男の扱いに慣れていないか?
“占い部”を目指していた百菜だが、
「……何なの? あの毒の抜かれた優しい微笑みは」
「百菜の頭を撫ぜて、がんばれよ、とか……女の子はああいうのが良いのか?」
「……但しイケメンに限る」
「なるほど、俺はイケメンだから彼女ができたらそうすればいいんだな!」
キリッと笑う浩斗に、百菜はそれ以上何も言わなかった。
ふざけている男の相手をしても、更に調子に乗ってふざけるだけだと知っているからだ。
なので百菜は適当に浩斗を受け流してあしらっていたのだが、
「……百菜、男の扱いに慣れていないか? まさか……男心を弄ぶのが得意とか?」
「そんな悪女がいるならお目にかかりたいわよ。単に男の兄弟がいるから、大体分かるのよ」
「……こんな枯れ果てた反応は俺は求めていないのに……」
浩斗が嘆き出すが、すぐに復活するのは短い付き合いで分かっていたので百菜が放置していると、そこで浩斗が百菜の黒髪に触れた。
その黒髪をじっと見て、しきりに頷く。
「百菜、この黒髪を三つ編みにしないか」
「? このゲームではそんなのも出来るの?」
「ああ、演劇部に行くと、衣装やかつらやらが買えて、学校外での特殊イベントに必要だったりするらしい。後は学園祭といった時期的なイベントとも関連があるそうだ」
「へぇー、このゲーム随分と凝っているんだ。ただの馬鹿ゲーだと思っていた」
「そうそう、地味に奥が深い作りになっているんだよな。それで三つ編み……」
そんなことを話していた所で、百菜達は目の前に仁王立ちする一人の女性……少女に出会ったのだ。
彼女の名前は、峰由香里。
ウェーブのかかった長い赤い髪に、青い瞳が挑戦的に煌く。
正直百菜には気後れしてしまうタイプの女性像だ。
豊満な胸を持つ魅力的な体は、どう考えても百菜と同じ年には思えない。
そんな彼女は周りに少女達を従えている。
お金持ちの令嬢設定なのかもしれない。
そんな彼女は周りの取り巻きのような少女達にそこで控えるように告げてから、ゆっくりと百菜の方に近づく。
何となく気圧されてしまうような彼女だが、
「貴方が木下百菜ね。初めまして、峰由香里ですわ」
目の前にキャラ説明が出ていますとは言えない百菜。
そしてそれゆえにどういった名前なのかも含めて、幾つかの不安要素を感じる設定を百菜は読み込んでいた。
自分はそういった対象になりませんようにと、百菜は心の中で思ったのだが、そこで、
「これから二ヶ月後の、学園頂上決戦に貴方も出るのでしょう?」
「へ? ……浩斗、そうなの?」
知らない情報に百菜は浩斗を問いかけると、浩斗はそういえばと思いだしたらしい。
「それが最終決戦だ。それに勝たないと……負けた相手の恋人にされてしまうエンドに」
「なるほど。でも、由香里さんは出るんですよね? ライバルキャラとして」
そう言いながらも百菜は不安を覚えて仕方がない。
そんな不安を更に煽り立てるかのように、目の前の由香里が微笑み、
「貴方には、由香里って名前を呼び捨てにして欲しいわ」
そう言いながら由香里は、百菜の頬を撫ぜる。
ぞわぞわと、百菜は背中に寒気が走る。
そして今言った由香里の言葉の意味は何ですかと百菜は問いかけたい衝動に駆られるが、必死に抑える。
言った瞬間取り返しの付かないことになりそうというかフラグが立つというか……。なので、
「由香里、ライバルとして貴方には負けない」
「……くす。それでこそ百菜ね。私のライバルにふさわしいわ。……この私の魅力に抗い、かつ、抵抗できるのは貴方しかいないわ」
百菜は、今すぐこの場を去ってしまいたい衝動に駆られる。
うっとりと告げる由香里だが、そこは怒る所でうっとりする場面じゃない、やめてー、と百菜は心の中で叫んだ。
早くいなくなれと心の中で叫んでいると、
「じゃあ、今日は顔みせだけのつもりでしたから、ごきげんよう」
そう言って去っていく由香里。
百菜は、良かったと、心の底から安堵した。
因みに、彼女には百合設定があったのをすでに百菜はしっていて、
「……ターゲット層、何処よ」
「え? 最高じゃん」
嬉しそうな浩斗に百菜は無言で睨みつけ、すぐに嘆息した。
つまり、浩斗のような方達もターゲット層なのだろう。
とはいえ、分かったからといって現状が変わる要因もないので百菜はすぐに思考を切り替えて、
「“占い部”に行きましょう。どうせそこに行かないと道は開けなさそうだから」
そう、百菜は浩斗を急かしたのだった。
“占い部”を目指していたのはいいのだが、そこでふと百菜は、
「浩斗はさっきから三つ編みを勧めるわよね」
「そうそう、三つ編みはいいと思うんだ」
「ついでに眼鏡を付けて、浩斗はピンク色の髪のかつらをかぶるとか?」
「……いや、もしかしたら百菜の知っているのとは別のキャラかもしれない」
「……キャラって言っている時点で、私はやらないからね」
「ええー……ツンデレ? 正直になれない女の子キャラというのもまた……」
よし、放っておくかと浩斗を放置しながら百菜は歩き出す。
それをすぐに浩斗が追いかけてくる。
無言で歩きながらも、百菜は窓から外を眺める。
外では、何やら他のキャラと違ってやけに丁寧に描かれた男性が三人ほど。
女の子がキャーキャーと文字まで飛んでいるのを見て、多分これから倒す相手なんだろうなと百菜は思う。
ついでに、遠すぎてキャラの名前やら能力が把握できない。
そこで、ポーンと鍵盤楽器のような音がする。
「……? フラグ?」
「何か聞こえたのか?」
「鍵盤のような音が聞こえた」
「フラグだな。……窓の外で、あいつらか」
その三人を見て浩斗は、頷いた。
「“スリー・フラワーズ”という学園の美しき花々と呼ばれる男達だな」
「そうなの。でも倒すしか無いんでしょう?」
その言葉に浩斗羽目を瞬かせて呻いた。
「もうすこしこう、イケメンにきゃー、みたいなのが百菜にはあった方がいいんじゃ……」
「私に今、余裕が有ると思う? しかも主人公キャラ。一度負けたらどうなるかわからない」
「確かに負けたらそれでお終いだよな? ……悪かった」
「もう少し気楽にゲームが楽しめたらいいんだけれどね。状況が状況だからしかたがないわ」
答える百菜に、なんだか変わった女の子だなと浩斗は百菜を見ながら、あることを思い出した。
「そういえば一日に一回、“占い部”でクジが引けるんだ。引いた物によってはその魅了ポイントがその日は倍になって手に入る効果があったり、プレゼントが貰えたりするんだ」
「プレゼント……武器とか?」
「それもある。後は相手の魅了(攻撃)によって起こった症状の緩和の道具もあるな」
「確かにあの保険医にメスで攻撃された時はおかしくなったから、そういった道具は欲しいわね。でも戦闘はそれほどしていないからポイントが貯まってないんじゃないかな」
「それは仕方がない。どの道、普通のゲームの場合、後のほうではポイントが沢山もらえて好き勝手に買えるように設定されているだろうから、そこまでの辛抱だ」
「……頑張る」
百菜は呻くように呟いて、目の前にある“占い部”のドアを叩いたのだった。




