話すだけで相手を惚れさせる能力を持つ俺は今日もコミュ力を磨いて難攻不落のクール美少女を陥落させようと思う
俺は勝間天。都内の高校の二年生だ。
突然だが、俺はある能力を持っている。
その名も、「話すだけで相手を自分に惚れさせる能力」。
この能力に例外は無い。俺が話した相手すべてに適用される。
つまり、どれだけ俺に興味がない女も、有名人やモデルの女も、通りすがりの女でさえも惚れさせられると言う訳だ。
そんな、一歩間違えればノクターン行き確定な能力だが、これはうちの母方の爺ちゃんから貰ったものだ。
と言うよりかは、遺伝したものらしい。
何故かはわからないが、この能力は女性が持っていても使えないらしく、俺の母さんはいまだに能力の存在すら知らない。
これは俺と爺ちゃんとの間だけの秘密だった。
高校に入学したとき、お前に話があると言われて、爺ちゃんにこの能力のことを聞かされた。
そのときはまだ半信半疑だったが、能力を使っている内に爺ちゃんが嘘をついてないことも分かった。
そしてこの能力にはもう一つ、大事な特徴がある。
それは、「話している時間が長ければ長いほど、相手はより惚れる」ということだ。
単にあいさつ程度の会話だけでは能力は大して働かないが、長々とお互いの趣味の話や世間話でもしていれば、大抵の相手は俺に惚れる。
だからこそ、俺はいかに相手と長く話すかということを重視した。
相手と長く話すためには、まずは不快感を持たれるのはまずい。
だから俺は長く伸びた髪を切り、ひげもしっかり剃り、制服のしわを伸ばして清潔感を出した。
これで不快感を持たれることは無いだろう。
次はコミュ力だ。
活舌が悪かったり、声が小さすぎるのもまずい。
俺はボイトレを毎日することで、よく通る声と活舌を手に入れた。
あと、表情筋を鍛えて自然な笑顔も身に着けた。
そして、話が退屈なのもまずい。
俺は雑談の話題作りのために、色んな趣味を始め、色々な曲を聞き、本を読み、映画を見た。
これで話す話題にも困らなくなった上に、運動系の趣味のおかげで体力や筋肉も付いた。
これはこれであっても困らないだろう。
とまあ、そんな下準備を終えて、高一の夏休みが終わったあたりから俺は女子と話し始めるようになった。
そしたらどうだ、クラスのアイドルや、ちょっと大人っぽい部活の先輩、更には、通学路が同じだけの他校生までもが俺に惚れ、連絡先を聞かれたり、デートに誘ったりしてくるのだ。
能力万歳。
これを俺に授けてくれた爺ちゃんには感謝しかない。
そういえば、爺ちゃんはこうも言ってたな。
これを決して浮気や不倫に悪用してはいけない。一人の女性を愛すると決めたときは、能力が発動しないように他の人とは話さず、その人に尽くしなさい。
だっけか。
爺ちゃんが言うには能力の効果は歳が進むにつれて落ちていくらしいから、そのあたりは少し安心だ。
俺だって何股もしたいわけではない。ただモテたいだけだ。
だが、そんな俺でも攻めあぐねている一人の女子がいる。
それが、難攻不落の城塞と呼ばれている、この学校トップレベルの美少女であり、ただ一人として男子を寄せ付けない鉄壁のガードを持つ才女、
金城玲だ。
こいつは容姿だけでなく、勉強も学校トップレベル。成績別で分けられるクラスも、最上位のA組だ。
そして、クラスをまとめる学級委員でもある。それゆえにクラスメイトからの信頼も高い。
もちろん、男子の中でも彼女の人気はすさまじく、果敢にも彼女にアプローチを仕掛ける勇者も少なくはなかったが、数多くの男子たちが彼女の、
「特に用が無いなら話しかけないでくれる?」
という必殺技によって撃沈していった。
しかし。俺はそのぐらい攻略難度が高い方が燃える性分だった。
どんなに難攻不落な城塞であっても、俺の能力で落とせない女はいない。
そうして高一の秋ごろから俺は勉強を始めた。
はじめはパッとしなかった成績も、何とか金城さんと同じA組に入れるラインにまでは伸ばすことが出来た。
そして俺は考えた。彼女と話す用事が無いなら作ればいいと。そう、彼女と同じ学級委員になればいいということだ。
それから俺は高2になってからすぐに学級委員になるために、色んな人と交流を重ね、信頼を得ていった。
そんなこんなで高2の春。
つまり今のことだが、俺は無事に金城さんと一緒にA組の学級委員に選ばれた。
準備は整った。
さて。本丸の攻略を始めるとしようじゃないか。
今日の放課後には最初の学級委員会がある。そのときに俺から話しかけて能力を使う。
我ながら完璧なプランだ。
俺は椅子に座って本を読むふりをしながら、内心ほくそえんでいた。
「勝間くん。今日って、今学期最初の学級委員会の日だったよね?」
!?
馬鹿な。金城さんの方から俺に話しかけてくるだと?
完全に計算外だ……
だが、俺にはむしろ好都合だ。話す時間が長ければ長くなるほど俺の能力はより働く。
墓穴を掘ったな。難攻不落の城塞め。
「ああ。うん。そうだね」
よし。ここは無難に返せたな。
「場所はホール……だよね?」
いつもクールな彼女にしては、どうにも歯切れが悪い。
まさか、一言話しただけで効果が出始めてるのか?
「そりゃ、去年もそうだったしそうなんじゃないか? 別に俺に聞かなくても……」
「あ、そうだったよね……どうでもいい話しちゃってごめん……」
あの金城さんが弱気だと?
