ぼんやり令嬢、意外な人物らと再会する
あれよあれよという間に、可愛らしい、ミントグリーンを基調としたコーディネイトが、出来上がり、いくら私といえど、心はまだ乙女なのでその美しさに見惚れていると、ニーチェさんが頭を撫でてきた。
「気に入ったか?」
「はい、すごい綺麗です。」
そう答えると、ミドガルド様も満足そうに頷かれた。
「それは良かった」
「ミドガルド様、本当にありがとうございます。」
「あぁ、いいんだ本当に小遣いみたいなものだから。」
いつもありがとうな、と鮮やかに微笑まれ、なんかこう、心臓がぎゅっと捕まれたような感覚…もしやこれが恋?なんて思っていると、王妃が少し不機嫌そうに、ミドガルドさまを可愛らしくにらんだ。
「ちょっと、ミド、うちの娘の友達とらないでくれる?」
「なんでお礼をいっただけでそうなるんだ……」
「ミドはもっと、自分のその呪いみたいなカリスマと、自分の魅力のコントロールできてなさを、どうにか自覚しなさい。」
「呪いって…」
肩を落とすミドガルドさまをみて、あ、 本当に無自覚にあんな魅力を振り撒いてたの?意図的にやったら、ちょっとした国ができてしまうんじゃない?と少し驚いたものの、その様子は可愛らしく見えた。
そうしてアイン様のとこに戻るも
「ん?フルルちゃんも帰っていいよ?いつもニィリエが送ってってるんでしょう?もしかしてもうお迎え頼んである?」
「あ…忘れてました。」
「逆にそれで良かったよ。お疲れ様、いつもありがとうね」
……と和やかに送り出され、いつもながら長い廊下を歩いていると、遠くによく見知った姿が見えた。
「お爺様」
「おぉ、フルストゥル。久しいな」
私と同じ髪の色とお父様と同じ深い藍色の瞳をした、一見厳格を擬人化したようなこの方は、ジルベール・ベルバニア。
前ベルバニア家当主で、今は隠居しているが、様々な政策のおかげで、より住みやすくなったことから、ベルバニア領の領民から、神のごとく尊敬されている、私のお爺様がそこにはいた。
「はじめまして、ジルベール様」
「話には聞いている、ニィリエ・ハイルガーデン殿だろう?いつも、孫を守ってくれてると聞いているよ」
さて、とお爺様は呟いた後にベルバニア家の馬車を指し示した。
「乗っていきなさい、いろいろ積もる話もあるだろう」
「えっと……。ニーチェさんは大丈夫です?」
「ん?大丈夫だよ、それに、こんな機会なかなかないからな」
そうしていつものように、気にするな、と優しくいってくれた。
なんか毎回、こういったことに付き合わせて申し訳ない、と思いつつ、ふと御者をみると見たことのある人物だった。
「あれ?ラスターさん」
思わず名前を呼ぶと、少し気弱そうな声で彼は答えた。
「ベルバニア伯爵令嬢……お久し振りです。」
「知り合いか?」
「えぇ、ブランデンブルグ侯爵家の使用人の方です。」
そういうと、ニーチェさんは少しだけ目をつり上げ、なんで侯爵家の者がいるんだと、警戒心を露にしていたが、それをみてお爺様は臆することなく答えた。
「あぁ、ブランデンブルグのぼっちゃんの癇癪のせいで、クビにされたみたいでな、私が引き取ったんだよ」
「そうだったんですか」
「もしかして、ブランデンブルグの者の顔をみるのも嫌だったか?」
きょとんとしている私の表情を、どう解釈したのか、お爺様は物凄く、普段厳しそうな顔を心配そうに歪めたが、それは私にとって杞憂だった。
本当に、使用人の方々にはよくして頂いていたし、特に家令のジョエルさんは、レヴィエ様のあまりの行動に心を痛めていられた。
ラスターさんも、ブランデンブルクの車に、正式な婚約者である私より、他の令嬢をのせて運転することに、強い違和感と嫌悪感を持っていたらしく、私にうっかり失言した運転手を、強く非難するほどの正義感がある方で、恨みなんてこれっぽっちもない。
「いや、別に ……それより癇癪って?」
先ほど軽く流してしまったが、気になってラスターさんに聞くと、ラスターさんは深く肩を落とした。
「それはこの先で話そう、ラスター頼むな」
「はい、かしこまりました。」
「……今から、ベルバニアに行くわけではないですよね?」
「流石にここからは遠いからな」
おじいさまはそう笑うも、あえてなのか行先は告げないまま、馬車はどんどん走っていった。
そうして着いたのは、首都郊外の落ち着いた空気のなかに立つ、小さなお屋敷だった。
