57話 魔法国再び
前回魔法国に来たときは兵士に囲まれていた。
初訪問だったし、そりゃ警戒もするだろう。仕方がない。
しかし今回はさすがにそんなことないはずだ。
というか馬路倉の部屋に直通だからそもそも彼女しかいるはずない。
そう考え、俺は安心していた。
だから失念していたのだ。
自分が女子の部屋に直行しようとしていることに。
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転移が完了し、目の前に広がるのは全面ガラス張りで中央に天蓋付きのベッドがある魔法王の部屋。
そのベッドの横には着替えをしている半裸の少女がいる。
馬路倉だ。
彼女は女子高生のときに異世界転移をし、そのときから外見が固定されているらしい。
普段からアルカやカルサのような女神か天使かといったような美少女、そしてミサゴやオウランといった男心をくすぐる美女たちを見ているせいで気づきにくいが、馬路倉は十分可愛い部類にいる。
体型は引き締まっており実に健康的。
しかし女性らしい膨らみも持っており、慎み深い胸の膨らみから目が離せない。
そういえば脚にはよく筋肉がついているようだ。
弓道部で走り込みを行っていた成果がまだ残っているのだろうか。
「陛下」
馬路倉が口を開き、俺の思考は中断される。
「お目汚したいへん失礼いたしました」
当たり前のように跪いている。
そして先輩ではなく陛下で呼ぶという他人行儀さ。
完全に突き放してきている。
「いついかなるときでも陛下がいらっしゃっても問題ないよう取り計るべきでございましたのにこの体たらく、謝罪の言葉もございません」
めちゃくちゃ怒っている。
女の子の部屋に直通通路の出入り口つくって事前連絡もなしにやってきたことを盛大に皮肉られている。
しかしこれらは全て俺のミスのせい。
馬路倉に一切非はない。
ならば、俺の取るべき道はただ一つ。
「すまん馬路倉!」
腰を直角に曲げ、深々と頭を下げる。
「俺がとんでもないことをしてしまったのは理解している。本当に申し訳なかった。俺はお前を傷つけてしまった。今更それは本意ではなかったなどというのは言い訳にしか聞こえないだろうが、どうか俺のことを許してくれないだろうか?」
この世界でようやく出会えた元の世界の人間。
しかも元々知り合いという奇跡のような偶然。
この関係を守るためなら俺は何でもしよう。
「陛下の深いお考えは私にはわかりません。しかし陛下のおかげで今の私があり、そしてこの魔法国があるのです。許すも許さないもございません」
陛下呼ばわりはまだ続く。
先輩と呼んでくれない。
口調も硬いまま。
めちゃくちゃ距離がある。
壁を感じる。むしろ壁しか感じない。
まだかなり怒っているということだろう。
謝罪が足りないのか。
どうすればいいのか。
そして俺は気づいた。
自分の視線の高さに。
跪く馬路倉は腰を直角に曲げた俺よりも視線が低い。
謝罪する人間が謝罪を受ける人間より頭が高いとは何事か。
王様暮らしで俺はこんなにも緩んでしまっていたのか。
両手両膝を地面につけ、跪く馬路倉と目線を合わせる。
目を見つめ、誠心誠意謝罪の言葉を述べる。
「馬路倉、本当にすまなかった。お前の怒りは俺なんかでは理解できないほどだろう。しかし、俺とお前の関係はこの世界で唯一のもの」
何か思うところがあるのだろうか、馬路倉の表情が変わる。
このまま畳み掛ける!!
「どうか、どうかよければ、また俺のことを先輩と呼んでくれないだろうか?陛下などと呼ばず、お前には先輩と呼んで欲しいんだ」
本当は誰にも陛下なんて呼んで欲しくはないが、それは諦めた。
「俺のできることなら何でもしよう。だからどうか、どうか俺を許してくれ!」
その言葉に馬路倉がピクッと反応する。
もしかして何かして欲しいことがあるのだろうか。
これでも国王費なるお小遣いを貰ってるからそこそこリッチだったりするのだ。
欲しいものがあれば何でも買ってやるとも。
肩を揉めと言われれば喜んで揉もうとも。
「…わかりました。その、あの、せ、先輩」
ようやく先輩と呼んでくれた!
「ありがとう!じゃあ何かして欲しいこと言ってくれ!非力な俺だが、できるだけ頑張らせてもらおう!」
俺の言葉に馬路倉は一瞬だけ逡巡し、首を横に振った。
「いえ、何も必要ございません」
何もいらないとは。
そんな奥ゆかしい。
「先輩の気持ちは嬉しいですが、本当に大丈夫です。元の世界に帰りたいと思ったことは何度もありますが、今はこの世界こそが私の住む世界です。魔法国の民、そして世界中にいるこんな私を慕ってくれる魔法使いたち、彼らこそが今の私の家族なんです」
…俺はまたも失念していた。
馬路倉にとって俺は、大地を割るほどの魔力をもつ世界最強の魔法使いなのだった。
そんな俺が「どんなことでも」なんて言えば、次元を超越して元の世界に帰すこともできるなんて思われても仕方がない。
むしろ金で買えるもので解決できると思っていた俺が甘すぎた。
そんなことを望まないでくれてありがとう。
「わかったよ馬路倉、じゃあもしいつか、欲しいものができたら改めて言ってくれ。そのときこそ俺はお前のために全力を尽くそう」
「…はい!」
こうして俺の先輩としての尊厳は首の皮一枚つながった。
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その後、「まず服を着よう」ということになり馬路倉は着替えを再開した。
俺はそれを見ないようにしながら部屋の端でカルサと待っている。
「…兄様、さっきずいぶん魔法王陛下のこと凝視してなかった?」
気づかれていた!
「ま、馬路倉が着てる下着が元の世界のものだったからな。懐かしくて、つい」
「ふーん。そうなの?」
「そうだともそうだとも。フリルとかついてて可愛らしかったろ?こっちの世界じゃあまり見ないから珍しくてな」
「確かに可愛らしかった、かな。あれ、フリルっていうの?」
そもそもフリルを知らないのか。
確かにカルサは実用的な服ばっかりだもんな。
「うちの国でもああいう可愛い服をつくったら喜ばれるかもしれないな。今度みんなに話してみようか」
「そう、ね」
カルサが笑う。
「平和になったら、やってみましょ」
そう、平和。
「二人共、お待たせしました」
馬路倉が俺たちを呼び、話が始まる。
平和を手に入れるため、俺は戦争の話をしにきたのだ。
風邪を引きました…。
もうちょっと先まで書く予定だったのですが、一旦ここで切って更新いたします。皆さんも体調にはお気をつけください。




