幕間 ジェンガ視点(今までのあらすじ)
ジェンガ視点で今までの内容をまとめてみました。
いつもと違った感じですが、楽しんでいただけますと嬉しいです。
初めて会ったときからただ者ではないと思っていた。
立ち居振る舞い、態度、話し方、全てに違和感があった。
田舎者ではない。
非常に高度な教育を受けている。
しかし都人でもない。
それすらも上回る教養が感じられる。
じゃあ貴族かというとそうでもない。
貴族特有の高慢さはないし、むしろ全ての人を平等に扱うおおらかさを持っている。
何より、まるで命の心配などしたことがないような余裕が彼にはあった。
どのような安全な環境で育てば、このような人間になるのかと不思議に思った。
同時にそれは危なっかしさでもあり、近くで見守ることにする。
記憶がなく、自分に役割がないと落ち込む彼を元気づけようと話しかけることもあった。
それはうまくはいかなかったが、行商人が読み書き計算で村の先生となってからは目が生き生きとし始めた。
…まさか、あれほどの水準だとは予想だにしていなかったが。
読み書きは完璧だった。
むしろどれほどの文字に触れればここまでたどり着けるのかわからない。
本のような高価な代物、それが身近に大量にあったのだろう。
いったいどのような生活をしていたのか。
算学はもうついていけなかった。
子どもたちは楽しく学んでいるが、連立方程式、関数、平方根、いったい何をしているのかも理解できない。
都で出会った学者たち、彼らすら足元に及ばないだろう。
教養という言葉では表しきれないようなものが彼には備わっている。
そう確信した。
「先生」口が勝手にそう呼んでいた。
魔物の群れが現れた時、彼の真価に触れられる好機だと考えた。
村が全滅するかもしれないような状況なのに、全く動じていない。
余裕の表情で周りを観察し、嘆く男たちを見て笑顔になっている。
俺は確信した。
彼にとってこんな状況は危機でもなんでもない。
こんなことで悩む俺たちを憐れみ、自分がいれば大丈夫と笑っているのだ。
「さあ先生、もうとっくに考えついてるんだろう?
みんなに教えてやってくれ
この状況を打開する、策ってやつをさ」
俺の問いに彼は答えず、カルサに話をふった。
「カルサ、あの本で覚えた魔法の調子はどうだ?」
この一言で、俺にもわかったさ。
彼は村を助けるだけではなく、皆に活躍の機会を与えようとしているってことを。
カルサは村長の孫だ。
彼女か姉のどちらかが将来その地位を継ぐと、村中が彼女たちに期待している。
そして彼女もそれに答えようと日々努力し、実際まだ子供だが非常に賢く頭がまわり、魔法も使えると村の皆に頼りにされている。
しかし彼女は祖母や姉とは違って治癒魔法が使えないからといつも自分を卑下していた。
治癒魔法は確かに特殊で貴重だが、普通の魔法だってそれに劣らず皆の助けになるのに。
そんな彼女に、村の危機を自らの魔法で救わせ自信をつけさせようというのだろう。
彼女だけじゃない、まず俺を作戦の概略考案者にしてくれた。
自分で説明してくれてもいいのに、俺の口から言わせることで村の皆に俺も知恵があると思わせてくれたのだ。
俺の作戦に問題があればそれとなく正しい方向へ誘導してくれたのだろう。
ありがたい話だ。
そして単純な作戦にすることで村の皆もおおいに活躍できる。
自分の村を守るための戦いだ。
皆奮い立っている。最高だ。
作戦は全て順調だった。
全て彼の思惑通りだった。
そう、あの魔物のこともわかっていたのだ。
魔物の掃討戦、最後に残った一体を倒そうとして俺は戦慄した。
突然変異体だったのだ。
野獣は魔物よりもずっと弱い。
その野獣でさえ突然変異体となればとても手に負えない。
ならば魔物の突然変異体が現れればどうなるか?
