『忘却の都市』 共鳴する欠片
「——と、まあ……そんな感じ。」
夏希は、そこでそっと言葉を切った。
表情はどこか遠くを見つめているようで、声のトーンにはひとつの決意が滲んでいた。
俺は、しばらく何も言えなかった。
無言のまま視線を落とし、頭の中で夏希の言葉を何度も反芻した。
夏希の失われた記憶。 仮面の下にあった顔。 端末に取り付けられた見知らぬパーツ。
そして何より、彼女がこの都市に来たとき、自分と同じ“空白”の中にいたこと。
——これは、偶然なんかじゃない。
胸の奥に、違和感というには鋭すぎる感覚が残っていた。
「……俺も、少し話しておくよ。」
霧崎が静かに口を開いた。
「俺も……この都市に来た時の記憶が、曖昧なんだ。どこから来たのかも、何をしていたのかも……家族がいたかどうかさえ、思い出せない。」
「名前ですら……『霧崎』って、本当に俺の名前だったのかどうか、いまだに確信が持てない。」
静かな口調だったが、それは紛れもなく、自分という存在への問いだった。
夏希は、少しだけ目を見開いた。
そして、なにかが腑に落ちたように、小さくうなずく。
「……だからか。」
「……?」
「以前、私が“この都市をどう思うか”って君に訊いたとき、 たぶん私は——無意識に、君に何かを重ねてたんだと思う。」
霧崎がじっと彼女を見つめる。 夏希はゆっくりと微笑んだ。
「自分の中で過去にまだ整理がつかなくて、でも誰かに共感してほしくて。 どこかで、君ならそれをわかってくれるかもって……思ってたのかもね。」
ふたりの間に、しばし静かな沈黙が流れた。
だが、その沈黙は重くはない。
それは言葉よりも確かな“理解”の時間だった。




