ぼんやり令嬢、元婚約者の今を聞く
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「あれは、フルストゥル様が婚約破棄されてすぐのころでした」
そうして、私の知りえない上に、あまりにも聞くに堪えない話が始まった。
ブランデンブルク侯爵家は、その日から荒れに荒れ始めた。
まず、フィリア様がレヴィエ様を強く非難され始めた。
「貴方、自分が何をしたかわかっているの⁉どうして婚約者に優しくするという簡単なこともできないの!!!」
「………………。」
当たり前の、咎められるべきことを非難しても、謝罪一つしないレヴィエ様に憤り、フィリア様は声を荒げた。
「何か言いなさいよ。貴方は何をやらせても、ダイアン様の足元にも及ばないくせに、何をやらせても、一番にはなれないくせに、このっ!!!この役立たず!!!」
そうして、もはや攻撃ともいえるその言葉とともに、大きく何かが叩かれたような音が響いたが、レヴィエ様の声は何もしなかった。
だが、追撃のようにフィリア様は、やり玉のごとく言葉で、レヴィエ様をことごとく傷つけた。
「何よ、何が情を感じないよ。貴方みたいななりそこない、誰が愛するというの?誰が好きになるというの?あなたにあるのは、ただ、この家の後継者としてしか、価値がないくせに」
そうして、部屋の中から頬を叩く音が聞こえ、そのあとも、フィリア様は強い言葉、それも人格を否定するような言葉が多く聞かれた。
確かに、レヴィエ様がフルストゥル様にした仕打ちは、許されるほどではないが、フィリア様の言葉は、あまりにもひどいもので、その暴言と暴力は常軌を逸していた。
「レヴィエ様……大丈夫ですか?」
フィリア様に強く何度もたたかれたのか、痛々しいほどに、赤くはれた頬と唇の端から、軽く出血をしており、ソーニャに治癒魔法をかけてもらっているときに、小さな声でレヴィエ様は呟いた。
「…………フルストゥル、……フルストゥル…………」
今まで、婚約者としか、よんでいなかったフルストゥル様の名前を、急に、どこを見つめているのか分からない表情で、どこか笑っているようにも見える声色でつぶやいた。
そう、思ったら急に頭を抱え始めた。
「レヴィエ様?」
「……と、俺が守ってやらないと、首都にきたばかりで、きっと、心細いおもいをしてるはずだ……」
フルストゥル様が首都に来たのは、もう一年以上も前。
フィリア様に、あまりにもいろんなものを否定されて、何にも怒らない、なにも否定しない彼女が、恋しくなったのだろうか。
だが、今更何を、と憤慨した気持ちを抑え、極めて冷静に彼に告げた。
「……そんな、心細い思いをしているフルストゥル様に、レヴィエ様は何をされたんですか?」
「それは…………」
自身のした所業を思い出したのか、だんだんと目の焦点が合ってきて、ようやく話が理解できそうなその表情に、熱い鉄を注ぐような気持ちで、脳裏に浮かんだ、いつもブランデンブルク侯爵家に来るときに、憂鬱そうな表情を浮かべていた彼女を思うと、もう言葉は止まらなかった。
「少なくとも、私が見ているときレヴィエ様が、フルストゥル様に優しくしているところなど、見たことがありません」
そう、毎週、手紙を送ってくれるフルストゥル様の文字を、見るに耐えない下らないと罵倒し、毎月、プレゼントを送ってくれる彼女に、感謝どころかセンスがない、貧乏臭いとばかにしている様子を、その度にフルストゥル様が、一瞬だけ傷ついた表情をされているのを、知っている自分はもう言葉が止まらなかった。
「首都にきたばかりのフルストゥル様が、お体を壊していると聞いても、見舞いの一つ、手紙も送らなかったじゃないですか」
「っ……失せろ、使用人風情が」
「……はい、言葉が過ぎました失礼します。」
その時は、フィリア様の暴言と暴力から、現実逃避がしたかったのだろう、と楽観してしまっていた。
だが、レヴィエ様はだんだんとフルストゥル様の影を探すようになっていった。
「今日、フルストゥルが、王宮の馬車に連れ去られたんだ、可哀そうなフルストゥル……きっと、いいように利用されてるに違いない」
と、まるで自分を、お姫様を魔王から取り戻す王子と勘違いしたのか、義憤に満ちた表情をしていた。
が、そのたびに、ダイアン様に、いい加減にしろと怒号を飛ばされ、部屋に戻るも、なぜか嬉しそうな顔をしており、どうしてだろうと疑問に思ったソーニャがのぞくと、部屋には万年筆やインク瓶、本の栞や、ハンドクリームやテーピング材、剣帯やタッセル、手編みのマフラーなど、どれもこれも、フルストゥル様が月に一回、送ってくださっていたプレゼントたちが、溢れかえっていた。
中には、交流のある令嬢にあげたものもあったから、買い戻したのだろう。
それらに囲まれているレヴィエ様の表情は、とても幸せそうだったが、あまりにも不気味に思ったと聞いたときは、あまりのことに吐き気を催してしまった。
「フルストゥルと今日久しぶりに会ったんだ。相変わらず、口下手だったなぁ。俺が守ってやらないと」
……守ってやらないと?