何かがおかしい。こんなに早く能力の効果が出始めるのは初めてだ。
というか、まずい。俺の悪手のせいで会話が終わりかねない。
どうにかして会話を繋げないと。
「いやいや、そういう確認も大事だと思うよ。それに学級委員同士、コミュニケーションを取り合った方が仕事もうまくいくだろ?」
よし。完璧だ。
「うん。確かに。そういえば、まだちゃんと自己紹介してなかったよね。金城玲です。不束者ですが、よろしくお願いします……!」
お前が不束者だったらこの学校の奴らは何になるんだよ。
と、答えでもしたら、いくら俺の能力があろうと関係の悪化は必須だろうな。
ここは無難に行こう。
「俺は勝間天だ。今年からA組に入ったから話すのも初めてだよな。よろしく」
自然な笑顔と声のトーン。第一印象も悪くないはずだ。
俺の自己紹介を聞いた彼女は、何故かおどおどと俺に手を差し出してきた。
「……握手?」
「ごめん! 私の手なんて触りたくなかったよね……」
彼女は焦ったように急いで右手を引っ込める。
俺はその手が完全に引ききる前に、急いで掴む。
別に握手なんて減るもんでもないしな。
「――! ありがと……」
「いえいえ」
俺は彼女の手から自分の手を離す。
にしても金城さんの手、小さい上に、めちゃくちゃあったかかったな。やっぱり能力が効いてるのか。
「あのさ、いきなりでごめんなんだけど、一つ聞いてもいい?」
彼女は手を後ろに回しながら、またオドオドとした様子で話す。
「別にいいよ。どんなこと?」
「これから、学級委員のこと以外でも話しかけていいかな……?」
そう言った彼女の顔は、普段の冷たい表情からは想像できないくらい赤く染まっていた。
はっ。難攻不落の城塞もこんなものか。
用が無いんだったら話しかけないで、なんて言ってた金城さんはどこへ行ったのやら。
やっぱり、俺の能力の前ではどんな女でも俺に惚れるみたいだ。
はは! 俺の勝ちだ! これじゃあクールな彼女も形無しだな!
「そうだよね……今まで散々周りに厳しくしてた私が、今更こんなこと言っても笑っちゃうよね……」
待て待て待て待て。
まずいな、俺の内心の高笑いが外に漏れていたのか。
というか落ち込んだ金城さんめちゃくちゃ可愛いな。
じゃない。とにかく弁解をしないと。
「いやいや! 全然話しかけてくれていいよ! むしろ、そうやって言ってくれたのが嬉しかったから、無意識に笑みがこぼれちゃったのかな! ははは!」
それを聞いた彼女は、泣きそうな顔から一転、満面の笑みを浮かべる。
お前そんな表情豊かだったっけか。
もう俺は俺の能力が怖いぞ。
「よかった……また話そうね」
「もちろん」
彼女は耳まで赤くなっているのにも気づかずに、逃げるように自分の席に去って行った。
攻略完了……だな。
長い間綿密に計画を練ってきただけあって、勝利した後の胸の高揚感は他には代えられない程だ。
それにしても、金城さんが骨抜きにされた顔は格別に可愛かった。
あれだけでも今回の作戦の価値はあったな……
「はぁ……」
だがなんだろう。あんな顔を見せられると、能力を使って彼女を惚れさせているのが悪く感じてくる。
もちろん、これまでも罪悪感がなかったわけでもない。
けど、この能力の効果は相手をフッたときに解除される(らしい)から、特に面倒なことで悩むこともなかった。
はずなんだが、彼女のあの心からの笑顔を見ると俺も胸が苦しくなる。
俺は真面目に生きてきた彼女の純情をもてあそんでいたんだ。
そう考えると、俺は自分で自分を許せなくなった。
そうだ。能力の話をバラして、金城さんに謝ろう。
人の心を操ること自体が間違いだったんだ。
他の人にも謝らないとな。
◇
思ったよりもちゃんと話せた。
よし。
と、私は心の中で大きくガッツポーズをする。
勝間くんを初めて知ったのは、高1の秋ごろだったと思う。
クラスのみんなと仲が良くて、彼が常に愛想よく話して場を盛り上げているのを、私は廊下から覗いていた。
多分、彼は興味のない人に言い寄られても優しく笑顔で返すんだろうな。
初めは住む世界が違うと思った。
自分の責任感に追い詰められて、愛想が悪くて友達が少ない、勉強しか取り柄のない私とは正反対な人だって。
でも、彼は勉強も頑張っていた。
離れていたテストの順位も期末テストのときには、三位差にまでなっていた。
もしかしたら同じクラスになれるかもしれないと思って、ちょっと嬉しかった。
そしてそれが叶った高2の春。
彼は私が手を上げる前に学級委員に立候補した。
本当にびっくりしたし、跳び上がりたくなるほど嬉しかった。
学級委員の任命のあいさつをするときに、彼の隣に立っていただけでも、心臓の音がどうしようもなく頭に響いて、彼の声なんか聞こえなかった。
これを機に仲良くなろう。
私はそう心に決め、彼に話しかけた。
最初は私を不信がっていたけれど、流石は勝間くん。初めて話す私にも優しく合わせて、握手までしてくれた。
そして何より、私が話しかけてくれるのが嬉しい、と言ってくれたときが一番心躍った。
次は連絡先、交換できるといいな。
私は頭の中で、彼の笑顔と言葉を何度も再生しては悦に浸っていた。
「私のこと、勝間くんはどう思ってくれてるのかな……」
「ああ。本当のことを金城さんに伝えないと……」
――二人が思いを打ち開け合い、彼女が自分の『憧れ』が『好き』の感情であること、彼が人を惚れさせる能力なんて持っていないことに気づくのは、もう少し先の話だった。
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