124.あなたと一緒
活動報告で予告した2時…数分過ぎです。すみません。
長くなってしまって、3000字ほどあります。
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ネロの名づけでひと騒動あったけど、あの後メラさんがすぐに帰ることになって、集まりはその場で解散することになった。
まあ、一番の要件はすんだ後だったし、皆さんは仕事に戻らないといけないだろう。
メラさんは不満そうだったけど、旦那様がすごく心配したらしくて、「すぐに帰らないなら、ドラゴン本体にもどって迎えに行く。」とまで言われて帰ることにしたそうだ。
旦那様にそこまで言われたら、帰らなきゃいけませんよね。
それで、メラさんを転移室まで見送って部屋に帰ろうとしたら、クルビスさんに呼び止められた。
何でも二人で話がしたいとか。…聞いた時はドキッとしましたよ。ホント。
でも、クルビスさん曰く、「今日のことを祖父さんにも報告するので詳しく聞きたい。」そうで、ドキドキした意味は無かった。ちぇっ。
残念に思ったものの、ルシェリードさんのお金で買い物しまくったわけだし、私が初めてルシェモモの街に出た日でもあるので、クルビスさんに今日の外出の詳しい内容を私の部屋で話すことになった。
「それで、ハルカ。ジジ様のところで名乗りをしたと言っていたが…。」
クルビスさんがカップを備え付きのテーブルに置きながら話を切り出す。
お土産に買ったビビ茶を淹れて、話を始めることになったんだけど…。
そこからですか?
買い物の最初からじゃなくて?
「ジジさんの所…ですか?」
確認しながら、クルビスさんの聞きたいことを考える。
要は、さっきの世界に宣言しましたっていうのを聞きたいんだと思う。固まってたもんね。
「そうだ。先にその話を聞きたい。」
「…最初は花飾りを買うために行ったんです。でも、中に入ったらお茶を出していただいて、お話をしました。
ジジさんは最初から私が異世界から来たことを知っていました。占い師さんだから、私が来るのは知っていたと。メルバさんからもお話がいっていたようです。」
クルビスさんは頷きながら聞いている。
よし。ここからだ。
「…いろいろなお話をした後、ジジさんから名乗りをしようと言われました。名前だけだと思ってましたが、ジジさんがして下さったのは、ルシェリードさんの時と同じ正式な名乗りでした。
こちらも出来る限り丁寧な名乗りを返したのですが、まだ場が作られている状態でジジさんから「クルビスさんの傍にいて欲しい」と言われました。」
「まてっ。ジジ様が言ったのかっ?」
「はい。それで私も「クルビスさんの傍から離れない」と言いました。」
こんなもんかな。だいぶ端折ったけど、クルビスさんが聞きたい部分は話したと思う。
クルビスさんは目を見開いてまた固まってる。大丈夫かな。
「…なぜ……。」
え?何ですって?
耳に手をあてて聞き取る姿勢を取る。ワンモアプリーズ。
「なぜ、そんなことをしたんだっ。ハルカがそこまでする必要はないっ。」
うわっ。びっくりしたあ。
急にどならないで下さいよ。
「なぜって…そう思ったからです。」
ウソじゃないですよ。すっと言葉が出てきたんです。
思ったままのことを言っただけで、何で怒鳴られなきゃいけないんだか。
「世界に宣誓するなんて…。もし、ハルカが俺を嫌になっても絶対に離れられないんだぞっ?」
嫌になる?クルビスさんを?
今の所それはなさそうだけど…。
「俺との関係が世界の理のようになるっ。取り消しは効かないんだっ。どういえばいいか…喧嘩して、顔を見たくなくて遠くへ行こうとしても、災害や怪我なんかであらゆる邪魔が入って逃げることも出来なくなる。世界があるべき形に持っていこうと反発するんだ。わかってるのか?」
そりゃ、世界の理に近い位置づけになるって聞いてますから、それくらいはあるでしょうね。
見方を変えれば魂の自由を奪うことにもなる。だから、今では滅多にしないって教えてくれたのはクルビスさんですよ?
