56話 戦争の始まり
イヅル国初代国王ヒイラギ・イヅル
魔族のくびきを終わらせ、人の時代を作り上げた解放王
史上唯一、人類統一を果たした全ての国々の祖
彼の子どもたちによって彼の王国は分割された。
統一国家は解放王のわずか一代で終わりを告げ、群雄割拠の時代が始まる。
血縁で結ばれたはずの王達は、血で血を洗う戦いを繰り広げた。
長く続く戦乱の時代。
多くの国々が生まれ、そして消えていった。
人々は神に祈る、戦乱の終わりを
人々は乞い願う、英雄の出現を
そして今、人々の声は天に届く
人の世界に残る国々はわずか三カ国
”聖王国”
現存する最古の人類国家
人間界の盾を国是とする軍事大国
人も魔も、攻め込むもの全てを殲滅する
”ヒュドラ連邦”
始まりは小国の寄せ集め
死に物狂いの生存戦略が生んだ国家連合
生への渇望は滅びかけの国を人類最大国家へと成長させる
”ルゥルゥ王国”
世界最古の国家を継承した世界で最も新しい国
多くの国々を従える、王の中の王が治める国家
奇跡を起こす英雄王は、今新たな伝説の幕を開ける
ルゥルゥ王国国王リク・ルゥルゥの全世界に向けた宣戦布告によって人類統一戦争の火蓋は切って落とされた。
この戦争に勝利した者が人類の王となり、大魔王と戦う宿命を背負う。
戦乱の時代を終わらせるのは、史上最大の大戦争。
戦争を終わらせるための戦争が、今始まった。
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そんな話を寝起きに聞かされ、俺は絶望に打ちひしがれていた。
魔法国から帰ってきてすでに三日。
世界中に宣戦布告を行ったという事実に打ちのめされ、三日三晩寝込んでしまっていたのだ。
初めて魔法を使ったということで体力的に消耗していたこともあったのだろう。
アルカがずっと治癒魔法をかけてくれていたらしいが、最大の原因は精神的なものだったため回復するのにかなりの時間がかかってしまったようだ。
朦朧とする意識の中、「みんなにはいつも通り任せると伝えておいてくれ…」と言ったことは覚えている。
そしてカルサは俺の言葉をそのまま伝えてくれていた。
その結果が冒頭の話につながる。
俺が宣戦布告をしたということで、みんな俺が戦争を望んでいると考えた。
だから俺の「いつも通り任せる」という言葉が「戦争準備を整えろ」という意味にとらえられてしまったわけである。
とんでもない誤解だ。
むしろ宣戦布告は間違いだったと火消しに走って欲しかった。
しかしそもそも俺が調子に乗って大言壮語を吐いたのが原因だし、ちゃんと事情も説明せずに勝手に寝込んでしまったのだからみんなを責めるのは筋違いというものである。
自己嫌悪で死にそうだが、もはや何もできはしない。
全てはもはや手遅れ。
俺にできるのはミサゴとジェンガとボードが意気揚々と現状について報告するのをただ淡々と聞くことだけだ。
「連邦は西に集結させていた軍を東へと大移動させておる。魔軍と魔法国の漁夫の利を狙って負ったようだが、当てが外れて我が国へと攻め込む腹であろうな。聖王国、叔母上が相変わらず傍観を決め込んでおる以上、まずは連邦を叩き潰さねばならぬ」
自分の叔母と戦う可能性があるのに、ミサゴの顔はやる気に満ち満ちている。
「すでに我が国、そしてリク様に忠誠を誓った各国の王達の軍を再編成して迎撃準備を開始しております。連邦は数では我らの倍は下りませんが、決してリク様の名に泥を塗るような真似はいたしません。我らの力、やつらに見せてやりましょう!」
倍の敵…。
戦う前からすでに絶望的じゃないか。
しかしジェンガは元気いっぱいである。
「先程申し上げましたとおり、これが人類最後の戦争になると国民は高揚しております。志願兵は続々集まっており、教導隊の数が足りなくなっているほどです。兵の数が増えれば兵糧が不安になるところですが、昨年が豊作だったこともあり、心配無用にございます。リク様のご期待通り、右大臣のマンカラが全て滞りなく済ませております」
うちの国民がそんなに戦争好きなんて知らなかった…。
ボードも珍しく興奮しているようだ。
言いたいことは多々あったが、全て俺の自業自得なのでひたすら黙って聞いていた。
俺が難しい顔をしている隣でカルサは申し訳なさそうにしている。
自分が放送魔法の範囲を広げすぎたとずいぶんと反省しているらしい。
全ては俺のおごりが招いたことでカルサは一切悪くないと何度も伝えたのだが、解決までにはもう少し時間がかかりそうだ。
ふと気づくと三人が黙って俺の顔を見つめている。
そんな難しい顔してたのかな?
「お館様、申し訳ございません」
突然ボードが謝ってきた。
難しい顔を怒っていると誤解したのかな?
