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コミカル?なにそれおいしいの?

――――魔物が踊るような木々が鬱蒼と茂る、暗く深い森にて。


 クロアが雄叫びをあげ走っている。その雄叫びは森に生きる生物を、一切合切逃げさせる。


「リリア! リリア!」


 まるで恋焦がれた人を探すかのようにただひたすらにその名を呼ぶ。だが未だ発見には至っていない。


 クロアが森に入ってからもう何分が経過しただろうか。すでに戦闘音も止みつつあり、辺りは森独特の静寂が支配しつつある。その静寂はクロアの心配をより掻き立て、同時に焦らせる。もしかして死んで食われているのではないか。そんな気持ちになってしまう。


「……主様……? 顔色悪い……よ……? 少しは休憩しないと……?」


 クロアの余裕のなさを心配し、少しは落ち着いてと必死に訴えかける。

 カザリーが先程から何度も訴えかけてはいるのだが、クロアは耳を貸さずひたすら走り続けていた。


(私が側にいて少しでも安心させてあげないと……主様……壊れちゃう……)


 カザリーにそう思わせるほど、今のクロアは余裕がない。どれほどリリアが大切かが伝わってくる。それに……


(クロアは女性が悲しんで泣くのが嫌なんだ……)


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 クロアはいわゆる孤児と言われるものだった。両親もわからず赤ちゃんのときに、街の修道院の前でかごに入れられ、泣いているところを保護された。


 かごには名前の手がかりがなく、修道院のシスターが十字架に毎日祈りを捧げるような優しい子に育ってほしいということでクロアと名付けた。


 しかし最初はどうしても人に馴染めなかった。昔のクロアはとても暗く人を寄せ付けないオーラを放っていた。笑顔もなく常にひとりぼっちだった。そんな中必死に話しかけ仲良くしようとしてくれた少女がいた。


「ねえ君! 名前は? 私リリア! リリア=ファル!」


「俺か……クロア=アータム……」


 ただの自己紹介だったけれど、これが二人の出会いだ。


 最初はうざがっていたが時間が経つと二人は、よく遊ぶようになった。みんなを明るく照らす光のような性格と笑顔のおかげか。その仲の良さは他の子どもたちから見て熟年夫婦と呼ばれるほど仲が良かった。


 その時にはもう昔のクロアの姿はなく、ただの無邪気な少年だった。今のクロアの原型になっているだろう。


 しかしそんな中事件は起きた。リリアが人攫いにあったのだ。シスターに頼まれた買い物をしている最中の出来事だった。クロアはひどく動揺した。


 「リリアはどこにいるんですか!? 俺が助けに行きます! 絶対助けます!」


 そう言うがクロアにはこれっぽっちも助けられるという確信が持てなかった。自分の弱さをこれほどまでに恨んだことはない。


「大丈夫よクロア……今帰ってくるから……ね?」


 そういうシスターは俺に心配させないようにか笑って頭をなでなでしてくれていた。しかし俺はその言葉に自分の弱さを恨みつつも安心してしまっていた。


(俺が行かなくていい。俺が傷つかなくていい)


 そう思ってしまっていた。


 リリアが帰ってきたのは、攫われてから二日後のことだった。


「えっ……リリア……」


 クロアがそういうのも無理はない。全身傷だらけで衣服は破れ、何をされたかは一目瞭然だった。今は布をかぶってなんとか全身を隠している。


 そんな彼女だが次の日にはケロッといつものように笑ってみせた。でもどこか少し変わってしまったように見える。


「くそ! なんでだよ……なんでリリアがこんな目に合わないといけねえんだ……なんで! 神がいるなら答えてくれよ! なあ!」


 思いっきり地面を叩き拳から血がにじみ出る。そして獣にも似た慟哭をあげた。これほどまでに強さを渇望した日はない。そしてこれほどまでに泣いた日はない。


 そしてクロアは誓ったのだ。


『強くなって二度と女を悲しませない』と。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 リリアならもしかして、という気持ちがあった。奇跡は起きると心のそこから信じていた。けれど現実は、そんな願いなんか全く無視するかのように残酷で醜い。


