眼帯従者はぼんやり令嬢が心配で仕方がない。(ニーチェ視点)
執務室から、わかるくらい何故かざわざわと落ち着きのない雰囲気が漂い、あまりの不自然さに思わず、感情が濾過されることなく、そのまま疑問が口から出た。
「なんだか外が騒がしいな。」
「確かに、ちょっと見てきてくれる?ゆっくりでいいからさ」
アイン王女は、お願いと言ったあとに追加の用件をいくつもつけたしてきたが、まぁこれは日常茶飯事だろうと、廊下を歩いていると、見慣れているものの、王宮で会うには珍しい人物らがそこにいた。
「あれ、マオ先輩、それにチェルシーさんにシャルルさんも」
どうしたんですか、と聞く前に、シャルルさんがにこにこと人懐っこい笑顔を浮かべた。
「やっほー元気ぃ?」
「はぁ……元気ですけど、どうかしたんですか?三人揃って王宮に来るなんて……」
あまりの珍しさと、ルルさんの陽気さにあてられ、そう言うと先輩は少し考えたあとに
「……まぁ、お前も無関係じゃないか……」
「何か意味深だなぁ……」
思わず普段どうりにそう答えるも、どこか悩ましげに首をかしげる先輩に、ルルさんが猫のようにじゃれつつ宥めるかのように声をかけた。
「マオちゃん。別に箝口令がしかれたわけでもないし、言っていいんじゃない?」
「はいはい、ルルと同意見」
そう、チェチェさんも手を上げてようやく先輩は根負けしたように納得した。
「まぁ二人がそう言うのなら」
といったあと、こちらに向き直り、すこし眉間に皺を寄せて告げた。
「ニーチェ、ちょっと時間もらえるか?」
幸い、急ぎの用件もないし、王女には後で遅れたことを謝ろう。
とりあえず、先輩が何を言っても動じない覚悟を持とうとするも、それはあまりにも酷い状況に、打ち砕かれてしまったのだった。
そして、約10分後、ややげっそりとした表情の先輩は、ようやく解放されると言いたげだった。
「……そういうわけだ」
と、事のいきさつを説明されたが、勿論それを聞いてなるほどな、まぁそういうこともあるよな、うんうん、先輩も大変だなぁ……となるわけもなく
「はぁぁあぁ!?」
……人気が少ないとはいえ、王宮で出してはいけない程の、ほぼ絶叫と言っていいほどの声を上げてしまったが、三人は、こうなることが分かってたというような雰囲気で
「うんうんわかるよぉーそうなるよねぇ」
「予想の範囲内だな」
「まぁ気持ちは分かるなぁ」
三人各々感想を言った後、それは仲良さそうに
「「ねー」」
と、合唱するが、こちとらさっき聞かされて、それどころでは全くなく、思わず真顔で首を振ってしまった。
「いやいや、今あんたらの仲良しみて、ほほえましいなぁってなごんでる場合じゃないんですよ。」
「えーでも尊いでしょ?」
「すごい自己肯定感、フルルに分けてあげたいっすわ……」
ルルさんが、効果音で言うと、きゅるんという感じで可愛らしく言うも、脳裏に浮かんだのは、いつも自信なさげな表情の、たまに突拍子のないことをぽやぽやと呟く、フルルのことが脳裏に浮かんだ。
「あらぁ~教え子がねらわれてるよぉマオちゃん」
きゃーと猫みたいにルルさんは可愛らしく騒ぐも、もういろんなことを聞きすぎて、反抗する元気もなくただ、静かに手を上げて答えた。
「狙うも何も、正式な婚約者候補なんだけどなぁ」
「……まぁ、節度は大切にな」
「あ……はい、じゃなくて」
まさかの先輩の助言に戸惑うも、何とか言われたことを整頓しようとするも先ほどまで静観していたチェチェさんが笑顔で悪魔のような提案をした。
「あっそうだ、細かい説明は、王女殿下にもするつもりだから、いくかい?」
「そんなお茶しない?みたいな軽い感じで……行きますけど……。」
そうして、四人で執務室までいって、事のいきさつをアイン様に説明するとそれは見事に、フルルがせっかく整頓してくれていた書類が、全部机から雪崩おちた。
いつもだったら、全くもうと思うところだが、今回ばかりはそれだけでよく済んだな、と逆に褒めたくなってしまう。アイン王女は、フルルのことを部下兼友人……というか、飼い猫のように、とてもかわいがっているのは間近で見ているからよくわかる。
