どこの裁判所に訴えればいいの?
「律子、良いか?」
民事訴訟法の条文と格闘していると、父親の声がした。
「はーい」
父親が律子の部屋のドアを開けて入ってきた。
「今アニキと電話してな。アニキも良くわかってないようだが、イサン…ブン…カツムコウとか何とかって訴訟らしい」
「遺産分割無効訴訟ね。おばあちゃんが亡くなった時にした「遺産分割」が無効だって訴訟よ」
「さすが法学部だな」
「まぁそのくらいは」
「その訴訟ってどこでするんだ?」
「えーっとね。そういうのを"管轄"って言うんだけど。"管轄"のある裁判所で訴訟するの」
父親は首をかしげる。ちょっと抽象的だったか。
「えーっとね。お父さんたちの遺産分割無効訴訟の場合は。原告は3男伯父さん、被告は長男伯父さん、次
男伯父さん、4男伯父さん、お父さん、の4人になるわけ。住所は、それぞれ東京、富山、京都、静岡でしょ。この条文見て」
第4条1項:訴えは、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所の管轄に属する。
2項:人の普通裁判籍は、住所により、日本国内に住所がないとき又は住所が知れないときは居所により、日本国内に居所がないとき又は居所が知れないときは最後の住所により定まる。
第5条:次の各号に掲げる訴えは、それぞれ当該各号に定める地を管轄する裁判所に提起することができる。
12号:不動産に関する訴え 不動産の所在地
律子は続ける。
「だから、被告の住所の東京、富山、京都、静岡のどこでも訴えて良いことになるわ。不動産は富山だから本件では5条はあまり意味ないわね。次男伯父さん富山だもん。たぶん富山地方裁判所に訴えたんじゃないの?3男伯父さん富山に住んでるんでしょ。原告の3男伯父さんにとってこの中で都合良いのって富山でしょ」
父は条文を覗き込む。
「その5条13号の"登記または登録に関する訴え"には該当しないのか?」
「該当しないわ。本件は遺産分割についてだから、直接登記には関係ないじゃない。それに、登記だって富山だし、検討する意味ないわ」
ふーん、というような顔をする。
律子も習ったわけではないが、条文解釈上はそうだろう。
その他に、合意管轄(11条)、応訴管轄(12条)というものもあるが、父親には言わない方が良いだろう。
混乱させてしまう。
「例えば誰か引っ越したりしたら、どうなるんだ?」
「管轄は"訴えの提起の時"を基準にするのよ」
第15条:裁判所の管轄は、訴えの提起の時を標準として定める。
「裁判所って色々あるだろ?簡易裁判所とか地方裁判所とか」
「その辺については、裁判所法に規定があるの。まぁ基本、地方裁判所って思っておけば良いんじゃないかしら。有名なのは、請求額が140万円を超えないものは簡易裁判所ってやつね。"超えない"だから、140万円は簡易裁判所ってことね」




