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ぼんやり令嬢は領地でのんびりとしたかった

「アントワネット~」


館から、そこまで遠くない馬舎ちかくの草原にいくと、そこで、のびのびと過ごしている黒くて綺麗な、私の愛馬であるアントワネットに声をかけると、まるで言葉が通じてるかのように、こちらへゆっくり走ってきて、目の前で止まったと思えば、撫でてと言わんばかり頭を下げてきた。


 「おーよしよしよしぃ、美人だねぇ。」


 「お嬢様」


 「あぁマークスさんお久しぶりです。元気でしたか?」


 「あぁ見てのとおりですお嬢様」


 マークスさんは、腰に手を当てて軽くふんぞり返る、その様が、茶目っ気たっぷりで笑ってしまった。


 「ふふ、ならよかった。他の馬たちも元気そう……マークスさんのお陰です。」


 「ありがたいお言葉です。」


 恭しくマークスさんは頭を下げた後、私はふと気づいた疑問を問いかけた。


 「なんだか馬の数が多いですけど、騎士様が来られたのですか?」


 「あぁ、祭りもあるけれど、今の時期のベルバニアは遠乗りに最適ですからなぁ、最近多いんですよ」


 「へぇ、でもみんな、大人しくていい子たちばかりですねぇ」


 感心しながら、自由にのんびり過ごしている馬を眺めると、後ろから肩を叩かれた。


 「ふぉっ」


 「よ、久しぶり」


 「ジィドお兄様」


 快活そうに笑うお兄様は、誰から見ても、いい人なんだろうなという印象を強く与える。私同様、髪も瞳も色合い自体はお父様にそっくりなのだが、お母様の社交性と明るさを盛大に受け継いだ……っというか、私以外の二人は、性格がお母様に寄ってるんだよなぁ、とぽやぽや考えていると両頬をつねられた。


 「あいかわらず、ぼんやりしてるなぁ」


 「ひゃーい」


 されるがままになっているのもつかの間、お兄様はパッと手を放し、どこか嬉しそうに口を開いた。

 

 「っと、休みの間はこっちにいるんだろう?」


 「はい、お祭りもありますし」


 私の答えに満足したのか、お兄様はキラキラと輝くばかりの笑顔を浮かべた。


 「そっかそっか、じゃあ夜になったら花灯篭を見に行くか」


 「え?連れてってくれるんですか?」


 「もちろん、可愛い妹の頼みだからな」


 当然、と言わんばかりにお兄様は私の頭を撫でて答えた。


 「ふふ、ありがとうございます」


 そんな私たち兄妹のやり取りを見ていたマークスさんは、手拭いで涙を拭き始めた。


 「相変わらず仲がよろしいですなぁ、じじぃは嬉しいです」


 「ははっ相変わらずマークスじいさんは涙もろいなぁ」


 お兄様が笑顔で、マークスさんの背中をとんとんとさすっていると、侍女がこちらへ歩いて


 「ジィド様、フルストゥル様昼食になります」


 と、教えてくれたのでゆっくりお兄様と館へと戻っていった。


 「今日の昼食は、卵のサンドイッチと、鴨のローストを使ったサンドイッチ、季節の野菜のサラダに、ジャガイモとチーズのポタージュです。」


 と料理人が説明し配膳してくれる、そのどれも美味しそうだが、その量は私の胃にはちょうどいいものの、お兄様には少し少ないかな、と思った内容だったが、お兄様が言うにはこの後お祭りに顔を出すからこのくらいでいいのだそうな、ならよかったと、ひとしきり安心してから食前の挨拶をすまし、スープを一口飲んだところでお父様が口を開いた。

 

 「レヴィエ・ブランデンブルグは、今留置所にいる」


 唐突にとんでもない話題を投下され、固まる私とお兄様にあえて触れず、お父様は続ける。


 「あそこまでの措置をとったのにも関わらず、懲りずにフルストゥルに付きまとい、挙句の果てには、クティノス共和国第二王子である、ファジィル王子に危害を加えようとしたそうだ。」

 

 そこまで言うと、お父様もあまりのことに頭を一度抱えた後に続ける。


 「さらにだ、今学院で調査をしているそうだが、フルストゥルのクラスの実習で使用された竜に毒物をかがせた疑いと、懇意にしている上級生の杖に、細工をしてけがをさせた疑いがかけられている」


 こう他人からの言葉で説明されると、もうそれは犯罪なんだよなぁ、というか、関係ない人を傷つけていることが本当に腹立たしかった。

 

