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MMORPG―オフ会殺人事件―  作者: tillé.o.fish
第二章 惨劇
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21/36

19.設計者

 午後 四時三十七分。

  

 クキの遺体を発見してから、二時間と三十分。

 メンバーは大食堂に集まっていた。

 突然の出来事に、僕らは混乱しながらも、やれるだけのことはやったと……思う。

 いつも冗談ばかり言って僕を困らせて楽しんで、でもどこか憎めない茶目っ気のある女性ひと……

 それが今は、自室のベッドで眠りについている。もう二度と、目覚めることのない深い眠りに……

 しかし僕はまだ、彼女の死を実感できずにいた。

 なんと言えばいいか。頭では理解しているのに、心が追いつかない。そんな感じだ。

 僕は大きく息を吐き出し、食堂に集まったメンバーに視線を泳がせる。

 メンバーはそれぞれに、戸惑いと、悲しみの入り混じった複雑な表情を浮かべていた。

 口を開こうとするものは誰もいない。何か言わなくてはと思うだが、どう切り出していいのかわからないのだ。

 長い沈黙が続く……

 ずんと、肩に重く伸し掛るような空気のなか――

「姉さんのことは……残念だったと思う」

 はじめに口を開いたのは、シエルだった。

 看護師という職業柄、人の死を一番身近に感じているからなのか。それとも彼女がドライな性格だからなのか。彼女はもうすでに落ち着いている様子だった。

「……けど、悠長に悲しんでいられる状況じゃないってことは、みんなわかってると思う」

 だから、ここに集まったんでしょ? そう言いたげに、シエルはメンバーに視線を投げかける。

「そう、だな……。わかってる、わかってるさ」

 紅蓮が呟く。まるで自分に言い聞かせるような小さな声だったが、この静まり返った空間のなかではよく響いた。

「では、改めて確認したいのだが……」

 ナゾシンは躊躇(ためら)うようにそこでひと呼吸置いてから、

「……クキさんは、本当に殺されたのか?」

 シエルに言った。

 すると彼女はこちらを見据えて、ゆっくりと頷いて見せる。

 僕と紅蓮は、がっくりと肩を落とし、落胆の溜め息を吐いた。

 ――その一方で。

 メノウと白夜のほうは、それをちらと見て確認しただけで、またすぐに沈んだ様子で俯いてしまう。きっとまだ、気持ちの整理が出来ていないのだろう。……それは僕も同じだが。

「それで、誰が彼女を殺したかって話なんだけど」

 しかしそんな感情などおかまいなしに、シエルは続ける。

「一応、あたしなりに考えてみた。……たぶん、みんなも同じ考えだと思う」

 同意を求めるような口ぶりに、目を細める男性陣。

「彼女の傷口を見りゃ誰でもわかることだけど、アレは誰かが刃物で切り裂いた跡だったよ。……だから、他殺。……で、なんで他殺かって言うと、そもそも自殺する理由がないし。それに、犯行に使われたはずの凶器が、どこにも見当たらなかったからね」

 僕らは黙ったまま、彼女の話に耳を傾ける。

「死人が歩いて凶器を隠すなんて、ンなバカな話があるわけないでしょ? だから、姉さんを殺した犯人が凶器をそのまま持ち去ったはず。……となれば、現状で考えられる怪しい人物はただひとり――」