かなりの大ごとだってわかってたから、デメリットが発生するかもって思ったけど、ジジさんのあの言葉を聞いたら、私が本当に思ってることを言わなきゃいけないって思ったんだもん。
でも、さっきから聞いてたら…。
「クルビスさんは私が傍にいるのは嫌ですか?」
違うと思うけど、そう言ってるように聞こえてくる。
何だかへこんできた。すごく勇気がいったのに、ジジさんも心から心配して『お願い』してくれたのに。
「違うっ。そうじゃなくて、嬉しいが、そうじゃないんだ。」
泣きそうな顔でクルビスさんが言う。
…なんでこのひとが泣きそうになってるんだろう?自分に都合よく進んでるのに。
「俺は、俺の事情にハルカを巻き込んで一緒になりたいんじゃない。ハルカに選んでもらいたいんだ。」
消えそうな声に一瞬頭が真っ白になる。
…それって、私が周囲にクルビスさんのことを言われて、同情で、それで世界に宣誓までしたっていうことですか?
(は?何言ってんの。このひと。)
わかった途端に急速にムカついてくる。
つまり、クルビスさんは私が周囲に流されてるだけだって言ったのよね?
メルバさんに少しだけ聞いた『単色の暴走』。
力が強ければ強い程危険が大きくなる。生きた災害の種。
確かに危険だと思ったけど、問題はクルビスさんが周囲のひと達から私にプレッシャーかけられたんじゃないかって思ってるってことだ。
それで私が逃げられないように宣誓させられたんじゃないかって思ってる。
私の覚悟もジジさんの心も無視して。
ムカムカムカムカ。
「バカっ。」
出せる限りの大声で怒鳴る。
なんだか物が落ちる音がしたけど、今は無視。
「そんな半端な覚悟で言うわけないでしょっ。異世界なのよ?異種族なのよ?私の世界じゃ、クルビスさんの姿は化け物って言われるのよっ?ひとに言われて「ああ。そうなんだ。」なんて思える訳ないじゃないっ。」
青みがかった黒い鱗で覆われた肌。人間より高い長身。人間より逞しい体躯にそれを覆う黒いアーマー。
そして何より大きな尻尾。
その姿は多くの物語で登場するリザードマンだ。
顎が小さいとかヒトに近い顔してると言っても、地球には絶対にいない生き物だ。
そんな相手に…勘違いや思い込みで惚れられるかあっ。
初日は思い込んでたとしても、こう何日も顔合わせてたら目が覚めるわよ。
「ヒトしかいない世界にいたって言ったでしょっ?そもそも容姿だけなら、恋愛対象にならないのよっ。それが状況に流されただけで惚れるわけないでしょう?帰れないって聞いて、自分の気持ちも自覚して、傍にいるって決めたのよっ。私がっ。自分でっ。」
ぜいぜい。はあはあ。
言った。言ったけど、どうしようこの空気。これで引かれたら目も当てられない。
我に返って、凍りついた空気に内心焦っていると、クルビスさんが茫然とした様子でつぶやいた。
「俺の…傍に?」
「あなたの傍に。」
「一緒に生きてくれるのか?」
「あなたと一緒に生きていきたいと思ってます。」
精一杯の気持ちを込めて答えていく。
すると、クルビスさんは私の答えを聞くと、私の傍に来てしゃがみ込んだ。何があるんだろう。
「俺と一緒にいて欲しい。ハルカもそう望んでくれるなら、これ以上嬉しいことはない。…俺の伴侶になってくれるか?」
プロポーズ…。え。今、私プロポーズされたのよね?
それなら、答えは決まってる。深呼吸して。すーはー。すーはー。
「はい。あなたと一緒にいます。クルビスさんの伴侶にして下さい。」
あなたと一緒に、異世界で生きていく。
ご愛読ありがとうございました。
明日からは、第三部「トカゲと散歩、私も一緒」が始まります。よろしくお願いします。
せっかくなので0時投稿する予定です。