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127話 大魔王城

 ルドルフは斃れた。

 だが、この場にいる魔王は一人ではない。


 アズラットとトルストイ

 だが、二人は深手を負っている。

 このまま放っておけば、それだけで死ぬだろう。


 だが手負いの獣は恐ろしい。

 万が一に備え、とどめを刺すべく皆動いている。


 トルストイは独り

 だがアズラットの周囲には、彼を守るかのように魔獣たちが取り囲んでいる。

 牙をむき出し、獰猛にこちらを威嚇する。

 俺など、この牙の前ではボロキレのように引き裂かれるだろう。


 村にいた頃、実際に魔獣に殺されかけた。

 今でも怖くて目を背けたくなるが、当時はもっと怖かった。

 よくこんなのを睨みつけたものだと、自分で自分を褒めたくなる。


 そして当時、魔獣に手こずったジェンガ。

 あれはただ武器がなまくらで、村人という足手まといがいたから。


 斬鉄剣を持ち、周りはむしろ人間界の精鋭揃いという今ならば


「徒党を組んだぐらいで、俺に勝てるとでも思ってんのか?」


 魔獣の群れすら、敵ではない。


 魔獣たちも本能では勝てないことがわかっているのだろう。

 威嚇はしても、決して襲いかかろうとはしない。

 だが、決して逃げはしない。

 アズラットの「オ前タチ、サッサト逃ゲロ」という言葉も無視して。


「ご主人さまに忠義を尽くすとは、ケダモノにして見上げた根性だ。お望み通り、まとめて始末してやるよ」


 …むしろジェンガが血に飢えた獣である。


 だが正直、ジェンガの言い分は間違っていない。

 一匹でも一般人にとっては災害にも例えられる魔獣

 それが群れをなしている。

 今この場で一掃できるなら、それは僥倖と言えるだろう。


 だが…


「待て、ジェンガ」


 深呼吸して息を整え、声を出した。

 最初の一歩を踏み出し、魔獣へと歩を進める。


 正直怖くて仕方ないが、我慢するしかない。


「リク様?」


 不思議そうな目を向けてくるジェンガの肩をポンとたたき

「後は、俺がやる」

 そんなふうに口走る。


 自分がやろうとしていることが、正しいのかはわからない。

 でも、やるべきことだと思った。

 だから、やる。


 やってやろうじゃないか。



 ---



「久しぶりだな、アズラット、そしてトルストイ」


 自分よりも遥かに格上の人間に、さらに上から物を言う。

 何度やってもなれない。


 手負いの彼らでも、俺など指一本で殺せる。

 すでに彼らの射程範囲に入っている。

 俺にできるのは、ただ祈ることだけ。


「おひさし、ぶりですね。このような姿で、お恥ずかしい…」

「主ヲ見誤ッタハ、我ラガ失態。言イ訳ハ、セン」


 どうも祈りは通じたらしい。

 自分たちが格下だと勘違いしているようだ。

 すでに死が間近ということもあってか、ずいぶんとしおらしい。


「お前らに言いたいことがある」

「…魔獣ドモハ、引カセル。戦イハ終ワリダ。ソレデ、満足セヨ」

「以前お会いした際の非礼ならば、お詫びいたしますが…?」


 魔獣との戦闘の回避

 連邦領で襲われたことへの謝罪


 どちらも不正解だ。

 俺が言いたいことは、未来のこと。


「自分たちをついでで始末しようとする大魔王に、これ以上従う義理もないだろう?俺のもとに来い。もちろんお前らの部下たち、魔獣も全部まとめてだ」


 人と魔族の戦いは終わるのだ。

 不必要な殺し合いなど、続ける必要はない。


 二人共ぽかんとし、返答はない。

 返事がない場合は了承だ。

 俺が今、そう決めた。


「アルカ、二人を治してやってくれ。あと怪我した魔獣たちも頼んだ」

「え?あ、は、はい!」


「リクさんは優しいですね」なんて言いながらいそいそと治療を始める。

 治癒魔法をかけられると同時に二人がギョッとした顔をするが、さすがに直接魔法を浴びるとアルカの実力を少し察してしまうのだろうか?

