↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TOKYO異世界不動産 2軒め  作者: すずきあきら
第四章 キアとサキ
20/26

5

なんと今回は間取り図いっきに3点!

お読みください!


「きゃぁっ!」


 引き裂かれる! 


 サキ、思わず顔をかばってしゃがみ込む。


 それでも容赦なく猛獣の爪が振り下ろされる。というとき。


「そこまでだ。キア!」


 新たな声は、聞き覚えのある、というよりいちばん身近な声だった。


「!」


 キアの爪がすんでのところで空を切る。


 振り返るとそこに、


「やれやれ。そんな姿もなれるんだな」


「……源大、朗」


 キアの姿があっという間に変わっていく。手も足も、耳も目も、もとのキアへと戻っていった。


「正直、驚いたがな。なるほど。そこまでおまえをさせるのは、こいつらか」


 二階部屋の戸口に立った源大朗、サキを見る。クンとシーは早くもいきり立って、


「なんだ!」


「じじいはすっこんでろー!」


 身構える。


「やれやれ、一気にじじいかよ。マレーヤのやつは、あんがいやさしかったのかね」


「なにぶつぶつ言ってんだじじい! 誰だよおまえ!」


 サキにまで言われ、源大朗、改めて向き直る。


「そこまで言われちゃぁ、しかたねえ。オレはそこの……、キアの保護者だ! あー、本業は不動産屋、だがな」


 堂々と。だが微妙な空気に。


「はぁ?」


「超キメー! けっ!」


 そんな中、キア、


「源大朗、どうして」


「んなこた決まってる。んんっ! 家族になにかあったら心配するし、出来ることならなんでもやるもんだ」


「でも」


 キアは知っている。


 セイラの話で、源大朗が学校にまで来ているのはわかっていた。ならこの場所は。キアの後をつけたのだろうか。サキたちがそうしたように。


 ふだんなら、そんなことをされたらキアは源大朗にやめてほしい、と言っただろう。だが、これは「ふだん」ではない。なら、


「でも、でも!」


(にゅーは……!)


 突然源大朗があらわれて、わずかにホッとした分、散じていた感情がよみがえる。


 それを察知した源大朗、


「おっと、またビースト属性を顕在化されても困る。まえに狼野郎に襲われたときもそうはならなかったってのな。おまえ、よほどこいつが大事だったんだな」


 後ろ手に持っていたものを出して見せる。


 口を結ばれたトートバッグ。


 サキが窓から放り投げたものだ。


「それ……、にゅー!」


 キアがかけよる。しかしバッグに触れようとして、躊躇した。手を触れられない。


(もしこの中で……)