別に怒る理由なんてないのだが。
「お館様のご期待に答えるべく我らの全力を尽くして参りましたが、至らぬ点があったのかとお見受けいたしました。どうか愚昧な我らにお館様のお知恵をお貸しいただけますようお願い申し上げます」
そういう誤解か!
俺が「いつも通り任せた」と言ったのに、その結果が期待以下で怒っていると思わせてしまったわけだ。
俺の期待してたことと方向性は全く逆だが、やってくれた内容は確かなものだ。
少なくとも俺にはできるとは思えない。
しかし今更そんなこと言っても庇ってるだけに思われるだろうし、そうだな…。
「西の方は、どうなっている?」
なんとなく話題に出なかったところに触れてみる。
すると三人共難しい顔をした。
お、もしかして正解?
「すまぬリクよ。さすがに連邦内部については情報は入手できているのだが、連邦の支配地域の先、西方についてはこの三日間では有効な情報は得られておらぬのだ」
正解だったようだ。
しかし三日間でそれ以外ほぼやってくれたことの方がすごいだろう。
「魔法国が健在なことは間違いない。そして西方諸国をまとめあげており、それら全てがリクに臣従を誓っていることもわかっている。ただ如何せん連絡手段もなくてな…」
マジか。
なんで三カ国?魔法国は?とか思っていたのだが、うちの国の一部にカウントされていたのか。
馬路倉、お前にいったい何があったというのだ。
これは自分で確かめに行くしかない。
ついでに現実逃避して来よう。
「移動手段ならば、カルサがいれば問題ない。だろ?カルサ」
「へ?え、ええ。もちろんいつでも行けるわよ、兄様」
「ついでに魔法国とうちの国を転移魔法陣で結んでこよう。これで連絡手段についていちいち悩む必要はなくなる」
三人が「おお!」という顔をしている。
それぐらい気づいてたろうが、俺が前回何もしてこなかったから深い事情があるのだろうとか難しいこと考えていたのだろう。
ごめんなさい。すっかり忘れてただけです。
「宮殿内部に転移専用の部屋をつくり、そして都の郊外に大規模転移魔法陣を設置する。前者は定時連絡等少人数用で後者は軍用だ。これで東西で援軍のやり取りも容易になるだろう」
おお、我ながら名案。
「素晴らしい!前線にも魔法陣を配置すれば兵の移動を瞬時に完了させることができますね!」
「移動路に兵糧を準備する必要がなくなり、兵糧を拠点に集中させることが可能になります。いや、むしろ安全な後方に兵糧を配置すれば、兵站部隊の防衛も不要になるでしょう。兵站に革命が起きます!」
「西方は今がら空き。そこから攻め込めば連邦を背中から突くことができる。やつらも東西で連携ができるとは思っているまい。面白いことになってきたではないか!」
と思ったらもっとすごい案を三人が出してきた。
そうか、そもそも戦争のやり方が変わってしまうかもしれないのか。
そんなこと一切思いつかなかったのだが、なんか俺が考え出したっぽい雰囲気になっている。
へたに否定せず三人で話させた方がいいアイディアが出るっぽいので放って置こう。
とりあえず俺は魔法国へ向かうのだ。
「やはりお前たちがいれば安心だ。細かいことは任せた。俺はカルサと西へ行ってくる」
魔王の件もあるしね。
「承知いたしました。非才な身でございますが、全身全霊を尽くして参ります。どうかお気をつけて」
「うむ。すべて任せた!」
こうして俺はとんぼ返りするがごとく魔法国へと向かう。
すでに戦争始まってしまった。
俺が始めてしまった。
もう後戻りはできない。
それならもう最後まで、やってやろうじゃないか。
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「兄様、その、本当にごめんなさいね…」
転移魔法陣を描きながらカルサがまた謝ってくる。
これで何度目だろう。
二人になるとすぐにカルサは謝ってくれるのだ。
俺は何も答えずずんずんとカルサに近づき、ギュッと抱きしめた。
「に、兄様?」
「カルサは何も悪くない」
ガシガシと頭をなでる。
髪がサラサラしてて柔らかい。
「でも…」
「調子に乗った俺が悪い。お願いだから、これ以上自分を責めないでくれ。責めるなら、俺を責めてくれ」
カルサがギュッと抱きしめ返してくれる。
「わかった。もう責めない。だから兄様も、もう自分を責めたりしないでね」
む。見破られていた。
もしかして俺が自分を責めないようにと謝ってくれていたのだろうか。
そんな俺を見てカルサが笑う。
「兄様のことなんてお見通しなんだから」
そして今度はちょっとジト目になる。
「わかったら早く魔法陣から出ていって。兄様の足跡を消さないと」
下を見ると、俺は思い切り魔法陣を踏んでしまっていた。
これでは完全に書き直しである。
ごめんなさい!
「いいのよ、兄様。二人で、みんなで、がんばりましょ」
はい!
第四章の始まりとなります。
楽しんでいただけるようがんばります。
新章を機にタイトルを大幅に変えてみました。
また戻したり変えたりするかもしれません。わかりづらく、申し訳ありません。




