ぼんやり令嬢の唐突な帰省
気づいたら三か月がたってました。
毎日頑張れてるのは読んでくださってる皆様のお陰です。
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マリアン様が怪我をして、レヴィエ様が衛兵に捕まって、いろいろあって、表情が虚無になっていたせいか、丁度、翌日から連休だったので、久しぶりにベルバニア領に戻ることにした。
そうなった経緯は伯父様曰く。
「本当にもう、休学する前と同じような表情だよ?たまには、領地でのんびりすごしてきたら?」
と、心配そうな顔をされたのが大きな理由なのだけれど。
つまり、いま私の表情って、あの精神が、ちょっとどころではないほど疲れてた頃の……。
まぁ、あの時ほどではないけれど、今日は、いろんなことがありすぎたから、無理もないよなぁと、冷静に心を分析した。
丁度、レヴィエ様のことを含めて、話もしたかったし、ちょうどいいやという思いだった。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「リノン、まぁ今日は色々あったからねぇ」
やっぱり、疲労がぬぐえていなかったのか、リノンはいつもの温かいココアに、なんとホイップクリームまでつけて、さらに苺のクッキーをつけてくれた。
「美味しいぃ、というか染みるぅ」
「よかったです。」
私の表情が緩んだのをみて、リノンは、ほっと胸を撫でおろしていた。
「思いつめてないようでよかったです。」
「あはは……。まぁ、マリアン様の怪我が、大したことなかったからね……。本当に良かったぁ」
「そうですか」
……相変わらず、私以外の人のことはどうでもいいのか、リノンはさらりとそれを流し、笑顔で続けた。
「そういえば、庭師からきいたんですけど今、邸宅で、旧レウデールの希少な花を、育てていると聞きましたよ」
「へぇ、そうなんだぁ」
私が興味深くきくと、リノンは笑顔で続けた。
「どれもよく育っているから、楽しみにしてくれと先ほど電話で言われました。」
「ふふ そうなんだぁ。そういえばロテュスの町はお祭りだっけ?」
素直に楽しみで、思わず自然な笑みが零れた。
みんなげんきだといいなぁ、と領地を思い返す。
「えぇそうですね、みんなお嬢様がきたとなれば、大喜びですよ」
「大げさだよ……」
その後に言葉を続けようとしたが、不自然に口を閉じると、リノンはその違和感に気づいたのか問いかけてきた。
「お嬢様?」
「あぁ、ううんなんでもない」
……私、今当然のようにニーチェさんを誘おうと、言いそうになったことに、驚いてしまっただなんて、さも当たり前のように、そんな思考が自分の頭の中にあるのが、少しだけ怖くなった。
――だってほら、いつかは離れるし、今のこの関係は、ニーチェさんの優しさに甘えているだけの関係だし――
そう言い聞かせて、その夜は、しっかり眠ろうとしたがなかなか寝付けなかった。
「お嬢、夜更かししました?」
「なかなか寝れなくてねぇ」
翌日、朝いちばんにオルハにそういわれ、流石に隠せなかったらしく、あっけなく正直にいうもオルハは、まぁそういう日もありますよねぇ、と流してくれてありがたかった。
「まぁ別に、何か、約束しているわけでもないからいいんすけど、ゆっくり行きましょうか。」
「うん、オルハも無理しないでね」
「遠いですからね。途中で、休憩は挟んでいくつもりです」
そういった後、ベルバニアから支給されてる自家用車に乗りのんびりとベルバニア領へと向かった。
「わっ、もう夏の花が咲いてるねぇ」
段々と、首都から離れれば離れるほどに、緑が増えていき、花も模様替えですよ、と言わんばかりに変わっていて、思わず口に出すとリノンは笑顔で答えた。
「流石お嬢様、植物にも詳しいんですね」
「いやいや、なんとなくだよ」