フルルは貴族令嬢だが、ほとんどを領地で過ごしてたせいかのんびりしているし、良くも悪くも、噂や権力には疎いし興味なし、そもそも、他人を蹴落とそうとかも考えていないから、一緒にいて楽らしく、あのぼんやりしているところが、可愛いとよく言っている。
……と話がそれたが、次に来るであろう叫びに対して心構えをしていたら、その怒りはとても静かだった。
「信じられないわ、どこの国にそんな馬鹿が……うちの国か……」
と嘆いていた。
簡単に要約すると、フルストゥルのクラスで使用する竜に毒物を嗅がせ、フルストゥルと仲のいい上級生の杖に、細工して怪我を負わせたり、先輩たちが言うには、まだ付きまといだの、言いがかりだの、他のクラスメイトとの口論だの、やれ叩けばもうホコリしか出てこない……。
何より災難なのが、そのこと自体をフルルが気づいてしまったことだろう。
……優しいフルストゥルが、心を痛めないわけがない。きっと責任を感じているだろうし、もしかしたら泣いてるかもしれない、それがとても気がかりなのは、アイン王女もらしく、深い溜息を吐いていた。
「貴方たちが調べたってことは、確定ってことでしょうね」
「はい」
「はぁ、一体何がしたいんだか」
アイン王女は、全く見当がつかないと頭を横に振ると、チェチェさんが、それはそれはいい笑顔で答える。
「さぁ?犯罪者の思考は分からないなぁ」
「好きな子にちょっかいかける範疇を超えてるんだよねぇ」
ルルさんも、チェチェさんの言葉に続いてそういうが、全く持ってその通り過ぎて、深く何度も頷いてしまった。
……ともかく、明日にフルルのところに行かなければと思ったら、今度は腰を抜かす報告が舞い込んできた。
「よぉ、眼帯の」
「ファジィル王子、それにギャランも」
アイン王女はそう呟くと、ファジィル王子は得意げな表情で堂々と答えた。
「簡潔に言わせてもらおうか、レヴィエ・ブランデンブルグは今留置所だ」
あまりの衝撃に言葉を失うも、アイン王女はとんとん拍子で話を進めていく。
「え?まだ尋問もしてないでしょう?」
疑問を浮かべるアイン王女に、ギャラン様は呆れを大きく含んで答えた。
「それが姉さん、どうやら、フルストゥル嬢とファジィル王子が話しているところに、危害を加えようとしたそうだ」
「………………はぁ、申し訳ありません」
「いやいやいいって、酔っ払いに絡まれたようなもんだしなぁ」
ファジィル王子は心底気にしてないようで、大きい口を開けて大胆に笑う。本当、この人ほど度量が広くなければ、国際問題に発展しかねないだろう、そこに関して感謝しかなかった。
「はぁ、フルルちゃんが心配だわ、大丈夫かしら……」
心配でたまらないというアイン王女に
「うーん、結構吹っ切れてた様子だったからなぁ、……っく」
「うん?」
「いや、衛兵に対して あぁ、いいですよさっさと連れてっちゃってください。抵抗するなら死なない程度に暴行しても構いません、って言ってたのを思い出してな」
「いうねぇフルルちゃん……まぁ無理もないかぁ」
今までの境遇をなんとなく知っているからか、その場の全員が同意していたものの、そこまで人に、敵意を明確にぶつけたことがないフルルの心が反動で、傷ついていないか、それがただ気がかりで仕方がなくて、自然と言葉が出ていた。
「アイン様、明日休んでいいですか?」
「馬鹿ね何言っているの?しばらく休みなさい」
何とも、理解の良すぎる上司に恵まれてよかったと、心の中で感謝しつくすのだった。
そうして翌日、アーレンスマイヤのタウンハウスに行くと
「?お嬢様はベルバニアに行かれましたが?」
「は?」
エフレムさんのその言葉に、脳の処理が追い付かずに間抜けな声が出てしまった。
次回もニーチェ視点です。
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