3.ギャル聖女を守れ!
このなりは盗賊か?
デニムのショートパンツに革製のブラ。
肩には赤と緑のオーバーサイズのマントを羽織っている。
この人が聖女?
いや……まさかな……?
「あの……失礼ですがお名前は?」
「リヴィア」
内心でガッツポーズをする。
そうだよな! こんな脚癖の悪いギャルが、聖女なわけ――。
「立って」
「はい?」
「鍛えるのよ。今のままじゃ使い物にならないでしょ」
「エステラじゃねえか!!!」
決定的だ。聖女は所謂『鑑定眼』持ち。
敵味方のステータスを見通すのは勿論のこと、『女神の導き』というていで、パーティーに勧誘可能なキャラかどうかも判別することが出来る。
俺がダメダメな勇者であることを見抜くのなんて朝飯前だろう。
「ふごっ!?」
また蹴られた。今度は鼻だ。
激痛が走ると共に、ぶわっと涙が溢れ出す。
いくら何でもあんまりじゃないか?
「バカ!! んなデカい声で呼んだりしたら――」
「よう兄ちゃん、今エステラって言ったか?」
森の奥から二人組の男が現れた。
チュニックにブーツといかにもな中世ルックだ。
片方は痩せ型で、片方はマッチョ。
腰には当たり前のようにサーベルを下げている。
お世辞にも善人には見えないな。
ガリの薄ら笑いが、マッチョの威圧感が、俺の体を強張らせる。
「これが聖女か。へへっ、悪くねえな。引き渡す前に、ちと味見させてもらうとしようぜ」
「お生憎様。アタシは女盗賊のリヴィアだよ」
「無駄口を叩くな。大人しくついてこい」
マッチョが一歩前に出た。
それと同時にエステラがナイフを抜く。
どうやら戦うつもりでいるらしい。
けど、構えがおかしい。足幅が狭すぎる。
これじゃマッチョはおろか、ガリの弱攻撃すらまともに受け止めることは出来ないだろう。
「ちょっ、何よ」
「下がってろ。お前、ろくに戦えないんだろ」
「……っ」
俺は革製のフィンガーレスグローブで鼻を拭いながら、エステラの前に立った。
そう。今の俺はもうスウェット姿じゃない。
結衣と作った勇者のウェアを身に纏っている。
トップスは白×黄土色のフード付きのパーカー。
ボトムはグレーのスキニーパンツで、ショート丈のブーツを合わせている。
かなり現代的なデザインだけど、腰や太腿に小さなポーチを付けることで、かろうじてファンタジーっぽさを担保している。
「俺はコイツのツレだ。悪いけど、手を引いてくれないか?」
「そうかい。なら、消えてもらうまでだ」
「交渉の余地なしか」
「へへっ、悪く思うなよ!」
ガリが目をギンギンにして襲いかかってくる。
コイツ、マジだ。命の危機を感じてか、俺の喉は干上がり、鼓動は大きく跳ね上がっていく。
俺は日本生まれの日本育ちだ。戦いの経験なんて微塵もない。
だけど、勇者の戦い方は知っている。
現実になったこの世界でどこまで通じるかは分からないけど、やるしかない。
今この場でエステラを守れるのは、俺だけなんだからな。
意を決して剣を抜く。
一見するとショートソードのようだけど、グリップは正八角形になっている。
ラケットと同じ要領で横にくるっと回してみると、やっぱちょっと重たかった。
けど、凄くよく馴染む。
巻かれているテープも、俺好みのウェットタイプのものだ。
――これならいけるかもしれない。
そんな予感を胸に、剣を両手で持って腰を落とす。
「ギャハハッ! 腰が引けてるぞ、坊主!!」
「まぁ、そう見えるわな」
左右に一、二、三とステップを刻む。
ガリが剣を振りかぶった。
俺はそれと同時に両脚で跳ねて。
「なっ!?」
ガリが斬り込んでくる瞬間に、左斜め前に踏み込んだ。
そして、左下から右上に向かって斬り付ける。
「ぐぁあぁあああ!!??」
傷口から血が噴き出す。~~っ、怯むな。
相手は殺す気で来てるんだ。加減なんて出来るわけが――。
「っ!」
不意にガリの体が黄金の光で包まれた。
かと思えば、「ほにゃん」と間の抜けた声を上げて倒れ込む。
振り返ると、エステラが指鉄砲の構えを取っていた。
指先には金色の魔力の残滓が漂っている。
エステラは攻撃魔法を扱えないはずだから、回復魔法を放ったんだろうけど……なんつーか独特だな。
「勇者が人殺しじゃまずいでしょ! そっちの木偶の坊も治してあげるから、全力でいきなさい!」
「あっ、ありがとう――っ!!?」
ほんの一瞬目を離した隙に大男が斬りかかってきた。
何とか受け止められたが、みるみるうちに後退させられてしまう。
力の差がありすぎる。必死で押し返しているのに、まるでビクともしない。
「調子に乗るなよ、このガキ」
「がはっ……!」
遂に木にぶつかった。
刃が喉元まで迫って来る。
ヤバい! やられる! くそっ!! 俺はまだ――!
「ちっ!」
突然男が後退した。見れば地面にナイフが突き刺さっている。
エステラだ。肩で息をして男を睨みつけている。
どうやら援護してくれたらしい。
男は余程頭にきたのか、未だエステラの方に目を向けていた。チャッ、チャンスだ!
「さんきゅ!!」
俺は決死の思いで駆け出す。
これを逃せば、もう勝機はない。絶対に決める。
男の目の前まで迫ったところで、右足のかかとで着地。
足裏全体で地面を踏んで重心を落とすと、地面を蹴るようにして――体を回した。
「うらぁ!!!」
「ぐはぁ!!?」
今度はフォアで斬った。全力だった。それでも、男の闘志は揺るがない。
まだ足りない。もっと、もっとだ。
「っ、おらあぁああ!!!」
「ぐああぁぁあああ!!!」
手首を切り返してバックで。
また切り返してフォアで。
血と黄金の光を浴びながら、八の字を描くようにして男の体を斬り刻んでいった。
攻撃を止めたらやられる。必死に自分にそう言い聞かせて。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
一体どれだけの時間が経っただろう。
見上げるほど大きな男の体がようやく地面に倒れ伏した。
「かっ、勝った~……」
ひょろひょろな声で勝利宣言をして、大の字で寝転ぶ。
上着を脱ぎ捨てたいところだが、最早そんな力すら残っていない。
っていうか、あれ? 服全然汚れてないな。もしかしてこれもエステラの魔法?
「情けないわね」
月をバックに、青髪の美少女が覗き込んでくる。
ギャル聖女ことエステラ様だ。
また蹴られたけど、軽く触れさせる程度だった。
これはデレと捉えていいのだろうか。
曖昧にへらへらと笑っていると、俺の隣に腰掛けてきた。
途端に俺の鼓動が跳ね上がる。
改めて見ると超可愛い。
顔ちっさ。目デカ。
目つきが悪いせいで目尻が尖って見えるけど、よく見たら垂れ目だ。
青緑がかった目も凄く綺麗だな。
なのに、空色の髪の切り口はガタガタで。
誰かに無理矢理切られた……とかじゃないよな?
「アンタ、アタシがいなかったら確実に死んでたわよ」
「仰る通りで」
エステラのナイフでの援護を振り返り、俺は座ったまま可能な限り深々と頭を下げた。