 子猫が死んでいたら。


 しかし源大朗は笑う。


「安心しな。こいつはただの……」


 バッグを開けて、中身を床に放り出す。子猫が落ちた、と、思わず視線を背けたキアが、


「え……」


 転がったものを見て、声を漏らす。


 そこにあったのは、木切れとぼろきれ。


 よく見ると、今いる二階のそこかしこの、壁や天井の一部が壊れ、落ちている、そんな破片のひとつのようだ。


「にゅー、は」


「猫がゴミになったわけじゃない。最初からこの袋に猫は入ってなかったんだ。少なくとも、そのコが窓から放り投げるときには、な」


 そのコ、と言われたサキ、


「ぁんだてめえ! よけいなこと……」


「おおかた、そうだな、子猫は」


 源大朗、自分の背後の押し入れを開ける。ボロボロの襖の向こう、雑然と詰まれたままの布団の、その奥に、


「これか」


 やはり袋だが、投げたのとは別もの。中に蠢くものがある。小さく声も。


「にゅー!」


 こんどこそ駆け寄るキアに、源大朗は袋を渡す。すぐに中から、


「フニ!」


 子猫が顔を出した。すぐに、ぶるぶるっ! 身体を振る。飛んで行きそうなほど回転する小さな頭。


 キアを見ると、うれしそうに声をあげた。キアもまた、


「よかった!」


 袋から出した子猫を抱きとめる。


「わざわざ袋を入れ替えて、ボロを詰めた袋を投げる。なかなか凝ってるな。庭に着いたら、その偽子猫の袋が落ちて来たんでな。驚いたぜ」


 源大朗の説明に、サキは目を逸らして語らない。


 ドラフの少女たちは、


「え、なんで」


「よくわかんねえっす」


 どこかしらけたような空気が漂う。急速に心が離れてる、そんなふうだ。


「ところで、だ。もうすぐ警察が来るぞ。逃げたほうがいいかもなぁ」


 と源大朗。


 これにはサキも、


「はぁ!? どういうことだよ! あたしがなにしたっつーんだよ!」


 食ってかかる。


「いじめは罪じゃない、ってか。そういう感覚なんだろうな、おまえたちには。だがいじめが原因じゃない」


「だったら!」


「不法侵入だ。この土地、建物の、な」


 意外な言葉に固まるサキたち。キアも不思議な顔になる。そこで源大朗、


「この土地、建物の管理をうち、つまり夷や不動産が引き継いだ。契約書類もちゃんとある。つまり、ここはうちの管理物件だ。いまなら知らなかった、で済ませてやる」


 上着のポケットから出した書面をひらひらさせる。


「そんなこと、したの?」


「ああ。この物件を調べてな。管理をやってる不動産会社に交渉したら一発だった。まぁ、こんな小さな空き家だし、いわゆる「旗竿地」ってヤツだが、通路が狭すぎて再建不可の、まぁ、不良物件だな。管理っても見てのとおりほとんど放置だし、代行の値段付けたら、渡りに船だったんだろ、向こうもな」


 幅四メートル以上の公道に、二メートル以上で「接道」していない土地には基本、新たに建物を建てることができない。


 建築基準法で定められている。



間取り図 1階


挿絵(By みてみん)


間取り図 2階


挿絵(By みてみん)


土地図


挿絵(By みてみん)



 笑う源大朗。


 しかし言うとおり、正式な書類があるなら、ここはもう夷やの管理物件で間違いない。


「は! そんなこと書いてねえし! 知らねえし!」


「いまは書いてあるし、貼ってあるぞ」


 源大朗、ここへ上がるまえに、玄関や土地のアプローチなどに、「管理物件」の張り紙を何枚もしてきたのだ。


「管理物件に無断で侵入。そこにあった器物を損壊未遂……」


「器物損壊ってなんだよ。なんにも壊してねえぞ!」


「未遂だ。その猫だよ。にゅー、だっけか」


「けっ! ただの野良猫だろ。おまえのもんかよ!」


「名前のついた首輪もしてるし、飼育実績もある。なによりこの物件にいる猫だ。うちの管理物件の一部さ。備品だな。んー、ほらどうする? そろそろ警察が来るぞ」


 無精ひげをなでる源大朗。


「やべー! 行くよ、シー!」


「おぼえてろって! くそじじい!」


 ドラフのふたりがバタバタと退散する。


「おまえは、行かないのか」


 言われたサキは、


「……ちっ! やってらんねえ」


 それだけ吐き捨てる。源太朗を一瞥し、ゆっくりと傍らをすり抜ける。そこへ、


「嬢ちゃん、あんたサキュバスなんだろ」


 源大朗が言うと、


「だからなんだっての! はぁ? おまえもどうせ、スケベなこと考えてんだろ! サキュバスならなんでもやらせてくれるとかな!」


 サキ、足を止め、火のような目でにらみつける。源大朗がなにも言わずにその視線を受け止めていると、


「へーえ、なかなか我慢強いじゃん。おっさん、不感症? それとも、あれだったりして。まだ若い? のにかわいそー! あは! じゃあ、こっちならどうなのさ」


 そう言って、これみよがしに手袋を脱ぐ。


 肘までの手袋を、指の先をくわえながらゆっくり脱ぎ取った。


「……」


 キアも見つめる。どういうことなのか。


「あたしの手で直に触れると、もう、一発だよ。直さわりは効くのさ。それだけで天国へいっちまう男もいるんだって。知らないけどね、ほうら!」


 サキの手が触れる。


 上着をまくりあげた源大朗の、肘から下をつかんだ。


「ほらほら、いつまでそうやって耐えてられっかなー。きゃはは!」


 しかし、


「なるほど。それがおまえたちサキュバスの能力か」


「能力じゃねえよ、こんなもん! けど、おまえら男どもは勝手に反応して、発情して、全部あたしらの、サキュバスのせいだって、言うんだろ、なぁ!」


 サキの顔に焦りが走る。


 さっきからずっと、もう一分以上も両手でさわっているのに、源大朗がちっとも反応を見せない。


(なんで! なんでさ! こいつ、どうなって……! さっさと正体あらわせよぉ! スケベじじいがぁあ!)


