第83話 『 侵入者 』
――ベルゼブブ邸。
「……まさか八名も殺られるとは、ペルセウス王国の軍事力には驚かされましたね」
……ノエルが紅茶の淹れられたティーカップから口を離し、愉しげにそう言った。
「しかも、その中には〝超越者〟であるギルもいたとは、彼等を甘く見すぎていたのかもしれませんね――ゼロ様」
ノエルは偉そうにソファーに寝そべるゼロに意見を求める。
「あぁー、〝超越者〟が殺られるなんて五年振りぐらいだったかもな」
「あの時もペルセウス王国との戦争でしたよね……確か相手は――センドリック=オルフェウスでしたか」
……まさか、こんな所でペルセウス王宮従事長の名を聞くとは思わなかった。
「……あのジジイ、今度会ったらブチ殺してやるさ」
「それは楽しみです」
ゼロが狂暴に笑み、ノエルは優雅に微笑んだ。
「……それで今後の方針ですが皆さんは何か意見はありませんか?」
ノエルが他のベルゼブブの者に意見を求めた。
「八名も減ったんだ、小隊の増強がしたいと思うのだが」
誰かが意見を述べる。
「残念ですが、小隊以外のベルゼブブの血族51人の中で戦力になりそうな人材はいませんね。素質がありそうな人材でも物になるのは後2~3年は掛かるものかと」
ノエルが大袈裟に肩を竦めて、溜め息を吐く。
「ならば、ドラコ王国に戦争の数を減らすように進言した方が良いのでは……こちらも九名で戦うのは少しばかり厳しいぞ」
「ヘッヘッヘッ、オラは別に沢山暴れられた方がいいんだけどなー」
そう能天気に笑うのはビィドル=ベルゼブブである。
「……ビィドル、話が逸れるので黙ってくださる」
「すまねェ、すまねェ。オラ、難しい話苦手なんだよなー」
『……』
……なら話に入ってくるな、と一同からの視線がビィドルに集まった。
「はーい、意見ありまーす!」
挙手をして、沈黙を破ったのリゼッタ=ベルゼブブであった。
リゼッタはゴシックなデザインのドレスを身に纏い、可愛らしい少女の姿をしていた。
「リゼッタちゃんは別に何も変える必要無いと思いまーす」
「その心は?」
ノエルがリゼッタの発言の意図を言及する。
「今回殺られたのは所詮、八位以下の人達が基本でしょ、〝超越者〟が六名残っていれば絶対に負けないと思いまーす」
「……一応、今回の死亡者にギルもいるのですが」
「知らなーい、油断してたんじゃないの」
「……」
リゼッタのテキトー過ぎる発言にノエルが苦笑した。
まあ、ノエルの気持ちもわからなくもない。
この人達、発言が脳筋で会議になっていなかった。
(……てか、この人ら個性や主張が強すぎて全然まとまあらへんやないか)
ここにいる〝超越者〟は六名。
小隊長、ゼロ=ベルゼブブ。
参謀、ノエル=ベルゼブブ。
脳筋男、ビィドル=ベルゼブブ。
生意気幼女、リゼッタ=ベルゼブブ。
鎧の大剣使い、バルト=ベルゼブブ。
妖艶な淑女、ルシア=ベルゼブブ。
……装いも性格もバラバラで、統制感の欠片もなかった。
――しかし、強い。それは手合わせしなくても佇まいや魔力でわかった。
(……よう、クリスちゃんは一人殺れたなぁ)
ギル=ベルゼブブを倒したクリスちゃんに、僕は素直に感心した。
「 俺もリゼッタの意見に賛成だ 」
ゼロがソファーから体を起こし、リゼッタの意見に同意した。
「確かに今回の戦争で八名も殺られちまったのは正直誤算だったが、ドラコ王国に弱味を握られるのも避けたいところだ」
ドラコ王国は完全にベルゼブブ家に屈しているものかと思っていたがそうでないようであった。
「俺達の衣食住が奴等から補われている以上、嘗められたりすれば後々不利なことも起きるだろう」
「んん? そんときはぶっ殺しちまえばいいんじゃねぇのか?」
「アホか、ここよりも待遇がいい国探すのも楽じゃねェんだよ」
ゼロは脳筋ビィドルを諫め、更に話を続ける。
「それに早急な兵力増強が出来ねェなら、俺等が捕食して強くなった方が早ェだろうが」
『……』
一同がゼロの発言に沈黙する。それは肯定の沈黙であった。
……このゼロという男、決して馬鹿という訳ではないようである。
(……この統制感の無いメンバーを纏めるとは、流石はベルゼブブ家最強やな)
僕はゼロ=ベルゼブブという男の評価を改めた。
この男、戦場では全てを喰い殺す狂人であるが、一度戦場から離れれば指揮官として顔も見せた。
「……貴重な御意見ありがとうございます、ゼロ様」
ノエルはゼロに一礼し、他のメンバーの方へと向き直る。
「皆さんも他に意見がなければ今回の集会は解散したいのですが、宜しいでしょうか?」
『……』
肯定の沈黙。
可決。
……そして、集会は解散となり、一同は各々の部屋に戻るのであった。
……………………。
…………。
……。
「 はあ~~~~~~~っ、しんどー 」
僕は部屋の扉を閉め、糞でか溜め息を吐いた。
「バレたら死亡確定とかキツすぎやねん」
――第十三位、ジェロ=ベルゼブブ
……それがこの身体の持ち主の名であった。
「メッチャ緊張した、緊張し過ぎて顔戻るかと思ったわ」
僕は部屋の鏡を覗く。
「 早く帰って会いたいなぁ――ボス♡ 」
……そこにはロキ=キルシュタインの姿が映っていた。




