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正妃の偽り  作者: 雨生
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対決 〜騎士は王を追いつめる〜

 焦る気持ちを抑えきれず、トシェンは急ぎ足で正妃の間のエリリーテの元へ急ぐ。

 クリアージュが一緒に行くと言って譲らなかったが、エリリーテが襲撃されたのを側で見てしまい、すっかり怯えてしまったティカーンの警護に残してくるしかなかった。

 

 正妃の間の扉の前で護衛をしていた兵士が中に向かって声をかける。

「陛下がお見えです」

 すると、扉をそっと開けて、扉の隙間から出てきたのは、エルーシアンであった。

「正妃様はお休みになられておいでです」

 背中でぴたりと扉を閉じると、エルーシアンは挑むようなまなざしをトシェンに向けてきた。

 ここから先は一歩たりとも通さないというような、覚悟が見て取れ、トシェンはいささかその気迫に押された。

「我が正妃の見舞いに来たのだが」

 焦る気持ちを隠して、トシェンは威圧的にそう告げる。

 瞼にはエルーシアンに抱えられて、翻ったエリリーテの髪とドレスの残像がよみがえる。そのことがトシェンを不機嫌にさせている。

 自分の正妃の見舞いに来たのに、それを別の男、それも正妃と特別に親しいこの男に阻まれるのは我慢がならないそんな気持ちも心を過ぎる。

「通せ!」

「今はなりません!」

 扉の番をしていた兵士とトシェンに付き従ってきた小姓のキリクがそのやりとりに息を飲んでいる。

 本来ならば「陛下に向かって無礼であろう!」とエルーシアンを叱責する立場にありながら、彼らもまたエルーシアンの気迫に飲まれているのだ。

 

 しばらく扉の前でトシェンはエルーシアンとにらみ合っていた。

 すると扉が内側から少し開いて、侍女のマーリンが顔を覗かせた。

「あのぉ、エリリーテ様のお召し替えが終わりましたわ」

 そうか、エリリーテの着替え中だから入れてもらえなかったのか?と、トシェンは思った。

「では、もうよかろう。入るぞ」

 そう告げてトシェンはエルーシアンの横をすり抜けようとした。

「お待ち下さい」

 その肩をエルーシアンが止めた。

 ほっそりとした、でも力強い指と、その気迫にトシェンは飲まれた。

「恐れながら、トシェン様にお話がございます」

「何用だ?」

 いささか憮然としながらトシェンは答える。一刻も早く、エリリーテの顔が見たかった。

 しかし、濃い青色のの宝石のような美しい瞳が、挑むように激しくトシェンをにらみつけている。

「あの、廊下では・・・。控えの間でお話になったらいかがでしょう?」

 おどおどした様子でマリーンが、にらみ合う二人に声をかける。

「では、控えの間へどうぞ。」

 丁寧ではあるが、慇懃無礼な態度でエルーシアンが扉を細く開ける。

 扉の番をしていた兵士は、あきらかにホッとした様子で、中に入る二人とキリクを敬礼で見送のだった。


 控えの間は薄暗かった。

 控えの間に入ったトシェンを、不機嫌そうにエルーシアンの瞳が捉えている。

「話しとは何だ?」

「マリーン、下がって」

 鋭くエルーシアンが声をかけると、トシェンの後ろに付いてきていたマリーンが、無言で出て行く。

「トシェン様、お人払いを」

 キリクが無言で抗議するような視線を向けるが、エルーシアンは無視する。

「キリク、しばらく下がっていろ。」

「はい。」

 キリクが出て行くと、エルーシアンはトシェンにソファーを勧め、自分は椅子に腰掛けた。


「そなたがエリリーテの命を救ったと聞いたが。」

 そう、トシェンが切り出す。

「はい、私がお救い申し上げました。この唇でね!」

 挑むような口ぶりで、エルーシアンが返してくる。敵意剥き出しという感じだ。

 トシェンはトシェンで、「この唇でね!」という部分に大いなる反感を覚えていた。

 エリリーテが射られたのは右肩だ。

 では、この男はエリリーテの右肩に直に唇を付けたというのか!

 カッと頭に血が上るが、冷静さを装いつつ、礼を述べる。

「おかげで我が正妃は命拾いをしたようだ。礼を言うぞ」

 我が正妃、という部分に知らず知らず力が入ってしまう。

 ムッとしたようにエルーシアンが口を開く。

「トシェン様、あなたにお聞きしたい。」

「何をだ?」

「あなたはエリリーテ様をどう思っておられるのですか?」

「!」

 突然の問いにトシェンの頭の中が白くなる。

 エルーシアンは言葉を重ねる。

「エリリーテ様はそのお命をかけてあなたを守られた。それにあなたはなんと答えて下さるのですか?」

「それは・・・。」

 トシェンには答える言葉が無い。

 頭の中を様々な思いが駆けめぐる。

 最初は、妹を思う兄のようにと、エリリーテを慈しんで来たつもりだった。

 だからこそ、この若造がエリリーテと共にいることを許しもしたし、認めてもいた。

 しかし、いつの間にか彼女は自分の心の支えとなっていた。

 矢を受けたエリリーテを抱えあげたエルーシアンを見たとき、心に渦巻いた感情は明らかに嫉妬だった・・・。


 トシェンが過ぎる想いを言葉に出来ないでいると、エルーシアンが更に言葉を重ねた。

「私なら・・・決して不幸にしないと、一生お守りすると誓うのに・・・」

「そなたは、我が正妃を・・・エリリーテを愛しているのか?」

 そう聞くと再び激しい瞳がトシェンの瞳を射る。

「ええ。愛しております」

 公然と胸を張って言い抜けるその度胸に、トシェンは感動すら覚えた。王の正妃に思いを寄せるなど、死罪に等しいというのに・・・。

 その途端、トシェンは自分の気持ちの奥底にあった、渦巻く感情を素直に認める気持ちになっていた。

「私は・・・・、そなたに嫉妬していたのだな」

「嫉妬?」

 エルーシアンの怪訝な瞳がトシェンを見つめている。

 息を詰めて、次の言葉を待っているようだ。

 トシェンは静かな声で告げた。

「私は、エリリーテを愛している」

 その途端、トシェンをにらみつけていたエルーシアンの青い激しい光を宿した瞳から静かに涙がこぼれ落ちた。

「エルーシアン?」

「・・・良かった・・・。本当に・・・」

 はらはらと落涙するエルーシアンを前に、トシェンは憮然とした気分でいた。

 一体何なのだ?!


 涙を流しながら、エルーシアンは突如トシェンの足下に跪いた。

「トシェン様、今までの非礼ご容赦下さい」




 本日4話目連投!


 あはは・・まさかの紅白横目に見ながらが現実になりました。


 エルーシアン対トシェンです。

 次話、エルーシアンの偽りも明らかに・・・。


 あと数話。

 今年中にがんばります!


 雨生あもう

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