「だから、フェイスさんが犯人……ってこと?」

 そこで僕は、はじめて口を開いた。問いかけるような眼差しを彼女に向ける。

「そりゃアンタ。この状況からして、そうとしか思えないでしょ」

 彼女は半ば投げやりに答えると、後は勝手にしろと言わんばかりにひらひらと手を振った。

「……決め付けるのはどうかと思うが、現時点ではオレもそうとしか思えない」

 それを後押しするかのように、紅蓮。

「メノウさん、そろそろ教えてくれてもいいんじゃないかな?」

 彼は、俯いたままのメノウに優しい口調で語りかけた。

「…………」

 しかしメノウは気付かない。

「……メノウさん?」

 紅蓮がもう一度、声を掛ける。するとメノウははっとして僕らの顔を見回し、

「えっ……? えっと、ナニ?」

 と、()けた表情で返事をした。心ここにあらず、といったところか。

「姉さん、いままでの話……聞いてた?」

 僕がやや(あき)れぎみ言うと、彼女は「あっ!」と声を上げ、その瞳に生気を取り戻す。

「う、うん、もちろん聞いてたよ! ……はあ……ごめん、私、ぼーっとしてた……」

 謝罪する彼女に、僕はどうしたものかと、ぽりぽりとこめかみの辺りを掻いた。

「見ればわかるよ。話したい気分じゃないことぐらい。……でも、姉さんには訊いておきたいことがあるんだ」

 未だに姿を現さないフェイス。彼が姿を見せなくなってからも、メノウは『大丈夫』の一点張りだった。

 その理由を、僕たちは知る必要がある。

「うん。わかってる。フェイスのことだよね」

 それを聞いたメンバーは無言で頷き、彼女が続きを話すのを待った。

「実は……、この島を設計したのは、フェイスなのよ」

「………………は?」

 僕はぽかんと大口を開けたまま、硬直する。あまりにも唐突すぎる発言に、思考が全く追いつかない。

「もう一年以上も前になるかな……。ちょっとしたきっかけでこの島を買うことになったのがきっかけなんだけど――」

「ちょ、ちょっと待って姉さんっ!」

 大声を上げて、がたりと食卓に身を乗り出すシエル。

「意味わかんない! 全っ然! 意味わかんないからッ!」

 彼女はそのままの体勢で、首と手首を大きくぶんぶんと振った。

「ふむ……。確かに……意味がわからない」

 ナゾシンも思案するかのように、口元に手を当て、眉間にシワを寄せている。

 そんなメンバーの様子に、メノウはきょとんとした表情で、

「そのままの意味だけど……?」

 と、当たり前のように呟く。

「……すまない。突然すぎて理解できなかったんだが……。その、オレたちにもわかるように説明してくれないかな?」

 紅蓮は気遣うような優しい口調で、もう一度説明するようメノウに頼んだ。さすがは社会人。大人の対応だ。

「だから、そのままの意味だよ」

 メノウはむすっとした表情で、若干不機嫌になりながらも、話を続けた。

「もう一年以上も前の話になるから、細かなことは覚えてないけどね。うちの財閥が、この島を購入したって話をフェイスとしたのよ」

 ここまでは理解できた? という彼女の視線に、僕たちは頬を引きつらせながら、うんと相槌を打つ。

「そしたら……、う~ん、ここも細かいことは覚えてないんだけどね。フェイスが、実は建築関係の仕事をしてるって話になって、『じゃあ、この島を『UoE』みたいにしちゃおうか』って話をしてたら、盛り上がっちゃって……」

「現在に至る……と?」

 ナゾシンが言うと、メノウはうんと首を縦に振った。

 その後の経緯はもう知っている。

 一年前の彼女の発言から、招待状が届き、僕たちは現在いまここにいるのだから。問題なのは……

「それで、今回の宝探しの話なんだけど」

 そう、宝探しだ。

 フェイスがこの島の設計者ならば、どうしてはじめからそう言わなかったのか?

 何故、彼自身も宝探しに参加したのか?

 わからないことだらけだ。

「この島を設計したのは黙っていて欲しいと、フェイスに言われてたの。もちろん、フェイスは宝の隠し場所を知っていたよ。だから理由を訊いたの。そしたら、『せっかく用意したのだから、主催者であるメノウさんにも楽しんで貰わないと』って。『それに、もし、誰も宝を見つけることができなかったら、種明かしする人間が必要になるからね』って……」

 なるほど。こんな状況でなければ、十分に納得のできる話である。

「フェイスが消えた理由は、私にもわからない。けど、彼はこの島のことをよく知っているはずだから、大丈夫だろうって……。私はそれくらいにしか考えてなくて……。それに、最終日には種明かしする予定だったから……。遅くても明後日には姿を見せるだろうって……」

 話していくうちに、ふつふつと後ろめたい感情が湧き上がってきたのだろうか。段々と歯切れの悪くなっていくメノウ。

「うん……、大体、話はわかった」

 そんな彼女に、シエルは優しく微笑みかける。

「悪いね……。こんな状況じゃなきゃ、急いで話して貰うことはなかったんだが」

 バツが悪そうに、紅蓮は頭を掻いた。

「いや、私のことは気にしなくていいよ。それよりも……」

 言いかけて、メノウは白夜を横目にする。

 白夜はいまにも泣き出してしまいそうな表情で、ずっと俯いたままだった。緊張が取れないのか、椅子の上で体を縮こまらせ、時折重ねた両手をギュッと強く握り締めたりしている。

