閑話 何処か遠い世界でⅠ
設定を見直しつつ行っている十七話までの改稿作業もまだ終わってはいませんが、流石に半年以上更新してないのは拙いと思い、この話を執筆しました。
この話に登場する人物は本編にも今後(だいぶ先になりますが)登場する予定です。
誤字脱字等ございましたらお知らせ下さい。
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探している世界がある。
幾つもの世界を訪れた。でも、見つからなかった。
最初の頃は守れなかった世界を訪れる度に泪した。
いつからだろうか……。私はもう泪を流さない。いや流せなくなった。私の泪は枯れたのだ。凍りついてしまったのだ。
その事実に気づいても、私は何も思わない。思えない。
そんなことを考えているうちに数百以上の世界を訪れた。でも、見つからない。辿り着けない。
いつの間にか暗い道を歩いてる。先の見えない道だ。私の今を、今までを、そして、これからを暗示しているようだ。
私はどこまで来たのだろうか。
私は今どこにいるのだろうか。
何もかもが分からない。ただ、長い時間歩き続けていることだけは確かだ。
探している場所がある。でも、辿り着けない。
私のこれまでは徒労であったのだろうか……。
いや、そんなことを考えてはいけない。成し遂げねばいけないのだ。そんな暗いことを考えている時間は――
「……サ!テスタロッサ!」
「ルナ様……」
「見つけたよ」
私の肩に座り幾つもの世界を私と共に訪れた主の言葉に現実に引き戻される。
私の肩に座っているとても小さな少女。それは私が敬愛する主の分体。
何故、小さい姿でいるのかと聞いたことがある。すると、「魔力の消費を抑えられるから」と答えられた。確かに分体を維持し続けている限り魔力は消費され続ける。納得はした。したが、主には無限とも言える魔力がある。故に、完全には納得出来なかった。しかし、聞かなかった、主には主で考えていることがあるのだろうから。
それよりも、
「見つかったのですか!?」
「ほら、あそこ」
主の指指した場所には注視しなければ分からないような空間の歪みがあった。
「それではあそこの先が」
「うん。私達が探していた場所に繋がってると思う」
「それでは行きましょうか」
「……テスタロッサは大丈夫?」
私が不安を感じていることを主は分かっていたようだ。心配そうな顔で私の顔を覗き込んでいる。だから私は心配ないと言うように笑顔で答えた。
「ルナ様がいるので私は大丈夫ですよ」
「そう。なら……良かった」
主は安心してくれただろうか。安心してくれたのであれば、それでいい。
歪みの目の前まで来た。
小さい。余りにも小さい。
このままではここを通ることが出来ない。
どうするか考えていると主の呟きを耳にした。
「理の統括者たる我が命ずる。開くがいい。次元の門よ」
主が紡いだ今の言葉には絶対的な力が宿っていた。
歪みが私が通ることが出来るくらいに大きくなった。
「さあ、行きましょう」
主の言葉に誘われ、通った歪みの先には――
「ここが……ここが……っ」
「うん。ここが”始まりの世界„。私たちの探していた世界……って泣いてるの!?大丈夫?」
「はい……はいッ……大丈夫です」
私は泣いてしまった。探していた場所にようやく辿り着く事が出来たから。これまでの旅路は徒労ではないと実感出来たから。枯れていた筈の、凍りついてしまった筈の泪が私の目から溢れ出る。
「よしよし。テスタロッサには苦労をかけたね。ごめんね」
「いえ……いえッ……!」
等身大になった主が私の頭を抱えて撫でてくれた。
その主の優しさに私は一時、体を預けた。
幾ばくか時間が過ぎて、私は主から頭を離した。なんだろう、気恥ずかしさを感じる。
主がニヤニヤしながらこちらを見ているが、気恥ずかしさも相まってそれを無視し、この世界を『視た』。
「本当に始まりの世界なのですね」
「うん。懐かしいなぁ」
私たちが探していた世界”始まりの世界„。
ここはその名の通り一番最初に生まれた世界であり、全ての世界の原点だ。もし、ここが滅びたらこの世界を軸にして後に生まれた全ての世界が滅ぶ。
