『忘却の都市』 悠人の思惑
「なあ、お前と一緒にカフェに入ってきたあの女性——誰だ?」
一瞬、戸惑いながらも答えた。
「……いや、さっき答えたよな?」
「違う。名前を聞いてる。」
質問の意図が分からない。
俺は少し間を置いて、もう一度答える。
「進藤夏希——俺の指導員だよ。」
沈黙。
悠人はその名前を反芻するかのように、しばらく口を閉じていた。
やがて、ふっと息をついて——。
「なんて素敵な名前なんだ……。」
俺は思わず息を止めた。
「……は?」
悠人は感動したように目を輝かせたかと思いきや、目つきを変えて俺をにらみつける。
「お前、あんな素敵な女性と毎日一緒にいるのか?」
なぜか、微妙に怒られている。
ため息をつきそうになりながらも、冷静に考えた。
——確かに、夏希の容姿は整っている。
だが、本人の前では絶対に言えないが、女性というよりどこか少年っぽい無邪気さがある。
「……まあ、仕事上な。」
悠人は少し不満そうにしながら、カフェの店員たちの話をし始める。
「俺の職場の女性たちも、めっちゃキレイなんだけどさ……なんか怖いんだよ。」
「怖い?」
「うん。距離があるっていうか、話しかけてもいまいち盛り上がらなくてさ……あと、キレイすぎて緊張する。」
俺はその言葉に、笑いそうになった。
「で、それに比べて今日の彼女は、キレイな上に親しみやすそうな雰囲気があった。」
悠人は力を込めて続ける。
「ぜひ仲良くなりたい。」
霧崎は静かに息を吐いた。
「……まさか、それが今日の目的か?」
悠人は何も言わず、にやりと笑った。




