幕間 大魔王
彫亥家は地方の善良な農家だった。
遡れば源平合戦まで辿れるという古い家柄。
かつては侍だったがいつしか庄屋となり、戦国時代から江戸時代まで生き抜いてきた。
そして明治維新。
当時の当主は田畑を売ったお金で議員となり、故郷のために粉骨砕身したという。
こうして彫亥家は村の人々からさらに慕われ、戦前戦中戦後といった激動の時代も乗り越えてきた。
人と故郷を愛し、人と故郷に愛された一族。
そんな彫亥家に一人の男子が生まれた。
良き田畑を、彫亥の伝統とともに次代へ受け継いでほしい。
そんな願いを込めた名前がつけられた。
それが、彫亥善田
この赤子こそ、後の大魔王。
だが彫亥家の人々はそんなこと知る由もなく
新たな生命の誕生を、喜び合っていた。
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彫亥家はその村では一目も二目も置かれる存在だった。
ゆえにそこで生まれるというだけで、子供の頃から周囲に丁重に扱われる。
他の彫亥家の子どもたちは次第に自重というものを覚え、周囲とうまく付き合うようになる。
模範となる他の一族の姿を見ながら、親が教育する。
そうして、周囲との付き合い方を覚えていく。
だが、善田は違った。
彼はどれだけ親や祖父母が教えても、ときには叱りつけても、学ばなかった。
自分が丁重に扱われるのは当然だと考えていた。
それだけではない。
彼は、今の立場にすら不満であった。
こんな田舎に産まれたことが嫌だった
一族のしきたりや風習を守る気などさらさら起きなかった
泥臭い同年代の子どもたち、なぜこんなやつらと付き合わねばならないのか理解出来なかった
自分の恵まれた環境
愛され、大切にされているという事実
それらに気づかず、目を背け、不満だらけの日々を過ごしていた。
そして善田は不満を溜め込むだけの子供ではなかった。
それを発散した。
彫亥家という立場を利用して、逆らえない立場の人々をいたぶったのだ。
もちろんおおっぴらにやるほど馬鹿ではない。
彫亥家の人々には見つからないよう、裏で陰湿に事に及んだ。
最初にそれが成功すると、善田は図に乗った。
歳を重ねるごとに内容はエスカレートし、犠牲者は増えていく。
彼は自分の学校、自分のクラス、そこの王様であるかのように振る舞った。
だが、善田は自分で思っているほど優秀な男ではなかった。
事はすべて露見し、一族の恥晒しだと糾弾される。
泣いて泣いて泣きはらし、自分の代わりに土下座する母親を尻目に、善田は家を飛び出した。
そしてそのまま、村も、故郷も飛び出した。
あんな母親の姿を見ても何とも思わず
むしろ自分のために親が謝るのは当然だというように
金目の物を盗んで、家を捨てたのだ。
頼る寄る辺もないような少年が生きていける場所などそう多くはない。
世間知らずだとすればなおさらだ。
盗んできたものは二束三文で買い叩かれ、都会の闇に埋もれていく。
裏社会の一員として、善田は生きていくこととなった。
その世界において、彼は優秀だった。
持ち前の残忍さ、冷酷さ、人を人とも思わない態度は一種の才能だった。
「そのお金がないと、赤ちゃんが死ぬんです!!」
そう泣き叫ぶ母親から有り金を奪い、さらには赤ん坊を蹴り上げる。
必死で赤ん坊を受け止める母親を見て大笑いする。
そんなことができるのは、彼ぐらいだった。
彼は上に対しても決して服従することはなかった。
「いつか潰す」その一心で彼は上の命令に従い、組織に利益をもたらした。
そしてある日、チャンスが訪れた。
末端価格数億のブツの取引。
その責任者を任されたのだ。
これが成功すれば自分の取り分もかなりのもの。
普通ならそう思うかもしれない。
しかし善田は違った。
「この金で、俺様は成り上がる」
彼はそう考え、取引ごと奪い去ることに決めたのだ。
取引が行われる埠頭
ブツは停車中の大型トラックの中にある。
取引相手がもってくる金を奪い、ブツをトラックごと奪い去る。
全て自分のものにする。