数千万年前に主はこの世界と他の世界の空間的な繋がりをほぼ断ち斬り隔絶することで、終焉機構と呼ばれる存在がこの世界を襲えないようにした。
そして、僅かに残った空間の繋がりを探してまでこの世界に来なければならなかった理由がある。それは――
「テスタロッサ。来る」
「どこッ!……空か!」
私達に近づく影がある。あれは……竜だ。緋色の竜がこちらを見ている。敵意はないようだが……分からない。何かあった時のためにも準備をしなければ。
「”模倣・聖剣カリバーン„」
聖剣カリバーン。低位の伝説級で、2万年前の大戦では当時の各世界の勇者達のために量産されて使われた。
私は一度でも『視』れば中位までの伝説級、神器級を即座に模倣出来る。上位の伝説級、神器級も模倣出来るには出来るのだが、多少の時間を擁するため、破壊されても即座に模倣出来る低位と中位の方が使いやすい。
私は主を護るように前に出て剣を構え、竜に視線を向ける。竜は目の前に降りると戦闘する意思は無いと言うのか両手を挙げ、いわゆるホールドアップの状態で話しかけてきた。
「この世界に異世界の者が来るとは珍しい。お主らは漂流者か?いや、違うようだ。自分の意思でここに来たとはな」
「何故、分かった?」
「それはお主らの目を見れば分かる。ひとまずその剣を下ろしてくれぬか。敵意は無いとお主らなら分かっておるはずだが」
僅かに逡巡し主に視線で尋ねる。
「テスタロッサ。その剣を下ろして」
「分かりました」
主に従い剣を下ろす。主は私の前に出て竜と話し始めた。
「貴方のお名前を聞いてもいい?」
「我の名か?我の名はジークフリート。恥ずかしいが、この世界の者達には英雄竜とも呼ばれている」
「……ジークフリート?」
主はその名を聞き驚いた顔をした。私とジークフリートはなぜ、そのような顔をするのか分からず戸惑う。
「我の名になにか?」
「君は……泣き虫ジークかい?」
「何故……それを……?」
「ちっちゃくて私に着いてくるばかりで泣き虫だったのに……立派になったね」
「そのお姿……まさか、ルナ様……ですか?……あぁルナ様にもう一度会うことが出来るとは……」
どうやらこの竜は主がこの世界から出る前からの知り合いらしい。とはいえ、主がこの世界と他世界の空間を断ち斬ってから数千万年も経過している。ということはこの竜は数千万年も生きたことになる。そんなことがありえるのだろうか?
「ねえジーク。君は今何歳?」
「四万とちょっとだと記憶しております」
「四万?私がここから出たのは数千万年も前だけど……」
「バベル様曰く、空間を断たれた影響で外とは時間の流れが違うとのことです」
「ルナ様。拙いのではないでしょうか?ここと外で時間の流れが千倍以上も違うとなれば」
「大丈夫。繋がってる本体からの情報によれば、今時間の流れは同じになってるみたいだから」
「同じに?」
「うん。私の『理』の権能が働いてるみたい。……ジークに頼みがあるのだけど」
黙って話しを聞いていたジークフリートに主は頼みわ告げる。
「バベルとスカサハの下に案内してくれないかな?」
「分かりました。私の背にお乗りください。そこの……」
私が名を告げていなかったのもあって、ジークフリートは私をなんと呼べばいいのか困っているようだ。
「あ、申し遅れました。テスタロッサと申します。テスタロッサとお呼びください」
「ありがとう。テスタロッサも私の背に乗ってくれ」
主と私がちゃんと乗ったのを確認したジークは力強く羽ばたき、大空へと浮かび上がる。
「それでは行きますよ」
こうして主と私はジークフリートの背から景色を眺めながら、主曰く終焉機構について知っいる可能性が高いという二人の下へと向かうのであった。
“模倣„
無属性魔法。
自身が一度でも見たことがあり、更には性能、構造といった点に関して理解していなければ発動出来ない。一般人程度では粗悪品しか模倣出来ない。
テスタロッサの『眼』はかなり特殊なため、一度見れば理解することが出来る。そのため殆どの武具防具を模倣可能。
テスタロッサ
身長:162cm
髪色:黒
髪型:セミロング
ルナ
身長:15cm(小人モード)、160cm(実際の身長)
髪色:アッシュブロンド
髪型:ロング