 さすが魔王だな。


 気づいたならむしろ好都合。

 こちらに逆らう気など、さらに失せるだろう。


 さて、では現状を整理しよう。


「ボード」

「はっ」

「開戦時の、大魔王配下の魔王数は?」

「ルドルフ、アイスキュロス、トルストイ、アズラット、ガリバーの五柱です。魔王を自称する魔族は他にもいますが、我が軍の脅威として数えられるのは、以上になります」

「現状は?」

「ルドルフ、ガリバーは死亡。アイスキュロスは人間界にてワーズワースと交戦中。そしてトルストイとアズラットは、お館様の軍門に下りました」


 トルストイとアズラットがこちらに向かって跪いている。

 怪我は完治したようで何よりだ。


「つまりもう、いないわけだな」

「はい。ここから大魔王城まで、我らの道を阻むものはございません」

「そうか」


 ついに、ここまで来た。

 ここまで、来てしまった。


 じゃあ後は、さらに突っ走るまで。


「敵は大魔王ただ一人!全軍!全速前進!!」



 ---



 怒涛の勢いで進軍は行われた。

 野生の魔物などに襲われることはあったが、この大軍の前では鎧袖一触。

 進軍速度は一切緩むことなく、大魔王城へとたどり着く。


「ここが、大魔王城…」


 誰かのつぶやきが聞こえた。

 天まで届くかのような巨大な城。

 この大軍ですら、全て収容可能かもしれない。


「中にいるのは大魔王一人だけですな。ルドルフ敗死の報が駆け巡り、城にいた他の者どものは逃げ出しました」

「ワーズワース?」


 人間界にいたはずなのに

 と思ったが、答えはすぐ横にあった。


 半殺し、と言えばいいのだろうか。

 絶妙に生かさず殺さずの状態。

 おそらく彼が


「アイスキュロス、生きていたのですね」

「トルストイか…。それはこちらの台詞だぞ…」

「生キ延ビタコトヲ喜ベ。生キ恥ダロウト、生ハ生ダ」

「私が、魔獣に諭されるとはな…」


 魔界軍師、アイスキュロス

 すでに決着はついていたらしい。


「すでに魔軍本体の方も停止させておりますので、ご安心ください。主様」

「私に無理やりさせたのではないか…。古馴染みにあのようなことを笑顔でさせるなど、本当に貴様というやつは…」

「何を言う?我らは魔王だぞ?それぐらい笑顔でやって、当然だろう」


 素敵な笑顔でそんなことを言う。

 おお怖い。


 少し場が和んでしまったが、これから始まるのは正真正銘最後の戦いだ。


 突入メンバーを厳選する。

 人類最強の面々、そして魔王たち。

 中にいるのが大魔王だけなのだから、本来はこのメンバーで必要十分だろう。


 ただ問題は大魔王を倒した後。

 もしかしたら発生するかもしれない”神との謁見”

 そのことを考え、ボードを始めとする我が国の幹部たちも参加させる。


 全員の願いを叶えてもらうつもりはない。

 ただ、何が起きても大丈夫なように知恵者が多いほうがいいだろう。


 このメンバーが全滅したら、人間界は終わりだな。

 そんなことが頭をよぎるが、これで負けたらもう世界がおしまいだ。

 俺たちにできるのは、前に進むことだけ。


「行くぞ!!」


 俺の掛け声

 それと同時に、全員で大魔王城へと突入する。


 そのとき俺の視界の端に、何かが見えた気がした。

 見慣れた、でもずいぶん長い間見ていなかった、何かが。



 ---



 無人の城内を突き進む。


 外見に反して、中はそこまで広くなかった。

「中は魔法でいじられておりましてな。もちろん、広くすることも可能です」

 とはアイスキュロスの言。

 大魔王城とは、便利なものだ。


 螺旋階段を登り切ると、巨大な扉があった。


「この先が、大魔王の間となります」


 言われずともわかった。

 禍々しさが扉を貫通してきている。


 思わず後ずさりしそうになるが、そんな選択肢は存在しない。

 前進、あるのみ。


 ジェンガが扉を蹴破る。

 そして部屋に飛び込むと、すぐ目に飛び込んできた。


 巨大な玉座に座る、黒髪黒目の男の顔が。


「俺様をこんなに待たせるたあ、いい度胸だな。ゴミ虫共」


 それは、ただの言葉だった。

 なのにそれだけで、数人が卒倒した。


「俺様を裏切った顔も見えるなあ?自分から嬲り殺されに帰ってきたのだけは、褒めてやるよ」


 ワーズワース以外の魔王たちが、苦しそうに顔を歪める。


「まあ、とりあえず。てめえら全員頭がたけえよ。()()


 その言葉で、ほぼ全員が跪いていた。

 必死で抵抗してるのに、体が言うことを聞かない。

 そんな顔をしながら、無理やり跪かされている。


 大魔王の、言葉だけで。


「ゴミ虫の分際で、俺様の言葉に逆らえるやつらがいるみたいだな?目障りだ、消えろ」


 立っていた者たちが、吹っ飛ばされた。


 柊が

 ワーズワースが

 ジェンガが


 みんなみんな

 大魔王の言葉だけで、吹っ飛んだ。


「まーだ残ってるやつがいんのか?うっぜえなあ…」


 ボリボリと頭をかいている。

 その大魔王の顔から、目が離せない。


 立っているのが俺とアルカしかいないという絶望的な状況なのに、その顔が気になって仕方ない。


「しかたねえ。俺様が直接、殺してやるか」


 そしてようやく気づいた。

 俺は、こいつの顔を知っている。


 この顔は、この世界に転移してくる直前に見たものだ。


 さっき城に突入するときに見たのは、トラックの残骸だ。


 こいつ、俺をトラックではねた犯人だ!!



前話は作者的には会心の出来でしたが、読者の皆様の評価は微妙なようで…。

力不足ですいません…。


最終決戦に突入しました。

微妙にプロローグともつながっております。

もうしばらく、どうかお付き合いください。

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