これだけ拒絶されておいて、何をどうやったら、そう思考が歪むのだろう。
ベルバニア夫妻が告げた、フルストゥル様の意向は、金輪際、危害を加えないこと、今後一切干渉してこないことだと知っているはずだ。
それに、何より、一番危害を加えていたのはレヴィエ様本人だというのに、あまりの思考の歪みに、こちらの認識が間違っているのか、と錯覚してしまうほどだった。
そして、その頃からだろうか、彼の行き場のない思いは、使用人にぶつけられるようになっていった。
例えば、突然馬車の馬を、フルストゥル様の愛馬と同じ黒馬にしろ、出来ないならやめろから始まり。
なにも不備のない食事に文句をつけたり、メイドらが止めているのに、勝手にフルストゥル様にドレスを送ったり、離れを、いつフルストゥルがきてもいいように、と掃除させようとしたり、かと思えば、他者からの噂や視線のせいか、急に怒り出し物を壊してみたり、もうレヴィエ様の中の、崩れ落ちた何かは、二度と戻ることはなかった。
「……お前、フルストゥルに名前で呼ばれていたよな、何でだ、俺は、この数年呼ばれていなかったのに」
「……っ。」
「お前なんかが、なんで、なんで……何でなんだ答えろっ」
そういって、私に詰めより、私の頭を強く殴ると、それだけじゃ怒りが収まらなかったのか、近くにあった。
いつか、フルストゥル様が下さった、少し赤みがかかった、ベルバニアの職人が作ったガラスペンを投げつけるとあまりの力にそれは壊れた。
「あ、あぁあああぁあぁぁぁああああ」
その砕け散ったガラスペンを、手が傷つくこともいとわず、かき集め抱きしめる、もはや狂気だ、普通じゃない。
「ラスター、貴様、貴様あああああ」
悪魔のような、フィリア様と同じような表情を、屋敷が燃える可能性さえいとわず、火属性魔法を向けてくるレヴィエ様に、構うものかと、いっそのことぶちまけてやろうと口を開いた。
「そうやって、気に食わないことがあれば、すぐ幼稚に暴力に訴えればいい。自身の感情もコントロールできない、お前の元にフルストゥル様が、戻ることなんて二度とない」
そう、不敬罪を覚悟で言った後、炎で燃やされたのか記憶は曖昧だが、目覚めたときにレヴィエ様に出ていけと糾弾され、もはや、愛想も敬愛もないこの方に仕える意味も見いだせず、そのままブランデンブルグを去っていった。
「……といった感じでして
」
ラスターさんは話し終わると、各々表情を険しくしていた。
「はぁ……?」
と、かなり怒りをにじみだした表情と声で、ニーチェさん。
「聞いてはいたが度し難いな」
と、お爺様は深くうつむき、こちらも険しい顔で答えた。
「……私たちが至らないばかりに……すいません」
と、ソーニャさん、各々が言葉を紡ぐ中、私は、信じられない状況と恐怖で、胃が痛くて痛くてたまらず。
「すいません、ちょっと胃薬飲んでいいですか?」
と、弱弱しく答えるのが精いっぱいだった。
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