『忘却の都市』 予兆の瞬間
翌朝、夏希と他の隊員二名は無事に警備隊へ復帰した。
夏希はJACの隊長室へと向かい、簡単な報告と挨拶を済ませる。
城戸隊長は静かに三人を労い、「無理はしないように」と言葉を添えた。
その表情からは、何かを勘づいている様子は——今のところ、見受けられなかった。
その後、夏希は霧崎と合流し、巡回へ。
昨日の会話には触れない。
都市のどこで監視されているか分からない以上、言葉には慎重さが求められる。
そして、巡回を続けている最中——例のカフェを見つけた。
「……少し、休憩しようか。」
そう言って、夏希は店の扉を押す。
俺も、無言で続いた。
扉を開けた瞬間——
「いらっしゃいま——」
店内から聞こえた声が、途中で途切れた。
まるで、数日前と同じように。
だが、前回とは違った。
悠人の視線は、まっすぐ夏希に注がれていた。
「夏希さん、大丈夫でしたか!? 霧崎からケガしたって聞きまして……!」
開口一番、彼は勢いよく言葉を投げかけた。
「お見舞いに行こうと思ったんですが、どこにいらっしゃるか分からず……!」
仕事中にも関わらず、一方的に喋り続ける悠人。
その様子に、霧崎はわずかに眉をひそめた。
そして、その言葉を受け——夏希がふっと笑った。
「心配してくれてありがとう。もう大丈夫だから安心して。」
とびきりの笑顔で、柔らかく答える。
その瞬間——
悠人の身体が、まるで何かに撃たれたかのようによろめいた。
動揺が、全身を包み込んでいるのがわかる。
霧崎は心の中でひそかに思う。
(……女の人って、怖いな。)
さすがに店の中の空気が少し異様になりはじめたため、俺は悠人に席へ案内してくれるよう促した。
そして、視線を外しながら、小さく囁く。
「今夜、少し時間をもらえないか。」
悠人は、一瞬怪しげな目を向けてくる。
だが——「夏希も来る」と言うと、瞬時に了承の意を示した。
本当に、分かりやすいやつだと苦笑しながら、俺は静かに席へ腰を下ろす。
そして、今夜が“次なる転換点”になることを、静かに予感していた。