 「あのバカ、本当に何がしたいんだ?」


 少しの沈黙の後、お兄様はようやくぽつりと本音を吐き出すと、お父様は同意するように小さく頷いた。


 「……異常な人間の思考は、いつだって我々の意図しないところにあるからな」


 「なるほどなぁ、ってフルルが戻ってきたのってそれが理由か」


 お兄様は、ものすごく心配そうにこちらをうかがうが、思ったより元気なことが、逆に申し訳なくて愛想笑いが漏れた。


 「あはぁ、もういろいろありすぎて、いったん休みの間だけこっちにいようかなって」


 「あはぁ……じゃないだろ?思ったより元気そうでよかったけど……」


 お兄様は、心配と安心と戸惑いがぐちゃぐちゃになった表情で優しくそういうが、お父様はどこか嬉しそうに腕を組んで口を開いた。


 「フルストゥルは、強くなったな……これも、アイン王女様のお陰かもしれないな」


 「そうですかね?」


 「それはそれとして、フルストゥルを首都に戻して大丈夫なんですか?逆恨みで何かされないか……」


 お兄様は心底心配そうにお父様に問いかけた。


 「そのためにオルハたちがいる……が、心配な気持ちは分かる、だから、アーレンスマイヤに頼んで、魔道具をそろえることにした」


 流石、アーレンスマイヤ……と心の中で驚くもつかの間、お父様はさらに続ける。


 「何よりニィリエ殿がいるしな 彼の噂は聞いてるしちゃんと調べた結果信じてよさそうだ」


 「なんていうかよっぽど婚約者らしいよな」


 感心するお兄様に、私はただ苦笑しながら


 「仮なんですけどねぇ」


 と、一言だけいったあと少し間があったが、お父様がこちらを見て優しい表情でいう。

 

 「もちろん、フルストゥルが首都に戻りたくないというなら、ここにいても全然かまわないからな」


 「……ありがとうございます。でもお母様はなんて」


 私が純粋な疑問をぶつけると、お父様は意外な答えを出した。


 「……これはティアの意見だ。」


 あまりにも意外過ぎて、私は一瞬、スプーンを落としそうになってしまいながら、どうにか言葉を紡いだ。


 「は?お母様の?」


 「やっぱりお母様体調が……」


 とうとう、お兄様まで同意して、二人でお母様の心配をすると、お父様は何とも言えない表情で頭を抱え


 「お前たち、ティアをなんだと思ってるんだ……まぁ分からんでもないが」


 と、うなだれているお父様が何だか面白くて笑いがこみ上げてきた。

 

 「ははっ、でもこのお休みが終わったら、首都に戻ります」


 「そうか、無理はしないようにな」


 「はい、それに最近、やっと学校が楽しくなってきたんですよぉ」


 お父様が心配しないように、というより単なる事実ですけど、お父様は私の額に手を当て

 「ちょっと医者を呼ぶか……」


 と呟き、お兄様も天井を仰ぎながら


 「やっぱ領地にいたほうが……」


 と大事にしてきたので、私は思わずやや勢いよく


 「おいおいおい、もうちょっと、娘の成長喜んでくれませんかね?」


 大成長だろうよ?お?何故ここでほめないんだ?と思ったものの、二人ともそんな私をほほえましく見ただけで、それ以上は何もそれに関しては触れなかった。


 昼食後、そういえばレウデールの花を育てているんだったっけ、ということを思い出し、中庭を散策していると、庭師のジゼルが丁寧に説明してくれた。


 「青いダリア?え?これ天然?」


 「ええそうなんですよ、綺麗ですよねぇ、昔、レウデール王が愛する妻のために、妖精に祈ったら咲いたとか言われてるんですよ」


 あくまで逸話ですけど、とジゼルが補足するが、あまりのそのエピソードが素敵でその花を眺めつつ、他の花も眺めると、流石ジゼルどれも綺麗に手入れされていた。


 「流石ジゼルね、どれも綺麗」


 「ありがとうございます。お嬢様、後でお部屋にお持ちしますね」


 「ありがとう ジゼル」


 もう少し眺めたら書斎にいこうと思っていたら、エマが突然、音もなく現れた。オルハもそうだけど、人間なんだから、もっと人間らしく現れてくれと思ったが、そんなことを構わず、エマに問いかけた。


 「どうしたのエマそんなに急いで」


 「ニィリエ様が来られました」


 「へぇ、そうなんだ……ってええええええええ」


 あまりの驚きに思わず叫んでしまった私を誰も咎めることはしなかった。

 一方私はともかくなぜなぜなぜという思いしかなかった。

いつも読んでくれてる皆様、初見の方閲覧ありがとうございます。

いいね、評価してくれる方本当にありがとうございますとてもモチベーション向上につながっております。


お暇なとき気軽な気持ちで評価、ブクマ等していただけたら幸いです。

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