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MMORPG―オフ会殺人事件―  作者: tillé.o.fish
第二章 惨劇
23/36

21.ひとときの

 午後 八時三十三分。


 メンバーは再び大食堂に集まっていた。

 食卓にはミートスパゲティが並べられている。これもメノウの手料理だ。

 僕は紅蓮から聞かされたネット回線のこと、それからナゾシンと立てた仮説について、メンバー全員で話し合おうと提案した。が、先に食事をすませようとメノウが強く言うので、メンバーは先に夕食をとることにしたのだった。

 けれど、メノウの言う通りにして正解だったのかもしれない。考えてみれば、食事の前に嫌な話をして気分を下げる必要なんてないのだ。

 僕はミートスパゲティを頬張りながら、何気なく白夜に目をやった。

 彼女は食事をしながら、時折、メンバーの何気ない会話にクスリと笑ったりしている。

 よかった……

 そんな彼女の様子に、僕はほっと胸を撫で下ろす。実のところ、僕は彼女が食事にこないのではないかと心配していたのだ。もしかすると、僕とナゾシンが外に出ている間に、メノウが彼女を元気づけてくれたのかもしれない。

「――おんやぁ、アンタ、なにチラチラ見てんのぉ?」

 ふいに耳元でささやかれ、僕はドキリとしてその声の主を見やった。

 シエルはワインを右手に、僕の肩に寄りかかって……というより、完全に体重を預けてしまっている。まったく、こんな状況だというのに悠長にワインなんかんで……。絡まれるほうはたまったものじゃない。

「気になんの? ねぇ気になんの? そっかぁ、シャドー、アンタああいうのがタイプなんだ」

 シエルはニタニタと意地悪な笑みを浮かべ、僕の脇腹を小突く。

「違うよっ! 心配だっただけだよっ! だぁああ、もう、酒臭いっ!」

 僕は囁き声で叫び返すと、鬱陶うっとうしそうにシエルを押し返した。

 すると、それに気づいたメノウが、

「おや? なに二人でコソコソ話してるんでつか」

 と、ニタニタしながら僕とシエルの二人を見て言った。彼女特有の『でつまつ口調』に戻っているのは、少しでも明るく振舞おうということなのだろう。

「姉さん聞いとくれ! ついにシャドーにも春がきたみたいよっ!」

 シエルがわざとらしく大声ではしゃぐ。それを聞いた紅蓮とナゾシンが、ほうと声を漏らした。

「だから違うって!」

 僕は慌てて否定する。が、返ってそれがメンバーの興味を引いてしまう。

「おや、何が違うんだい?」

 と、意味ありげに微笑む紅蓮に、

「ふむ。先ほどから白夜さんを見てたのはそういうことか」

 ミートスパゲティをモグモグさせながら言う、ナゾシン。

「うんうん。シャドーがホモじゃなくて安心しまつた。私としてはちょっぴり残念でつけど」

 メノウ至っては、勝手に『シャドーホモ説』を唱え、無邪気に微笑んでいる。

「あ、あなたたちねぇ…………」

 僕は呆れて突っ込む気にもなれなかった。ふと白夜に目をやると、彼女は食事の手を止めて、クスクスと笑っている。うぅ……恥ずかしい。

「こりゃ、帰ってから『UoE』プレイするのが楽しみだねえ」

 そんな白夜とは対照的に、シエルはケタケタと声を上げて笑っている。

 ……くそぅ、覚えてろよぉ……っ!

 声にすると後が恐いので、僕は胸中で捨て台詞を吐くことにした。

「ははっ! 楽しみがひとつ増えてオレは嬉しいよ! ……ん、いや待てよ……」

 と、そこで紅蓮があることに気づいたらしく、声をひそめて言う。

「そうなると、『UoE』での白夜さんは男だろう……?」

 ……あ。と、声を漏らす僕と姉御の二人。

「ふむ。周囲にはホモだと誤解されるだろうな」

 ナゾシンはさも当然のように言ってのけると、口の端についたソースをペロリと舐めとった。

「ぷぁっはははっ! ナゾ君! それ真顔で言う? マジぱねぇわっ!」

 シエルがゲラゲラ笑いながら、食卓をバンバン叩く。

「ああもう! 好きにすればいいさ、もうっ!」

 僕は叫んでから、ふてくされたようにミートスパゲティを口に含んだ。

「……今、好きにすればいいって言いました?」

 ふと、白夜が僕に向かって、言った。

「…………?」

 思わぬ展開に、僕はミートスパゲティ口に含んだままのポーズで、彼女を見返すことしかできなかった。

「私……いいですよ。『UoE』の世界でなら、シャドーさんと愛し合っても」

 白夜は口元を両手で覆い隠し、恥ずかしそうに身をよじる。

 僕はミートスパゲティを盛大に吹いた。

「うおおお! 愛の告白キター!」

 シエルが半ば奇声に近い叫び声を上げ、

「春だねー! まさか両思いだったとは! おめでとう!」

 紅蓮が祝福の拍手を僕に送る。

「意味が違うでしょ! 意味がっ!」

 僕はがたりと食卓に身を乗り出し、ばんと両手で食卓を叩いた。

「安心しなさい。ギルメンには、白夜たんが女の子だったってこと、伏せておきまつから」

 そう言って、何故かメノウは誇らしげに親指を立てた。……最悪だ。僕をいじめて何がそんなに楽しいんだ……

「もう、好きにしてください……」

 僕はがっくりとうなだれて、どかりと席に腰を落とした。それから言葉通り、好きにしてくれと言わんばかりに両腕を広げて見せる。

「はははっ! 悪かったよ。まったく、からかいがいがあるね、君ってヤツは!」

 紅蓮は腹を抱え、目に涙を浮かべている。まったく、この人たちときたら……

 ……けど、まあ、いいか……

 僕は笑顔の白夜を見て、そう思うのだった。そしてそれと同時に、クキが知ったらきっと楽しそうに笑うだろうな。なんて考えがよぎって、胸がきゅっと締め付けられた。

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