悪戯…?
あの手紙の主の事などを考えながら教室に入ると男子は男子、女子は女子で好き勝手に話をしていて僕が遅れて来たことに気付きすらしていないようだった。悪戯をしたのだとしたら男子に違いない。常識的に考えて。しかしその男子の話に少し耳を傾けてみると卒業式が終わった後の予定をどうするかを話しているようだった。
『あいつらの悪戯じゃないのか…?』
手紙の事を直接聞いて確かめたかったがそんな事をすれば絶対に後悔するのは目に見えていたので友達が僕がさっき来たという事を知った時の態度で判断する事にした。
『拓馬おはよー!』
『あれ…裕司今来たの?卒業式に遅刻かよ!!肝が座ってんなぁ〜(笑)』
僕の一番仲の良い友達本上 拓馬がこう答えた。
拓馬も僕と同じくモテる様な顏はしていなかったが女の子には積極的だったし話す事が上手かったからそういう意味ではモテた。そして一途な彼には高1の時から付き合っている彼女が今もいた。そんな拓馬に僕は少し憧れを抱いていた。
周りの男子もやっと僕の存在に気付いたらしくを見て遅刻した事に対して笑っていた。(多分だけど)しかしその笑っている顔は自然であり僕が見る限り何かを企んでいる様に見える友達はいなかった。
『じゃぁ女子か……?いや…そんなはず訳がない…。なんて言ったって女子は男子の様なこんな馬鹿げた事をしようと思わないだろ…。』
と小さく呟いた。それが拓馬に少し聞こえたらしく
『裕司なに一人で喋ってんの?気持ち悪いぜ(笑)』
『あははっ……いや…別になんでもないよ?』
明らかに僕は動揺していた。
『んー…今日の裕司ちょっとおかしくない?何か隠してるでしょ?』
僕はこう言われてみて初めて、
「客観的に見れば今は僕が一番何かを企んでいる様な人間だったに違いない」
とこう思った。(確かにそうなんだが…)
少なくとも見た目でだけれども…。
どうせ怪しまれてるんなら…と僕は信頼の出来る拓馬に手紙の事を話す事にした。
『ちょっと屋上までついてきて!!』
『お、おい!!裕司?卒業式まであんま時間ないぜ…?……行っちゃったし…ハァ……しゃーねぇな…』
そんな拓馬の足取りは弾んでいる様に見えた。
屋上は風が少し強いせいか学校の周辺にあった桜の香りを運んできて気持ちが良くなる。そこには僕と拓馬以外は見当たらない。
『今日学校来たら下駄箱に手紙が入ってたんだよ…』
と言い僕は拓馬に手紙を手渡した。拓馬は手紙をしばらく見てこう言った。
『ラブレターじゃん?しかも名前ないし……まぁ恥ずかしがって書かなかったんだろ。お前どうするつもりなの?』
拓馬は思ったより冷静だった。僕はそんな彼にこう返事した。
『これもしかしたら悪戯じゃないかな…って思ったんだけど…拓馬は何にも知らないよね…?』
拓馬は去年のバレンタインデーの話を知っていたのだ。
『俺は何にも知らないよ。行ってあげなよ!良い思い出作れるかも知れないぜ』
とにやにや笑っていた。
『その顏が怪しいんだけど?拓馬に話したのは失敗だったかな……』僕はいかにも残念な顏をした。
『ばーか!要するにこの手紙は本物だと思うって俺は言ってるんだよ!!』
『え…!?』
『早く行かないと式始まるぜ!俺は先行くからな』
そう言い残して拓馬は行ってしまった。僕はしばらくその場に佇んでいた。
僕にはいまいち拓馬の言っている事が理解出来なかったのだ。