「おじい様、首都に家を買っていたんですか?」
「それもいいけどな、ここはロクサリーヌの住んでいる館だよ」
「ロクス叔母様の?」
「あぁ…ちょっと頼んで、離れを借りることになってる」
「そうだったんですか……」
なるほど、と納得していると、お爺様は優しく頭を撫でながら続ける。
「今度、会ってやってくれ ロクサリーヌもお前に会いたがっていたよ」
「はい」
そうしてロクス叔母様の離れ、離れといっても、十分立派な住居に入ると、こじんまりとしているが上品な雰囲気に安心しつつも、これからの話も気になったが、またまた知ってる人物が目に入った。
「ソーニャさん」
「お久し振りです、ベルバニア伯爵令嬢」
そう答えたのは、ソーニャ・メイヤー。
ブランデンブルグ侯爵家のメイドで、主にレヴィエ様の側仕えとしていたせいか、その淡い紫の髪も、理性的な紫紺の瞳も見覚えがあった。
「ソーニャさんも理不尽解雇を…?」
「いえ、私は自分からですので、ご心配なく」
ソーニャさんは凛とした表情で答えるが、それを聞いてなるほどねー安心、とはいかずただ、ただ戸惑うばかりだった。
「さて、ラスターの話も踏まえて話そうか、ソーニャ紅茶を頼めるか?」
「はい……話も長くなりそうですし、なにか、つまめるものも用意しますね。」
そうして、ソーニャさんが、お茶の準備をしてるのをソファでまちながら、視線で、お爺様に促されたラスターさんが、ぽつぽつと、まるで罪人が罪を告白するように話し始めた。
「レヴィエ様は、元々気性は荒い方ですがそれでも、強い言葉を使われることはあっても、我々使用人に暴力を振るったり、クビにしたりするような方ではありませんでした。……ですが、ベルバニア伯爵令嬢との婚約が破談になってから、様子がおかしくなられて」
そこまでいうと、配膳しながらソーニャさんは、ラスターさんを冷ややかににらんだ。
「……ラスター、それじゃあベルバニア伯爵令嬢のせいみたいじゃない」
「違います、断じて、フルストゥルお嬢様はなんにも悪く有りません、すみません」
まるで、私が物凄く怒ってるかのように、過剰に首を横に振る彼が憐れに思い、こちらも急いでそれを手で制した。
「いえ、気にしないでください。それにしても、どうしてでしょう?」
私が首を横にかしげると、ラスターさんは心底見当がつかないといった表情で、こちらを見上げてきた。
「どうして、とは?」
「だってレヴィエ様、私のこと会うたびに罵倒するくらいには、嫌いじゃないですか、そんな私と、代償を払ったとはいえ婚約がなくなったんだから、好きに遊べばいいのに」
そこまで一息で言うと、だんだんだんだん、呆れや失望が怒りへと変貌してきたが、感情的になってはいけない、と深呼吸し、ラスターさんに告げた。
「……どうして、放っといてくれないんでしょう。」
そう心からの願望を吐露するように呟くと、なにかを感じ取ったのか、私より泣きそうな顔でラスターさんは深く頭を下げ、それにソーニャさんも続いた。
「………っ、申し訳ありません、ベルバニア嬢」
「私からも、謝罪させてください。」
「……いや、別に」
大丈夫、と呟こうとするも、それはニーチェさんによって阻まれた。
「……そうだな、主人が間違えたら、正すのも従者としての役割だもんな、君らが全く悪くないとは、同じ従者として仕えている俺にとっては、そうは思えない」
そこまでいうと、いつもの優しい雰囲気で、気さくにラスターさんに問いかけた。
「まぁとりあえずあのバカの今の様子を教えてくれるか?フルル……。聞きたくなかったら無理しなくていいけどどうする?」
こんなときまで私のことを常に気遣ってくれて、逃げてもいいなんていってくれる人、この世にいるんだろうか、なんて感心しつつも、私はゆっくりと首を横に振った。
「……いえ聞きます、私のことなので」
ニーチェさんは、一瞬驚いたものの、すぐに柔らかく微笑みあたまを撫でてくれた。
「そうか 逃げないで偉いな」
「ニーチェさん」
「ん?」
「心配してくれてありがとうございます。」
「あぁ」
その様子をお爺様は、とても安心したような、穏やかな表情で眺め、それをみてラスターさんも、意を決して口を開いた。
そのとき私は、意外な事実に驚かされることになるとは露とも思っていなかった。
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