白い赤
少しだけ残酷描写があるかもしれません。
「おーい、起きねーと次移動教室だぞ」
耳元で声がする。こんなに眠いのに私を起こそうとするなんて誰だ。
「いつまで寝こけてんだよ」
体が揺すられる。無視して寝なおそうとすると揺れが徐々に強くなってきた。
「おーきーろー」
流石に無視しきれなくなってきたので、けだるい体に鞭をうって顔を上げた。
「やっと起きたか、ねぼすけ。また夜遅くまでゲームしてたろ。なに顔を上げただけで重労働したみたいな顔してんだよ。」
「えっと....」
目の前には『彼』がいた。幼馴染の面倒見がいいお兄ちゃんみたいな人。
「何してるの?」
「はぁ、お前まだ寝ぼけてんな。とっくに三時間目が終わって移動教室なんだよ。お前がなかなか起きないからみんな行っちまったじゃん。」
「待っててくれたの?ありがとう。」
「まぁーな。お前は昔から手がかかるから仕方ない。」
そんなこと言いながらいつでも私の手を引いてくれた優しい人。
「ほらチャイムなっちまうだろ。行くぞ。」
「あっ待って。」
彼が離れていく。追いかけようと立ち上がると少しだけめまいがした。思わず目をとじた。
「大丈夫か?」
「うん。大丈夫。」
目を開けると彼がいた。でも先程の風景とは打って変わって、人のいない教室ではなく、電飾の光る町並みが広がっていた。横には彼がいて私の目を心配そうに覗き込んでいる。
「体調が悪いならどっか店にでも入って休むか?」
「大丈夫だよ。」
近くのケーキ屋ではサンタ服を着たお姉さんが積まれたケーキを売っている。どこからかジングルベルが聞こえ、目の前には大きなクリスマスツリーがこれでもかと光っている。
これは確か、初めての恋人としてのクリスマス。
「綺麗だよなぁ。俺いつも思うんだけどさ、太陽の光とか月の光とか電飾の光とか、光ってついてるものってさ大体綺麗じゃん。じゃあさ命の光とか言うのもやっぱきれいなのかなーって。」
「何それ、今日はちょっと詩人だね。」
「似合わなくて悪かったな。いいだろ別に。」
「おかしいって言ってるんじゃないよ。不思議って言ってるの。」
「何が違うんだよ。」
「もう、すねないでよ。」
私は彼のたまに見せるちょっと子供っぽいところが好きだ。可愛くてついいじめたくなってしまう。
でも、彼の笑う顔を見ているとたまに胸がモヤっとする。何かを忘れてしまったような焦りがわいてくる。
大切すぎてどうしようもなく壊してしまいたくなる。
ふと気づけばまた場所が変わっていた。薄暗い部屋、いるのは私と彼ともう一人。彼は冷たいフローリングの床に最近彼につきまとっていたストーカーと倒れている。二人共真っ赤に濡れていて、彼のお腹にはナイフが刺さり青白くなった顔は彼が、もうここにはいないことを告げていた。女はお腹に数カ所穴が開き、体をピクピクさせながらも、まだ生きていた。女が恐怖に彩られた顔で私を見ながら叫んでいる。
「ひぃっば、化物!いやぁっ来ないでっ!いやあああああああ」
体はもう動かないのか、もがくだけで逃げられはしないし、叫んではいるが声はかすれ血を吐いている。
「ば、ばけ...くぼっがっ。」
うるさいから喉と頭に穴を開けた。
私のおしりあたりから生えた白く長い触手で。