 それはつい先程までリリア=ファルであった()()だ。


 うち潰されてか。斬り飛ばされてか。突き貫かれてか。擦り削られてか。多種多様な傷が、少女だった肉体の原形をとどめなくしていた。


 クロアは思わず口元を両手で塞ぐと同時にこみ上げてくる嗚咽を喉奥へと押し返す。同時に溢れてくる涙はこらえることなく諦めた。


「……」


 泣きすぎてもう声も出ない。もう考えることもできない。そこに追い打ちをかけるかのようにやつが現れる。


――――――キングコボルトだ。


 クロアは怒りで視界が真っ赤に染まったかのように錯覚した。するとなぜだろう。力が湧いてきた。


「カザリー 殺るぞ」


 ただ淡々と殺意を込め、カザリーに言う。カザリーは怒りを感じ取ったのか迅速に敵を処理しにかかる。


「……主様……分かった……」


 そういうと彼女は、こちらに迫ってくるキングコボルトの進路を塞ぐかのようにクロアはカザリーの力を解き放つ言葉を紡ぐ。


「廻れ廻れ死の果てまで……廻れ廻れ地獄の果てまで……廻転」


―――――――鎧袖一触


 黒が世界を支配した。


 その黒に飲み込まれキングコボルトの存在が消えた。死んだのではなく消えたのだ。しかしクロアはそれを気にもとめていない。今はリリアのことで気にしている暇がない。


「リリア……よく頑張ったな……ちゃんと子供たちは生きてるぞ……」


 今彼女が笑っているかもわからないが、きっと笑っているはずだ。そしておそらくこう言うだろう。


『生きてて良かった』と。


 それでも……


「リリアの声もう一回聞きたいな……ちゃんとあの時ごめんって謝りたいな……それから……ありがとうっていいたいな……」


 俺を暗闇から救い出してくれた光のような少女。次は俺が助ける番だと思っていたのに……そんな中、カザリーはこう呟く。


「……主様……? 生き返らせること……できる……よ?」


 いまカザリーはなんて言った? 生き返らせることができるって言ったのか?


「カザリー! 頼む! やってくれ! お願いだ!」

  

 俺はカザリーの肩を掴み懇願する。今はどんな些細な希望にもすがることしかできなかった。


「分かった……でもね……主様……わたしのこの力は一人にしか作用しない……そして主様は命の半分を失う……よ?」


 命の半分を失うということは、普通の人より半分しか生きられないということだ。普段の俺ならためらい、判断に迷う。でも今はただリリアを救いたいが一心で決断する。


「それでもいい。やってくれ」


 そして時間が刻々と過ぎていく。そして魔力が練り上がったところで紡ぐ。


「流れ流れ生の果て」

(声をもう一度聞かせてくれ!)


「流れ流れ生者の世界」

(俺に笑顔を見せてくれ!)


(そして今度は俺に救わせてくれ!)


「流転!!!!!!!!!!」


―――――――刹那


 白い光が世界を支配し、リリアを優しくつつみこんだ。その光はまるで彼女を象徴するかのようだ。原形をとどめていなかった体は修復され、心臓は鼓動を取り戻し、彼女は目を開けた。


「あれ……私……死んだはずじゃないのか?」


 がば!


 クロアは気づかぬ間に抱きついていた。そしてさらに強く抱きしめる。


「良かった……本当に良かった……」


「ふふ……変態クロアめ……あのときはビンタしてゴメンな……そして……」


 その後彼女はこういった。


「助けてくれてありがとう」


 俺を暗闇から救ってくれた笑顔が確かにそこにあった。










 




 







 

 











 






 

コミカルとか言って申し訳ないです……シリアスです……


感想 ブクマ ポイントありがとうございます!投稿ペースが遅くて申し訳ございません。

これにて一章が終わり二章が開幕します!

これからもよろしくお願いします!

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