自分で組織を作り上げ、そのトップに立つ己を妄想する。
俺を馬鹿にしたやつ、顎でこき使ったやつ、全員なぶり殺しにしてやる。
無能な部下もすぐ殺してやろう。
馬鹿は生きてることが罪悪だ。
脳内麻薬を溢れ出させながら、彼は作戦を実行する。
そしてその作戦は全て成功する。
彼の理想通りに、完璧に。
まるで、そう仕組まれていたように。
「お前さあ、見え見えなんだよね」
それは、自分の直属の上司だった。
いけ好かない男。
若くして組織で上り詰めた男。
俺を馬鹿にし、顎でこき使う男。
「でもこんなにあっさり罠にひっかかるとはねえ。上司としては嬉しいと言うより悲しいぜ?」
男は言った。
お前は評判が悪すぎると。
組織の秩序を乱すと。
敵を作りすぎ、今では利益以上に損害をもたらしていると。
だから、架空の取引をでっち上げたと。
「小麦粉と新聞紙を後生大事に抱えて、お前いったいどこ行くの?」
トランクを開ける。
そこにあるのは札束ではなかった。
一枚目に本物を挟むことすらしていない、新聞紙の束が詰まっていた。
「お前、ブツの品質どころか小麦粉の違いもわからないだろ?そんなんでどうやって自力で取引しようとしたのやら…。理解に苦しむよ」
小馬鹿にしたような顔で笑う
いや、小馬鹿どころではない。
心底馬鹿だと、あざ笑っているのだ。
激高する。
おもいきりアクセルを踏みこむ
「轢き殺してやる!」
そう、叫びながら
だが男はその行動を読んでいたかのように軽々と避け、言った。
「そんな無駄なことでガソリン使っていいのかあ?そのトラック、ほとんどガソリン入ってねえぞ!逃げられなくなんぞー!」
メータを見る。
ガソリンはほとんど空で、警告灯が点灯している。
まずは逃げないとなぶり殺しにされると、埠頭を飛び出すべくハンドルを切る。
埠頭は出たが、どこへ逃げる?
後ろから大量の車が追いかけてくるのが見なくてもわかる。
給油している暇はない。
少しでも距離を離すべく、さらにアクセルを踏み込む。
目の前の信号が赤になった。
だが、止まってなどいられない。
むしろチャンスとばかりに交差点に突っ込むと
そこに一人の男がいた。
こいつ死ぬな、と思った。
ただ思っただけで、アクセルから足を離すことはなかった。
そして次の瞬間、善田は光へと包まれた。
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「あなたが必要なものや能力、何でも望むものを言いなさい。その力をもって、この世界を救ってほしいのです」
善田は何が起きたかわからなかった。
ただその言葉を聞いて、ようやく理解した。
自分は、選ばれたのだと。
両手を掲げ、全力で叫ぶ。
「見たかクズども!俺様の勝ちだ!俺様こそ、選ばれし存在なのだ!!」
全ての鬱屈を吐き出すように、あらゆる罵詈雑言を叫んだ。
魂ごと吐き出すような雄叫びを出し切り、一息つく。
そして、女神に問うた。
「俺様以外のやつらは、どんなことを願ったんだ?」と
善田は決して馬鹿ではない。
自分は確かに選ばれたが、唯一無二だと自惚れることはなかった。
その驕りがつい先程までの危機を招いたのだと、学習していたのだ。
女神は答える。
最強の武器と防具
魔力を保存する首飾り
瞬間移動する靴
己の魔力をそのまま攻撃魔法に変換する杖
どんな敵をも倒す力。ただし、己の命と引換えに
あらゆる生き物の言葉を理解し、理解させられる力
他にも様々なものと力があった。
あまりに多くて、まるでお経を聞いているようだった。
故郷のそれが大嫌いだった善田は、思い出して気分が悪くなる。
だから女神の話を中断させ、彼は質問する。
「能力は、そいつの子孫に受け継がれるのか?」
「いいえ。一代で終わりですよ」
「じゃあ、ものは?」
「壊れるまで、世界に残り続けますよ」
つまり、今から行く世界には神の力を秘めたとんでもないもので溢れかえっているわけだ。
それらを全て叩きのめし、俺様が頂点に立たねばならない。
どんな能力ならいいのだろう?
