を投げ出しそうな依頼の受け方だね」


 まぁでも。

 噂で流れていた恋のジンクス岩場は場所が曖昧だった。

 そのポイントをある程度特定して出向く手間をかけられる人物、とまでなると、あまり大人数は来ないだろうと予想していたのだろうか。

 もしくは、噂に花が咲きすぎて、ツアー参加者全員現場に突撃してしまうパターンか。

 後者の場合、殺しどころではなくなるだろう。

 それでも依頼料は発生するのだとしたら、なんとも悲しいパターンだ。

 どうにせよ、金をケチらなければ、不可能ではない犯行のような気はする。


 が、殺人に絡む人間が増えれば、アクシデントが起こる可能性は跳ね上がる。

 犯人はそのリスクを飲めたのだろうか。

 それに、こんな説まで採用したら、犯人の候補は全く絞れない。

 正体不明、人数不明の運営が犯人の可能性もまだ残っているのだから。

 情報不足もあって、この日の件も保留。


「じゃぁ次。これは、今朝桃ちゃんが言ってた、あんまり付き合いのないおじさんが亡くなったっていう件でいいのかな?」


 桃子の肩がぴくりとした。

 一泊置いて無言でうなずく。


「亡くなったのは昨夜?」


 桃子がうなずく。

 今のところ、桃子の様子はやや緊張している程度で平常だ。

 朝は取り乱していたが、時間が経って落ち着いたのかもしれない。

 これならおじさんの件の会話も続けられるだろう。


「被害者は誰?」


 白木は企画参加者の紙に視線を移した。

 桃子がある人物の名を指し示す。

 黄山(きやま)勘九郎(かんくろう)。59歳男性無職。

 59歳無職――最近流行りの早期退職で、悠々自適の隠居生活でも送っている人物だったのだろうか。


「すんごい太ってて、ギトギトしてて、不潔な感じのおじさんだったから、モモこの人嫌い」


 プチ社会問題になってる高齢ニートに属する人物だったのかもしれない。

 こういう、他人と触れ合う企画に出てきているからには、陽気でオープンな性格だったのかもしれないが。

 逆に、コミュニケーションを取るリハビリのために企画に参加していた口であったら、なんともやるせないものがある。

 若干引きこもりの気がある白木としては、数年後の自分の姿かもしれない黄山の死は、完全な他人事とは思えない。


「桃ちゃんの好き嫌いはちょっと置いといてさ。黄山さんの死因、大まかにでも知ってる?」

「みんながあれやこれや言ってたのを横で聞いてたくらいなら」

「それ教えてくれる?」

「大ハンヤの日の夜に死んだ人達と同じ毒って」

「同じ毒が出たんだ?」

「みたい」

「どこで亡くなってたの?」

「旅館の庭だって」

「部屋の外を出歩く時って、警察が1人1人についてるんじゃないの?」

「ベランダからこっそり外に出たみたいだって。黄山さんの部屋1階だったから、ベランダから庭に出れないこともない造りみたいでさ」

「ふぅん。1階を割り当てられてる人は、警察の目を掻い潜って動けるってことだね」


 黄山が何のためにこっそり外に出たのかはこの際いい。

 人に知られたくないことの1つや2つや3つくらいあるだろう。

 大切なのは、1階泊まりの被害者が自由に動ける状態だったという点だ。

 1階を割り当てられている人物が犯人だった場合、その人物もフリーに近い状態だったということなのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