座敷わらしの回復料理で神様死亡フラグ!?
とりあえず、会社に電話した後、部屋の掃除したのはいいが……。
獅子二匹は、人の姿になって、正座してお茶を啜っている。
起きた緋色は拗ねたようにブツブツと文句を言っている。
それはそうだろう。流石に緋色に同情する。
数分前、なかなか起きない緋色に里桜は泥団子を作ってきて「これで、きっと神様は目覚めますよ!! だって、私は座敷わらしなんです。このお団子は幸運が宿っているはずです!!」
一生懸命作ったのだろう。手や顔、それから着物も若干泥がついている。
お皿には大量の団子が……。
俺は止めようとした瞬間、里桜は遠慮なく大量の団子を緋色の口に突っ込んだ。
そして、泥が入っている水入りコップで泥団子を流そうとした。
緋色は起きる所か、泡を吹いて白目を向いている。痙攣みたいに体が震え出している。
これは流石にやばいと思ったが、何故か眷属の獅子二匹は冷静だ。
二匹は揃って「仕事をサボるからそうなる」「もっとやっちゃって。心が折れるぐらいに」
と、言っていることから、仕事サボって酒を呑んでいた緋色に相当怒っているようだ。
俺は、見捨てることはできないから、里桜を宥めながら必死に緋色の口から泥団子を全て吐かせた。
「えぇっ……!? 回復しないんですか?」
と、里桜は残念そうにしていた。
回復って……なんのことだ?
むせ返る緋色をなんとか介抱していると、ようやく目を開けて、今に至るということだ。
里桜は座布団の上に正座して目をキラキラさせている。
「流石、私が作った料理です!! 回復効果があるんですよ!! 座敷わらしの料理で治癒出来るんです!」
俺は盛大にため息をついた。
「里桜、それ誰に教わったの? 俺は教えてないけど」
「? この間深夜のアニメでやってました!! ヒロインの料理を食べれば回復して、前よりも元気になったって。もしかしたら私にもできるんじゃないかと思って」
回復って、そういう意味だったのか。納得だ。
「そうか。でも里桜の料理は……料理じゃないというか」
言いずらそうにしていると、緋色が口を開いた。
「そもそも食べ物じゃないわい。なんというものを食べさせてくれた。回復どころか死ぬところだったぞ。妾が神だから良かったものの。そもそもこの入れ替わりだって、お前が妾の体を踏んだのが原因じゃろう。踏んだことを許す代わりに体を一時的に貸すという約束じゃ」
いや、そんな約束した覚えなかったはずだぞ。
俺は記憶を遡るが、そんな事はなかったはずだ。そもそも俺の同意もなしに勝手に話を進めたのは緋色だ。
それを緋色は勘違いしただけだ。
「一時的とはいえ、透和様の体を貸すなんて……私は聞いてません!」
「と言いつつも、小さくなった透和を見て、嬉しそうにしてたじゃろう。初々しいのぉ」
緋色はニヤリと笑って里桜の頬を突ついた。
里桜は「あうぅぅ」と言いながらも突つかれた頬をこれ以上突つかれないように手でガードした。
その顔は照れくさそうに赤らめている。
「そ、それは……決して、透和様が小さくなったので持ち運び便利だなとか、食べたらどんな味するかなとか……毛づくろいしたいなとか……そんなこと……思いましたけど!!」
思ったのか。
食べる気だったのか。
そこは嘘でも否定しろよ。素直なのは良いことだが、そこじゃない。
俺は肩を竦めて咳払いした。
このめんどくさくて大雑把で常識が全くない神様とこれ以上一緒に行たくなくて、話を変えた。
「……緋色様は仕事があって、こんな所まで来たんですよね? だったら、こんな所で道草を食ってないで早急に取り掛かった方がいいかと」
「ふん、仕事仕事と……。妾は今、非常に重要な休息を取っている最中じゃ。少しぐらい道草を食ったところで、世界が滅びるわけでもあるまい。妾の事は呼び捨てて良いし、敬語もいらん」