善田は考え、一つの案を思いついた。
これほどの名案を思いつく自分はさすがだと自画自賛するが、気をつけないといけない点がある。
「これから行く世界に住む奴らは、みんな強いのか?」
「ええ、強いですとも。人は魔族よりも弱いけれど、それでもあなたの世界の人々よりはるかに強いです」
「そうかい」
ほくそ笑む。
ならば、問題ない。
俺様は、最強を超えた最強になる。
これぞ、チートだ。
善田は願いを伝える。
そして女神は言った。
「あなたの望み、叶えましょう」
善田の体が光に包まれ、何かが体に宿った感覚を覚えた。
そして
「この世界を、正しい方向に導いて」
次の瞬間、視界が光に包まれた。
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善田にとって、異世界は最高だった。
魔界に君臨する魔王たち
今の彼にとって、彼らは敵ではなかった。
圧倒的な力で蹂躙し、ときには殺し、ときには服従させた。
多くの魔族や魔物を従える彼らを跪かせることは、彼の自尊心を大いに刺激した。
中でも強力な古き魔王と呼ばれる者たち
すかした顔をしたこいつらが、俺様と相対すると何が起きたかわからない顔をして倒れていく。
絶対者たる彼らが、己の気分一つで右往左往する。
あの埠頭のことなどどうでも良くなるほどに、心地よかった。
「まずはこの世界。そして次は、元の世界を侵略してやる」
自分を馬鹿にしたあの元上司を百万回ほどなぶり殺しにしてやろう
そう思うと、楽しくて楽しくて仕方がなかった。
魔族の美女をはべらかせ、酒池肉林の日々を過ごす。
魔界はとうに制した。
残り半分、人間界など時間の問題。
そう思っていたのに、予定外のことが起きた。
魔王たちが敗北した。
さらには、寝返るものまで発生した。
「気に入らねえ」
この世界に来てから自分の意のままにならないことなどなかった。
初めて起きた想定外。
気分が悪くなり、周囲に当たり散らす。
すると自分を恐れ、人間どもを恐れ、誰も彼もが逃げ出していった。
だがまあ、かまわない。
もうすぐ新しい奴隷共が自分たちからやってくる。
めぼしいやつらは殺すが、あとは支配して服従させて使ってやろう。
女がいれば、楽しませてやろうじゃないか。
そう思いながら人間を待っていると、扉が蹴破られた。
魔王の中で最もいけ好かなった男、ルドルフ
初見では、一瞬首が飛ばされたかと錯覚させられてしまった。
今思い出しても忌々しい。
そのルドルフと瓜二つに見えたが、よく見ると全然違う男だった。
だが忌々しいことに変わりはない。
ぞろぞろ入ってくる他のやつらも、全員気に食わない。
だから怒りを込めて口にする。
「俺様をこんなに待たせるたあ、いい度胸だな。ゴミ虫共」
それで数人が卒倒した。
こんだけかと思うが、数人の顔を見て少し気分がよくなる。
「俺様を裏切った顔も見えるなあ?自分から嬲り殺されに帰ってきたのだけは、褒めてやるよ」
飛んで火に入る何とやらだ。
苦しみぬく顔が今から楽しみになる。
ただ、やはり気に食わない。
真の絶対者たる俺様の前で、頭が高い。
「まあ、とりあえず。てめえら全員頭がたけえよ。跪け」
これでほぼ全員が跪いた。
だがそれでも抵抗するやつらがいる。
さすがにイライラしてきた。
「ゴミ虫の分際で、俺様の言葉に逆らえるやつらがいるみたいだな?目障りだ、消えろ」
これで全員消えたか?
そう思ったのに、二人ほど残っていた。
「まーだ残ってるやつがいんのか?うっぜえなあ…」
片方は、なかなかの美人だ。
残れてる理由はわからないが、どうでもいい。
あとの楽しみが増えたとほくそ笑む。
もうひとりの方は、ただの男に見える。
黒髪黒目なところを見ると、こいつも転移者か。
最近黒髪黒目の人間を見てなかったせいか、既視感があるな。
そもそもこいつ、なんでこんな驚いた顔をしてるんだ?
でもまあ、どうでもいい
「俺様が直接、殺してやるか」
こいつが転移者だろうが関係ない
どんな能力を得てようが、どんな道具を持っていようが、俺様にはかなわない
「相手が強ければ強くなるほど、強くなる。この最強チートスキルの力、味あわせてやるよ」
最強を超えた最強
それが、俺様だ
ついに大魔王の能力も公開となりました!
物語も後少し。面白いと感じられましたら、ブクマと評価をよろしくお願いいたします!




