4.ギャル聖女のご機嫌取りをせよ!
「本当にありがとうございました」
「素直でよろしい」
エステラはふふんっと鼻を鳴らして上機嫌だ。
大方、不得手なバトルで活躍出来たのが嬉しかったんだろう。
「とっとと強くなってよね。アタシは見ての通りのか弱いレディーなんだから」
「しょっ、精進します」
幸いなことに、ソフトテニスを基にした『勇者の剣』はそこそこ通じた。
けど、喜んでもいられない。
2Dのコマンドバトルの時には見られなかった課題が山積みなんだからな。
一番の問題はやっぱパワーか。
ああいう手合いと対峙した時どう対処したらいいのか。
ぜひともプロの先生にご指導をいただきたいものだ。
「あの……ここは世界の……『アストリア』のどのあたりなんですか?」
「は? 何で敬語?」
「えっ? あっ……ごめん」
気難しいな……。
俺、この子と上手くやっていけるのかしら。
睨まれる度に心底不安になる。
「王都近くの『アッシュウッドの森』よ」
「……マジか」
原作では、聖教の本拠地がある『パクスノヴァ』が始まりの地だった。
ワールドマップで言えば、ここから森、平原、山をそれぞれ一つずつ越えた先だ。
エステラはどうしてこんなところに?
それもたった一人でいたんだろう?
疑問はつきないが、事情を聴くのは後だ。
「さっき俺を鍛えるって言ってくれたよな? それってつまり、騎士学校に連れて行ってくれるってことか?」
「察しがいいわね。その通りよ」
「伝手があるのか?」
「ええ。前に私の護衛をしていたバルダスって男よ」
「バルダス……さん……」
エステラの元護衛。
そんなキャラクターは原作には出てこなかった。
言わずもがな、ゲームが現実になったことで生まれた人なんだろう。
これから先もこういう辻褄合わせが多分にあると見た方が良いだろうな。
原作知識はいくらか持ってるが、過信し過ぎないようにしよう。
「アンタ、バルダスのこと知ってるの?」
「あ、いや! ごめん。その人のことは知らない」
「何よ、神妙な顔しちゃって。紛らわしいわね」
「すっ、すんません……」
「アイツは最高の騎士よ。言う通りにやってれば、きっと強くなれるはず」
「信頼してるんだな」
「まあね」
「バルダスさんは、どうして辞めちゃったんだ?」
「真面目だからよ」
「えっ……?」
それってつまり聖教が対極にあるってことか?
どうして? 原作ではクリーンな宗教だったのに。
エステラがグレた……こんな格好で一人でいたのと何か関係があるのか?
「…………」
「…………」
聞きたいことは山ほどある。
叶うことなら一つ一つ聞いていきたいところだけど、この気難しいギャル相手だとどうにも萎縮してしまう。
分かり切っていたことだけど、俺……ギャル苦手なんだな。
「ふごっ!?」
急に鼻を摘まれた。
なっ、何だ!? 意味が分からん。
「あの、ひゃにか?(あの、何か?)」
「……別に」
何でもないようには見えなかった。
端的に言えばむっとしている。
ああ、そうか。思えば出会って間もないのに込み入った話をし過ぎたな。
不快に思うのも当然だ。これは百パー俺が悪い。
「ほらっ、そうと決まれば学校がある『エルスワース』に向かうわよ」
「へっ!? あの治療とかは?」
「ムカついたからやってやんない」
「う゛っ……あい……」
俺はよろよろと立ち上がって、エステラの後に続いて歩き出す。
うおぉおっ……っ、一歩が、一歩が物凄く重い。体が鉛のようだ……。
「ちょっと。横歩きなさいよ」
「え? あ、ハイ」
言われるまま横に並ぶと、少しだけエステラの口角が上がった。
それと同時に体が軽くなっていく。
気付けば俺の体は緑のオーラで包まれていた。
どうやら治癒魔法をかけてくれているらしい。
勝気で気まぐれ。何だか猫みたい子だな。
結衣と俺が創ったエステラとはまるで違う。
他のヤツらもそうなのかな。
楽しみな反面、何だかちょっと怖いな。
それにしても、『俺はまだ……』か。
少し前までは死にたいとすら思ってたのに。
我ながら調子がいいなと思う。でも、こんな自分も悪くない。




