引きこもりは光で溶けません
“占い部”と書かれた看板は、薄紫色の下地に赤い文字で描かれている。
入った瞬間に呪われそうだ、そう百菜は思うが一応はポイントがどの程度たまっているかは知りたい。
なので軽く部室のドアを叩くと、
「はーい、入ってま~す」
そんなか細く今にも倒れてしまいそうな女性の声が聞こえた。
声自体はとても綺麗なのだが、逆に不気味である。
けれどいつまでも立ち止まっているわけにもいかないので百菜は、その扉を横に引いた。
ガラガラと大きな音を建てて開くと、中は暗幕まで閉められていてこれから映画か何かが始まるのだろうかと思うほどに暗い。
そしてそこら中に棚のようなものが置かれ、水晶球や藁人形やら、『暗黒魔術』などのどこか中二病をくすぐるような本が置かれている。
いかにもそれっぽい雰囲気だ。
しかも幽霊のつもりなのかそこら中に白い影がふよふよと飛んでいて、時々、キャキャッと笑い声が聞こえる。
文化祭か何かのイベントで、お化け屋敷でもやればいいんじゃないかなと百菜は思う。
とはいえここも教室に変わりはないので、天井には点灯されていない蛍光灯が付けられていて、その部屋の中央に机は教室に並べられたのと同じ机が一席あり、そこには一人の女の子が座っている。
設定上はこの学校の生徒なのだろう、なので百菜と同じ制服を着ている。
そんな彼女は目元が隠れるように黒いレースのベールをかぶり、机の上にもそれと同じ柄のレースをテーブルクロス代わりにしてその上に水晶球をおいている。
怪しい雰囲気全開だなと思いながら百菜は紫色の髪の彼女を見る。
そういえば主要らしいキャラにはそこそこ黒とは違った色をしている。
見栄えを良くするためにそうしているらしい話を何処かで見た気がしたが、そこは大した問題ではない。
ただ部屋が少し埃っぽい気がしたので、早速百菜は彼女に近づいていくと、
「いらっしゃいませ。ようこそ“占い部”へ。貴方の願いは何ですか? くすくす」
「窓、開けていいかしら」
「え?」
“占い師”らしい彼女が疑問の声を上げたが、こんな空気の悪い部屋にあまりいたくない。
というよりも今まで空気の質など感じもしなかったのだが、この部屋に入った瞬間百菜はそれを感じたのだ。
なのでまず窓際にいき、カーテンを開いて……眩しい陽の光が差し込むと同時に、この部屋の主である“占い部”の女の子が悲鳴を上げた。
「いやぁああああ、溶けるぅうう」
「……いや、引きこもりでも溶けないでしょう」
「うう、早くカーテンを閉めて下さい」
そんな彼女は初めて顔を見せた。
金色の瞳の美少女で、プルプルと涙目でいる。
浩斗がおおっと唸りながら嬉しそうに彼女の様子を見ているが、それを見つつ百菜は彼女を指さし浩斗に、
「ねぇ、この子のキャラクターデザイン自体が結構いいから、この子が主人公でもいいんじゃないの?」
「いやいやいや、百菜でも十分主人公だ。そもそもこのゲームはこういったイベントのキャラも可愛いのが売りでもあるんだから。ほら、女の子って可愛いのが好きだし」
「確かに可愛いキャラは好きかも、目の保養という意味で。でも後ろのほうでお化けが陽の光にプルプルしているからカーテンを閉じましょうか」
そうしてカーテンを閉めた途端すくっと“占い部”の少女が立ち上がる。
ここで開けたりしても面白そうだな~と思いつつも話が進まないので百菜は、再び彼女の前にやってきて、
「まっず、どの程度経験値がたまったかを見たいわ」
「恋愛ポイントですね、現在はこのようになっています」
そう彼女が告げると、彼女が差し出した手の平に四角い画像のようなものが現れて、そこに百菜のレベルと恋愛ポイントが有る。
そこには変換されたポイント項目もあるが、当然ながら現在は0だ。
そしてレベルを見ると、8と書かれている。
かなり初期の状態なんだなと認識しつつ、百菜は、