神様──緋色は、まだ少し泡の跡が残る口元を拭いながら、ふて腐れたようにお茶を啜った。
獅子二匹は揃って「またそれか」と小さくため息をついている。
里桜はというと、さっきまでのキラキラが少しトーンダウンして、申し訳なさそうに俺の方をチラチラ見ながら座布団の上で小さくなっていた。
「ご、ごめんなさい透和様……。でも本当に、回復すると思ったんです……」
「里桜の気持ちは嬉しいけど、次からはちゃんと確認してからな?」
俺がそう宥めると、里桜は「は、はい……!」と元気よく返事したものの、すぐにまた「でもアニメでは本当に回復してたんですよ……?」と小声でブツブツ言い始めた。
その様子を見ていた緋色が、くすくすと笑いながら口を挟む。
「まあまあ、里桜も悪気はないんじゃろう? それにしても……小さくなった透和を食べたらどんな味するかなとか考えていたとは、なかなか大胆じゃのう」
「緋色様っ! それはっ……!」
里桜の顔が一瞬で真っ赤になる。慌てて両手で顔を覆ったけど、指の隙間から俺の方をこっそり覗いているのが丸わかりだった。
俺は頭を抱えたくなった。
そもそも、小さくなったといっても、俺の体じゃなくて緋色の体なんだけど。
心が入れ替わったんだよなぁ。
二人は、そんな事は気にしてなさそうなんだけど。
……里桜はそういう子なのだと定着してきている自分が恐ろしい。
緋色は、ようやく本題に戻る気になったらしい。
湯飲みを置いて、口を開いた。
「まあいい。確かに仕事の話じゃったな。……しかし、こんなところで話すのも何じゃ。とりあえずついてこい」
「ん? なんかおかしくないか……。俺と里桜は関係ないはず」
「何を言うか!? これも何かの縁じゃ。ということで、行くぞ!!」
仕事を手伝うなんて言っていない。縁は縁で間違ってないが、俺は今日はぐっすり寝たい……。
どこぞの神様が人の体で遠慮なく酒をガバガバ呑んだせいで、二日酔いが酷いんだから。
だが、俺は断れない性格なのもあり、渋々付き合うことにした。
◇◇◇
バスと徒歩でおよそ二時間半。
緋色に連れられて来たのは一戸建ての新しい家の前だった。
「この家がなに……」
困惑している俺をよそに、緋色はチャイムを鳴らす。
しばらくしてから出てきたのは、市ヶ谷一清だった。
「あれ? 透和じゃん!! どうした?」
目が合うと、嬉しそうに目を細め、笑いかけて来た。
「いや、なんつーか。たまたま近くを通りかかってさ、顔見たかったし」
「なんだよそれ。昨日、同窓会で会っただろ。変な奴だな。まぁ、いいや散らかってるけど入りなよ」
一清は、俺を招き入れた。
俺は「お邪魔します」と小さく言い、中に入った。
背後でゴソゴソと入ってきているが、一清は見えないから知らないだろう。俺の背後には神様とその眷属二匹、それに座敷わらしがいることに。
なんというか、ものすごい面子だ。
リビングに通された俺は一瞬、言葉を失った。
一清に促され、ソファーに座った。
テーブルに置かれた二つのカレーを見つめる。片方はまだ湯気が少し立っている。もう片方は完全に冷めきって、表面が固まり始めている。
一清は俺の視線に気づいたのか、照れくさそうに頭をかいた。
誰も座っていない椅子に手をかける。
「じゃ紹介する! 俺の妻の香苗だよ」
「……」
一瞬、思考が停止した。
どういうことだ?
紹介するも何も、そこには、誰もいないだろ。
もしかして、俺が見えないだけでいるのか?
俺の後ろにいる緋色が小さくため息をついたのが聞こえた。
「……今回の妾の仕事はのぉ。市ヶ谷一清に現実と向き合わせることじゃ。霊体になっている香苗が頼み込んできたのじゃ」
「……は?」
嘘だろ。
俺は、嬉しそうに紹介する一清と空の椅子を交互に見た。
そんなことって、ありえないだろ。
俺は、現実を受け入れられなくて……絶望した。