「白夜たんは少し休ませたあげたほうがいいよ。……ひとりだと不安だろうから、しばらく姉さんがついてやって」

 シエルの指示は的確だと僕は思った。死体の第一発見者である白夜が受けたショックははかり知れない。それに、シエルやメノウと違って、彼女はとても繊細なのだ。

「では、白夜さんとメノウさんには休んでもらうとして……。これからどうする?」

 ナゾシンがメンバーに問いかけると、

「さて、どうしたものか……」

 紅蓮が頭を抱えて唸った。

「ただ、フェイスさんがまだ犯人と決まったわけじゃない。証拠も無いのに状況だけで決め付けるのは良くないと思うんだ」

 するとシエルが、

「は? アンタさっき、あたしの意見に賛成って言ってたでしょ!」

 強い口調で紅蓮を追及した。

「それはそうだが……。彼が犯人だと断定するにはまだ早いと思うんだ……」

「そりゃ……アンタがフェイスと仲がいいのは知ってるけどさ……。けど――」

 と、そこでシエルは言いかけた言葉を飲み込んで、

「やっぱいいわ」

 一言、苛立いらだち混じりにそう告げると、途端に黙り込んでしまった。

 理由はわかる。

 だから、彼女が言おうとしなかったその先の言葉も僕にはわかる。それは――

『それなら、このなかに犯人がいるって言いたいワケ?』

 もしその台詞を口にすれば、確実に口論となるだろう。そうなれば、メンバーの信頼関係が崩壊してしまう恐れがある。

 彼女はそれを避けたかったのだ。

「……とにかく、まずは警察に連絡だ。それから、船にもすぐ迎えに来て貰えるよう伝えて……。ああそうだ、誰かクキさんの本名と連絡先を知ってる人は?」

 紅蓮もそれを感じたのか。もうその件には触れようとはせず、かわりに別の話題を切り出した。

「それなら私が知ってる。招待したのは私だからね」

 メノウが答えた。

「ああ……、そうだったね。主催者のメノウさんが知らないわけないか」

「うん。警察と船にはあとで私が連絡しておくよ」

「そうか、悪いね」

「……ううん。こうなったのも私の責任だから……。それが筋だと思う」

 そう言うメノウに、

「別に姉さんの責任じゃないよ。悪いのは犯人なんだからさ」

 と、シエルが吐き捨てるように言った。彼女なりのフォローのつもりなのだろう。

「ふむ。その通りだ」

 ナゾシンもそれを後押ししてから、

「……しかし、警察はすぐに来れるのか?」

 と、メンバーに疑問をぶつけた。

「そうだな。ヘリでも要求しない限り、すぐにはやって来れないはずだ」

 それに紅蓮が答える。

「では、それまでの間、どうする?」

 と、ナゾシンがまた。メンバーはむぅと押し黙った。

「…………今できることと言えば……」

 僕の小さな呟きに、メンバーの視線が集中するのを感じた。

「迎えが到着するまで待ち続けるか。フェイスさんを捜し出して直接話を聞くことだけ……。というか、それしか思いつかないんだけど……」

 どうかな? と言った風に、僕がメンバーに目配せすると、

「なら、捜しに行くか?」

 意外にもナゾシンが前向きな姿勢で僕の提案に乗ってきた。

「捜すって……簡単に言うけど、そう旨くいくかな? 焦って行動するのは逆に危険だとオレは思うが……」

 その一方で、紅蓮が反対の意見を述べる。

「それに、皆がバラバラに行動すれば、それこそ犯人の思う壺のような気がする」

 彼の意見に、ナゾシンはしばし思案した後、

「では、女性陣と紅蓮さんは館に残る。紅蓮さんがいれば、犯人も迂闊うかつに手出しはできないはずだ。フェイスさんの捜索には、俺とシャドー君の二人で行こう」

 と、改めてメンバーに提案した。

「しかし、むこうは凶器を持っているはずだ。それだと二人が危険じゃないか?」

 それでもまだ否定的な発言をする紅蓮に、

「あたしゃそれでいいと思うよ」

 と、突然シエルが割って入った。

「少なくとも、細くて頼りなさそうなのが二人より、アンタひとりのがよっぽど頼りになるからね」

 皮肉めいたことを言って鼻で笑い飛ばす彼女に、僕は思わず『アンタ自分の身の心配だけかよっ!』と、ツッコミそうになったが……

 彼女なりに気を使って言ってくれたのだろう。

 だから、あえて僕は何も言わずに……ムスッとだけしておいた。

「では、それで決まりだな。シャドー君もそれでいいか?」

 ナゾシンの今更な台詞に、

「いいかもなにも、そうするしかないんでしょ」

 僕は投げやりに答えた。

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