「最大どの程度までレベルは上げられるの?」
「そうですね、25です」
「……余裕、かな?」
「だといいですね」
楽しそうに少女が言うので、百菜は窓際に行こうとすると彼女は慌てて、
「そ、それでこのポイントは変換されますか? 今なら、これらに変換できますが」
そう言って彼女が示したのは、赤い縁のメガネ、スコープ、補充の武器に使う弾である。
そういえば好き放題使ったが、今の残弾は何発だろうと思ってどうすればいいのかなと思っていると、目の前に画面が浮かび、横方向に七色に輝くゲージのような物が半分に減っているのが分かる。
丁寧に上の部分に残弾と書かれていて、それを見ながら百菜は随分と使ったなと思って、ポイントを見る。
弾を手に入れてもまだポイントはあまりそうだ。
「武器の弾を一つ。これって、余分に持ち歩けるのかしら」
「アイテムトートバックを交換していただけましたら、大丈夫かと。ただ、現在のポイントでは交換出来ません」
「そうなんだ。……だったら武器強化よね」
そう言ってスコープを選択しようとした百菜は、そこで浩斗に止められた。
どういうわけか彼は真剣な表情で、
「百菜、眼鏡にしよう、眼鏡」
「眼鏡になにかいい効果があるの?」
「三つ編みと眼鏡でドジっ子メガネっ娘に!」
「スコープください」
「いやぁあああああ」
浩斗が悲鳴をあげていたが、百菜は無視した。
もう少し危機感持ちなさいよと思いながら百菜は、その分私がしっかりしないとと思う。
そこで“占い部”の少女からスコープをもらった百菜は、早速手持ちの武器に装備してみるが、
「……機関銃にスコープはおかしくない?」
「ゲームにそこは突っ込んだら駄目だよ。でもどんな効果が付随したんだ?」
「……射程距離が上がったみたい。しかもレベルが上がるのに比例してその距離が増えていくらしいわ」
「へぇ、じゃあ相手の見えない位置から仕留められるかな」
「と言ってもせいぜい十メートル程度伸びただけだから、それほど遠くからはまだ無理ね」
「そうなんだ。じゃあもう少し装備を改善できないか見ようよ」
そういえば装備品のようなものも交換できるらしいと思い出す。
先ほどのアイテムトートバックのようなアイテム以外に何があるのかと思っていると、“占い部”の少女がにぃと唇を歪めて笑う。
それと同時に出てきた一覧の装備品と交換ポイントだが、
「どれもこれもポイントが高すぎない?」
「レベルを上げましたら、値段も比例して小さくなります」
「……なにそれ」
「ご自身の価値を上げれば恋愛ポイントの価値も上がるシステムです。つまり頑張ってレベルアップして女を磨きましょう」
「……何だか国が発展すると貨幣価値が上がるみたいな感じで変な気がするけれど、これから頑張るしか無いわね」
やはりあのアイテムを複数持って入れておけるアイテムトートバックは欲しいと百菜は思う。
この“占い部”にいちいち来なくても弾が補充できるのだ。
そうすればここに来る時間を、
「敵の殲滅に回せるわね」
「……百菜、もう少し男を落とすとか素敵な言い方があると思うんだ」
「私達の目的はゲームから脱出する事なんだから、別にいいじゃない。どのみち倒すには変わりないんだし」
「うう……なんか違う気がしてしかたがないんだよな」
「それにそもそも“占い部”で装備が手に入る方がおかしいでしょうが」
「え? 恋に占いはつきものじゃないのか?」
「……花びらを抜くのが定番ね。さてと、後は何かあったかな」
「もう特にはないと思う。あ、クジだけ引いていったらどうだ? 一日一回だけだし」
「じゃあ、クジをお願いします」
そう百菜が告げると、“占い部”の少女がすっと一輪の花を取り出して、
「では、好きな花びらをお選び下さい」
そう白い花を突き出しながら、“占い部”の少女は告げたのだった。




