『忘却の都市』 影を背負う者
「知ってるって……?」
悠人は霧崎の言葉を信じきれず、戸惑いを隠せなかった。
この状況で、霧崎が"知っている"と言い切る理由は何なのか——。
悠人は夏希に視線を送る。
「なあ、夏希さ——」
だが、彼女は霧崎の顔をじっと、真剣な眼差しで見つめていた。
そして、静かに言った。
「……分かった。霧崎に任せるよ。」
その言葉に、悠人はさらに困惑する。
だが——2対1なら仕方ない。
彼は小さく肩を落とし、ため息をついた。
霧崎はわずかに表情を引き締め、静かに口を開いた。
「……だが、一つだけ問題がある。」
夏希が目線を向ける。
「この扉を出る瞬間——そこが、一番危険なんだ。」
霧崎は静かに指を示した。
「扉を抜けて左に曲がれば、すぐ近くに階下へ続くエレベーターがある。」
「だが……どうしても扉が開く瞬間が"注目される"可能性が高い。」
つまり——誰かが、囮にならなければならない。
その言葉に、3人は沈黙した。
霧崎や夏希なら、仮に見つかってもデバイスの力で逃げ切れる可能性は高い。
だが、彼らの顔はすでに都市側に知られている可能性がある。
警戒態勢が取られれば、階下へのエレベーターが封鎖される危険も考えられる。
そうなると——
「……ここでも、俺の出番ってわけか。」
悠人は、少し気まずそうに笑いながら口を開いた。
霧崎は、悠人に向き直る。
「今なら、まだ引き返せる。俺たちに脅されて無理矢理連れてこられたって言えば、そこまで罪には問われないだろう。」
夏希も、ふっと小さく笑う。
「そうね……確かに、ここまでよくついてきてくれたわ。ありがとう。もしかしたら、ちょーっとだけ記憶いじられちゃうかもしれないけど——まぁ、多分今なら大丈夫よ。」
冗談めいた口調に、霧崎と悠人は微かに笑みを漏らす。
悠人は、少しの間黙ったまま考えた。
そして——彼は答えた。
「……こんな真実、知っちまったからには——もう一蓮托生だろ。 まあ、記憶を消されるとか……正直、怖いけどな。」
悠人は、霧崎と夏希の顔をじっと見つめた。
「その前になんとかしてくれるんだろ?」
二人は力強く頷く。
悠人は、一度深く息を吸うと、口元を歪める。
「……よし、じゃあ決まりだな。任せとけ。 まあ、なんとか“いい感じ”に切り抜けてみせるよ。」
その瞬間——悠人の表情に、確かな覚悟が宿った。




