第84話 『 コンプレックス・モンタージュ 』
――〝下位互換〟。
過去に見たことがある人間であればその者と同等の能力・戦闘力を顕現し、同時にその人物の容姿や記憶まで模倣する能力である。
一度コピーすれば何度でも顕現することが可能であり、それらに危険性や対価は存在しない。
――しかし、制約は三つあった。
一つは、一度〝下位互換〟で模倣した本人には絶対に勝つことが出来ない制約。
一つは、一度 模倣し、削除した人物は二度と模倣出来ない制約。
一つは、新たに模倣するには一つ前の模倣を削除しなければいけない制約。
(僕はジェロとミハイルを倒す為にクリスちゃんを顕現して、二人を殺害し、後にジェロを模倣&顕現した)
……それはつまり、僕は生涯クリスちゃんに絶対に勝てなくなった上に、二度とクリスちゃんを顕現出来なくなったということであった。
(……故に、この能力は便利やけど、慎重に使わなあかん)
下手に使えば、絶対に勝てない相手を増やしてしまう上に、模倣出来る人選が限られてしまう恐れがあるのだ。
(だから、従事長やメイド長の力はメチャ強いから大事に残してたりするんや)
その二人の力はいつか立ちはだかる強敵の為に、残していた。
強力かつ便利でありながら、慎重に使わなければいけない力。
……それが僕の能力であった。
「……さて、情報も充分収集したし帰ろうかにゃー」
態々、こんな危険な地まで足を運んだのは情報収集の為であった。
ついでに、ゼロやノエルといった強者をストックしておきたかったというも目的であったりするが……。
見るだけでストック出来るのもこの能力の長所であった。
僕はジェロの姿に変化し、窓から外へ出て、夜の空を飛翔する。
月は大きくて、
星もよく見えて、
任務も遂行できて、
「最高の夜やな♪」
僕は口笛を吹きながら、夜のドラコ王国を飛行する。
街を越え、砂漠を行く。
「ぶえっくしょんッッッ……! 夜の砂漠はよう冷えるなぁ」
静かな砂漠に僕のどでかいくしゃみの音が響き渡る。
「……………………おや?」
僕は遠目で人影のようなものを捉えた。
(……この目、見え過ぎやろ)
その人影との距離は裕に2~3キロは離れていたが、顕現元のスペックが良いのか、目を凝らせば人影の正体を知ることが出来た。
「――伊墨……甲平?」
……そう、人影の正体は砂漠を駆け抜ける伊墨甲平であった。
(……まさか、自分とこの姫さん取り返しに行こうとしとるんか?)
ペルシャ嬢の影武者がベルゼブブ家に拐われたことは、奴等の会議で聞いていた。
が
「…………一人で戦うんかい」
ベルゼブブ家を?
〝超越者〟を?
「……おもろ過ぎやろ」
僕は夜の砂漠を駆け抜ける忍者くんを見て、思わず笑ってしまった。
暗いせいで表情まで窺うことは出来ないが、必死な表情が目に浮かぶ。
「精々気張りなや、忍者くん」
僕は彼から目線を逸らし、改めて前へ進んだ。
僕は傍観者。
彼の戦いがどうなろうが関係なかった。
……帰還する僕と戦場へ赴く彼、二人の運命が交差するのはまだ先の話であった。