私のことを、軽率に褒めすぎるリノンは笑顔でいうも、私は、困ったように笑うしかできないながらも、リノンがこうやって、たくさん褒めてくれるのは、嫌いではないので、拒むことは無かった。
そうして、途中、何度か休憩を挟みながらも、ベルバニア領にある館に到着した。
「フルストゥル、久しぶり」
館に到着すると、お父様が優しく出迎えてくれた。
もちろん、館に勤めている使用人の顔ぶれも変わらないことに、安心した。
「お父様、久しぶりです。元気でしたか?」
「あぁ元気だったよ。フルストゥルも元気そうでよかった。」
お父様は優しく笑うと、前に帰省した時同様、後ろにいるリノンたちを労った。
「娘をいつもありがとう」
「「いえ、お館様」」
リノンたちが、頭を下げると同時に、サロンの扉が開いた。
「あら、帰ってきてたのフルル」
そこに現れたお母様は、私をじっと見た後そう呟く、昔から怒られることが多かったせいか、一瞬、心の中で罵詈雑言に対する防御をはりつつ、発言する。
「はい。でも、休みがあけたらまた首都に戻ります」
「……そう、じゃあチェーザレ、私は、ロテュスの婦人会に行ってくるわね」
お母様は、お父様にそれだけ言うと、侍女を連れて出ていった。
あれ?いつもなら、嫌味が飛んできてもおかしくないのに、お母様は、それ以上追求はしてこないだと?お母様、具合悪いのかな……大丈夫かな、とお母様が出ていった方向を見ると、お父様が、優しく私の疑問に答える。
「ティアも思うところがあるんだろう。今までお前を、次期侯爵夫人として、恥ずかしくないように厳しくしつけてきたせいか、今になって、どう関わっていけばいいかわからないんだろう。」
「ふぅん」
別にいいんだけどなぁ、なんていうか、小言とかもう慣れてるし、別に、私の性格とお母様の性格が全然似てないから、相性が悪いのと、単に私が幼少期のんびりしすぎたせいもあるしなぁ……。
まさかお母様も、私が侯爵家と婚約するなんて思ってもなかっただろうし。
そうぼんやり考えていると、お父様は、ぼんやりしていることを咎めるわけでもなく答えた。
「とりあえず、移動で疲れただろう?夕方には、ジィドも帰ってくるから、元気があれば、花灯篭を見に行くのもいいだろう」
「あ、お兄様帰ってきてるんだ。」
「あぁ、前帰ってきたときは、ジィドは他校に遠征していたからな」
そうそう、ジィドお兄様は私が通う学院とは別の、騎士学校に通っている。
それも歴史ある、学校で数多くの騎士を排出している、剣を志す者の中では有名で、いわずもがな名門でなんとお兄様はその中でも優秀なのだとか
悲しいなぁ、妹は首都の学院の劣等生だというのに、この差は悲しいなぁ。思わず遠い目をしてしまったが、まぁまぁそれは自己責任……と、とりあえずお父様の言う通り、首都に行ってからも、綺麗にしてくれている自室へ行くと、使用人の方が、私好みの紅茶をいれてきてくれた。
「お嬢様、元気そうで何よりです。」
「うん、ありがとう」
香り高い紅茶をじっくり味わっていると、侍女は、おずおずと少し気まずそうにこちらに伺った。
「……首都で何かあったんですか?」
なるほど、この方は、私が急に戻ってきたから心配してたのか、そりゃそうですよ。ここ最近、領地に来ては、面倒ごとを持ち込んでくる、とんでも末娘だったからなぁ。私が彼女でも、聞きますよ
「まぁ、いろいろあったけど、前みたいに、精神やられてるわけじゃないから心配しないで」
「そうですか、踏み込んだことを聞いて、申し訳ありませんでした。」
私がそれだけ言うと、彼女はほっとしたように胸を撫でおろした。
やっぱり、領地の方々には心配をかけていたんだなぁと、少し、申し訳ない気持ちと、労わってくれることが嬉しい気持ちが、半分になっていた。
ともかく久しぶりの領地、久しぶりの実家だし、夜までのんびり過ごそう、と心に決めたのだった。
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