『忘却の都市』 運命の扉
エレベーターの中で、夏希は静かに息を整えた。
先ほどの部屋で霧崎に伝えられた“作戦”が、頭の中で反芻される。
いや、それは作戦と呼ぶには——あまりにも無謀すぎた。
——正面突破。
エレベーターが開けば、そこには再び研究施設が広がる。
遮るものは、何ひとつない。
恐らく——すぐに誰かに見つかるだろう。
だが、その正面奥——人工AIの根幹を支える、大元のデータ室がある。
そこを停止——もしくは、破壊できれば。
この都市は終わる。
だが——その影響が、どれほどのものになるかは未知数だった。
霧崎と夏希、そして都市の住民たちにも——何かしらの“異変”が起こるかもしれない。
それはもはや、“作戦”というより——賭けに近いものだった。
夏希は、ふっと笑う。
霧崎が目を向ける。
「……どうした?」
「いや……君が来てから、退屈しないよ。」
彼女は、微笑んだ。
「小林副隊長がいなくなってから、ずっと何かが欠けていた気がしてた。でも——君のおかげで、またこうして向き合うことができた。」
「そして今は、都市の真実を知るために、こんな場所にいる。数ヶ月前の私が聞いたら——絶対に信じなかったと思う。」
そう言って、再び笑った。
だが、その笑みは、次第に引き締まる。
「……でも、ここまで来たからには。 小林副隊長から託された任務——必ず果たす。」
彼女の瞳に宿る決意。
霧崎は、静かに頷いた。
エレベーターが、静かに到着を告げた。
そして——運命の扉が、ゆっくりと開かれる。