「どうした、もう終わりか」


「っせえ! 本気だせばこんくらい!」


「どれだけやっても無駄だ。言われるほど、おまえたちサキュバスが異性を惑わすのでもなければ、フェロモンみたいなものがあるわけでもない。もともとは、異性がおまえたちを見て生じさせる感情、そいつを増幅しているだけだって、な」


 源大朗に言われ、サキ、ハッ、と目を上げる。


「それを」


「雄さん……、詳しい者に教えてもらってな。要は、スケベな気持ちでおまえたちを見るからよけい気持ちが高じて耐えられなくなる。それを、おまえらサキュバスのせいにする。そうだろ?」


「う、うっせ! ……そうだよ。男なんてみんなドスケベな目でしか見てねえんだよ! だから……」


「サキュバス族は姿形がみな秀でている。その姿で相手を引きつけるのが生存戦略だからな。惹かれた相手が勝手に気持ちを高ぶらせて、罠にはまる、ってわけだ。自分から、な」


「なんでおまえ、なんともないんだ。それともくっそやせ我慢かよ!」


「やせ我慢なんぞするか。オレはな、顔や外見で女をどうこう見る気はない。それに、おまえみたいな子どもはタイプじゃないしな。ああ、ちっとも」


「なんっ、だと!」


 サキ、激昂しながらも、


(どういうことよ! あたしの能力が通じない……、違う、あたしの……、この変な能力抜きで、あたしを、見てる……? あたしの、そのものを、こいつ……)


「これでわかったろ。だいたいオレには、もうちゃーんと決めた相手がいて、だな」


「えっ!?」


 急に声をあげたのはキアだった。気づき、赤くなって自分の口を押える。


「ぁ? ん、今なんつった? オレ、……まぁいい、はははっ!」


「そう、なの」


 またもキア。どういう顔をしていいかわからない、というふう。


 そしてサキ。


「ば、ばっかじゃねーの! あたしの……、サキュバスの力はそんなんじゃねーし。そんなん……、ぁーもー、わかんねー!」


 吐き捨てると、ギロッ! 源大朗をにらむ。しかしさっきとは違い、悔しまぎれの、けれどどこか拗ねたような、頬を膨らませて、ふんっ! とかぶりを振る。


 そのまま出て行った。


「おうおう。若いねえ」


 なぜか源大朗も、軽口に近い。キアを振り返って、


「さぁ、帰るぞ」


「ぅ、ん」


 そう言ってからキア、胸に抱いたにゅーをどうしようか、と思い悩み、あたふた、しだす。


 じっとにゅーの顔を見つめたあげく、


「あの、源大朗」


「ん?」


「このコ、にゅー、置いていく、の?」


「んなこた、自分で決めろ。今日からここはおまえの管理物件だ。ここに置いておきたいならそれでいい。けどな。んー、今日みたいなことがまたあったらイヤだろ」


「うん」


「だったら……、仕方ねえ」


「え、じゃあ」


「仕方ないからな。ほんと、仕方ない。……まぁ、店の二階で飼う分には、いいんじゃないか。学校へ行ってる間はラウネアがいるし、な」


 ぽりぽりと、髭をかく。


 キアの顔がみるみる上気した、と思うと、


「ほんと? うれしい! 源大朗、大好き!」


 飛びつき、抱き着いた。それは間にはさまったにゅーが、


「ニュッ!?」


 驚くほど。


「おいおい、おまえ、そんなキャラだったか。マレーヤじゃないよな? エサはおまえ持ちだからな。うんこの世話も自分でしろよ」


「うん! うん! はい!」


 夢見心地のキア、源大朗の胸に額を擦り付けて、何度もうなずく。頭の耳と、スカートの下のシッポがふるふるふるふる、揺れていた。


 ……キア、あとで思い出し、イチゴよりも赤く顔を染めていたらしい。


明日も更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。