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  作者: 深江 碧
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 アサは青年をよく助け、薬草摘みだけでなく患者の面倒も見るようになった。

 やがて青年とアサは子宝に恵まれて、二人はとても喜んだ。




 それから十数年の時が経ち、年頃になった娘はある青年に求婚される。

青年はヨルに似た、実直で真面目な青年だった。

娘が結婚する前の夜、ヨルは庭の桜を眺めていた。

「父さん」

 娘に呼ばれ、ヨルは振り返った。

「あぁ、ヒルコか」

 ヨルは娘を手招きする。

 娘は緑の目を伏せて恥ずかしそうに隣に座る。

「明日はお前の結婚式だな」

 ほんの少しの寂しさと、うれしい気持ちからヨルは娘の横顔を見る。

 娘は声を立てて笑う。

「結婚すると言っても、すぐそばに住むのだから、大した違いではないわ。歩いてすぐのところよ。父さんも私の生活が落ち着いたら訪ねて来てね」

 ヨルの肩をぽんと叩く。

「母さんたら、私の結婚道具を用意するのだと言って、朝からずっと蔵に籠りっきりなのよ。今日は朝からろくに母さんの顔を見ていないわ。結婚式前日なのに、嫌になるわ」

 ヨルは娘の幸せそうな顔をして、ほっと胸をなで下ろす。

「僕は、良い父親だったかな? 何分僕はこんな体だから、夜にしか外に出られない。色々と至らないところもあったと思う」

 二十年近く前にかつて命を助けてもらった少女に問い掛けるようにヨルはつぶやく。

 娘は緑の目で父をじっと見つめている。

「当たり前じゃない。父さんと母さんの娘に生まれて、私はとても幸せだったわ」

 それから少し考える素振りをして、くすりと笑う。

「確かに、お前は少しばかり娘に甘いところがあって、父の威厳と言うものには欠けるがな」

 庭に生えている夜桜を眺めていたヨルは、驚いて娘を振り返る。

 娘は悪戯っぽく笑う。

「しかしかつて私が受けられなかった親の愛情を、一心に注いでくれた。お前は私を強く求めてくれた。だからこそ、私は山神の束縛を離れ、お前の娘として転生することが出来たのだ」

 ヨルは唖然として娘を見つめている。

「なあに、父さん。私の顔に何か付いてる?」

 小首を傾げる娘に、ヨルは慌てて首を横に振る。

 ふっと長い息を吐き出す。

 彼女の言葉を聞いて、長年抱え込んでいた重荷がようやく肩から降りたようだった。

「僕も、お前の父親になれて幸せだったよ」

 父と娘はそろって月に照らされた夜桜を眺めている。

 そのうちそこに母も加わり、三人は夜が更けるまで桜を眺めていた。


おわり 

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