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『忘却の都市』 無反応の断片
唯一の手掛かり——それが、夏希の端末に取り付けられた小さなパーツだった。
見た目は、小型のICチップのように見える。
けれど、それが何をするためのものかはわからない。
端末のオン/オフを繰り返してみても反応は無く、画面にも異常はない。
通知もなく、挙動の変化も一切なかった。
「……うーん、これ、どう使うんだ……?」
俺も端末を借りて試してみるが、無反応。
振動も、発光も、起動音すらない。まるで、ただの飾りのように。
「何か、心当たりとかないのか?」
そう尋ねると、夏希は短く首を振った。
「ううん、まったく。さっぱりわからない。」
俺は小さく唸り、ふとある可能性を口にしかけた。
「……隊長に訊いてみるってのは——」
けれど、その言葉の途中で、夏希が首を横に振る。
「……城戸隊長には、すごく感謝してる。今でも尊敬してるし、信頼もしてる。でも……この件だけは、報告しないほうがいいと思ってるの。」
その言葉には、静かな決意があった。
「……わかった。」
俺はそれ以上、何も言わなかった。
その後もしばらく端末を調べたが、明確な手掛かりは得られなかった。
そして、時間も遅くなり—— ふたりはその場を後にすることにした。
不確かな断片だけを手にしたまま、ふたりはそれぞれの夜へと静かに戻っていった。