それは、災害だ。
自分がどこまで時間稼ぎできるのか
どれだけ村人を逃がせられるのか
そう考えていた俺は、自分の目を疑った。
彼は、先生は、崖から身を乗り出して魔物を見下していた。
魔物が自分を襲いに来るよう、囮となったのだ。
人生であれほど衝撃を受けたことはなかった。
先生に戦闘能力がないことはわかっている。
戦えば一瞬で殺される。
それなのに、俺たちを助けるために、あれほどの知性と教養をもった方が自らの命を囮にしようとしているのだ。
かつて"弱い民を助けるため"と将軍をしていた自分が恥ずかしくて仕方ない。
弱い民を助ける?先生は、自分よりも強いものだって助けようとする。
先生は、全てを救おうというのだ。
結果、犠牲者は0だった。
先生はその恐るべき胆力でカルサも救い、作戦通りだったのだろう、アルカさんが間に合って自らの命も助けられた。
魔物の群れが現れた。その中に突然変異体もいた。
これで被害なしなど、人から聞けばどんなほら話だと笑い飛ばすだろう。
しかし事実だ。
村中が先生を勇者とたたえ、この奇跡を祝っている。
近隣の村々にも矢のように噂は広まっている。
この村が滅べば次は自分たちの番だったのだ。
そこから救われた奇跡を知るため、自分たちを救った勇者の話を聞くため、話はどんどん広まる。
噂に尾ひれはつきものだが、つけようもないほどの偉大な話を。
俺は自分のちっぽけさが恥ずかしくなっていた。
春になり偽王の専横は日に日に増していた。
今秋の収穫は全て奪われるのではないかと皆戦々恐々している。
”何かしなければ”という思いが募り、村を出ることを考えていた。
そんな矢先、久々に先生と村ですれ違った。
最近は近隣の村々からも頼りにされて多くの依頼が舞い込み、それを全て見事解決されている。
自分の現状を鑑み、恥ずかしさを感じた俺の口からはつい軽口が飛び出た。
「先生のご活躍、たっくさん耳にしてますよ
たまには俺の力も使ってやってください!」
これに対し先生は、俺に使命を与えてくださった。
村を守れと、まずは足元を固めろとご命令くださったのだ。
俺は身震いした。
ふらふらとあてもなくさまよいそうだった俺に、確かな道筋ができた。
自分のできること、やるべきこと、そして求められていること、それらを見つめ直し、まずは足場がためをしなければならない。
「たった一人で王に歯向かう?馬鹿言ってんじゃないよ」
そんな風に先生に叱ってもらえた気がした。
…人に叱られたことなど何年ぶりだろう。
前回俺を叱ってくださったのは、先王陛下だ。
そして俺は気づいたのだ。
また、使えるべき主に出会えたということに。
盗賊団の噂が耳に入ってきた。
狙われているものは、宮廷の奥深くの内情を知るものにしか知りえない共通点があった。
そう、偽王の側近の品だけが奪われていたのである。
怪しいと思っていたところ、先生が調査に出向かれるというので同行させていただいた。
アジトに侵入してみると、そこにいたのは懐かしすぎる顔ぶればかりであった。
共に陛下に忠誠を近い、日々訓練に励んでいた日々を思い出す。
まさかという思いがある
でももしかしてという期待が高まる
そしてたどり着いた最奥。お二人の前に顔を表した時、自然と頭を垂れていた。
かつての主君、先王陛下のご息女とご子息がいらっしゃった。
こちらの現状をご説明した際、つい先生のことを今の主と紹介してしまった。
もちろん本音ではあるのだが、まだ先生ご本人には何もお伝えしておらず、早まったかと心配した。
しかしそんな心配はする必要がなかった。
先生は全てご承知の上であったのだ。
俺の言葉を否定などされず、むしろ当然のように受け止めてくださっていた。
そして話を聞けば聞くほど偽王への義憤が高まりつい感情的になってしまったとき先生が発した一言。
それを聞いて俺の全身に衝撃が走った。
「なあミサゴ、ジェンガ欲しいの?」
やはり、この方はただものではなかった。
俺の忠誠を当たり前のように受け止める度量。
相手が王族と知ってなお対等に接する豪胆。
そして当たり前のように人に命令し、人を駒のように扱えるその姿。
この方は、王者であらせられたのだ。
この方に出会えた偶然に、そして仕えられる幸運に俺は身震いしていた。
先生は俺に偽王討伐のため両殿下に力を貸すことを命じてくださった。
俺の願望を、自らの命令として上書きしてくださったわけだ。
これでやる気が出ないはずがない。
戦友たちとの再開を喜ぶ時間も惜しく夜通し今後のことを話し合い、翌朝には活動を開始した。
組織づくりは進み、戦力は着々と蓄えられている。
いざとなれば明日にでも偽王討伐の兵を挙げられるほどだ。
しかし、まだ時ではない。
先生は絶好の機会を伺われているのだ。
そして先生が望まれた時、いつでも行動を開始できるようにするのが俺の任務である。
明日にでも、など遅すぎる。
先生のご命令が発せられれば、それと同時に全てが始まらなければならない。
全ては先生のご期待に答えるために。
この偉大なお方の部下にふさわしい自分であるために。
俺は絶対に、それを果たして見せる。
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次はまた主人公視点に戻ります。
平日のためいつもどおり18時頃更新予定です。




