ぼんやり令嬢のそわそわショッピング
「あら、来たのね。」
ニーチェさんに手を引かれ、放心したまま離宮へ行くと、そこには我らが王妃殿下が、それはそれは、ルンルンと花が舞うくらい上機嫌な様子だった。
いつもだったら、可愛い尊い美しい、いい匂いすると、大はしゃぎするところだが、はしゃぎたい気持ちと、戦々恐々としてる気持ちが、いま、心の中で仁義なき争いを起こしている。
どうにかして、ちゃんと頭を下げるも機嫌がいいのか、王妃は笑顔で答えた。
「いいのいいの、そんなことより見て?セレスの作品がこんなに手に入ったのよ」
王妃が示した先には、ドレスが10着、手袋やハンカチなどの小物や、ドール用のドレスや靴、どれも趣向を凝らしており、一点一点が、本当に芸術品と言えるほどの精巧さと、美しさが、宝石級でむしろ見るだけでお腹いっぱいになりそうだった。
この部屋にあるものだけで、うちの領地何年分の稼ぎになるのか考えたら、気絶したくなってきた。
そんな私の隣で、ニーチェさんはむしろ感心した様子で顎に指をあてて思案していた。
「すごい、こんなによく仕入れましたね。」
「まぁね」
軽い空気で済ませてるけど、神出鬼没の、どこの国にも所属してない、どの国の裁縫やデザインに関わるものなら知らないものはいない、正体不明なセレスの作品を探し当てて、ここまで集めるのって輸入やら交渉やら、その辺のことはあまり詳しくないけど、結構大変なのでは……?と思いながらニーチェさんを見上げるとぱちりと目があった。
「ん?どうした?」
「いや、セレスの作品をここまで集めるのって、絶対結構本当に大変……ですよね?」
「んーそうだな、まず、市場に上がったとしてもプレミアム価格、でどこの国の貴族も欲しいから、さらに値段は吊り上がるし、国家間の問題になったこともあるしなぁ、あと税金とかいろいろあったりそもそも……」
10分程度だったが濃い、濃ゆい濃厚な経済講座が始まり、悲しいかな、もともとの理解力が乏しいせいか、途中から投資とかの話になったあたりから分からなくなり、そもそもの経済の、貨幣制度や、銀行の仕組みまでいくと、もう消化できず、うんうん頷きながら自分の理解力なさが悲しくなった。
遠い目をしていると、ニーチェさんが申し訳なさそうに、頭をぽんぽん撫でてきた。
「って悪い悪い、長かったな、なんとなくわかったか?」
「えっと、私たちの王妃、やっぱり最高ってことでいいですか?」
「うん、そうだなー王妃殿下は最高だなー」
もはや、話が斜め上にとんで、大道芸してるレベルだ。
だが、ニーチェさんは呆れたり馬鹿にしないで、むしろ、このぼんやりした感想に乗ってくれるのは、優しいなぁと思っていると、王妃はいつものアイン様のような、ちょっとアイン様より、優雅さが増量された笑みで答えられた。
「アインから聞いていたけど、本当に仲がいいのね」
兄妹みたいと、王妃様は、にこにこと上機嫌にいう王妃に、ニーチェさんは、私の頭を撫でながら答えた。
「ははっ、できのいい妹で助かってます。」
「そうね、フルストゥルちゃんいつもありがとうね。」
「恐縮です。」
深く頭を下げると、王妃様は、あらあらとほほ笑んで、優しく声をかけてくれた。
「あぁ、そんな畏まらないでちょうだいな。今日は、楽しいお買い物に来たくらいの気軽な気持ちでいいのよ?なにか飲む?」
そういうと侍従さんがメニューを渡してくれ、メニューを眺めるとあることを思い出して、注文をした。
「……じゃあ、オレンジジュースお願いできますか。」
「あれ?フルストゥルちゃんは、ココアが好きじゃなかったっけ?」
……どこで、そんな情報が流出してしまったんだろうか。
まぁ、アイン様の侍女見習いになる前にいろいろ調べられたんだろうなぁ。
私が定期的に、胃薬キメてることもばれちゃってるのかなぁ、と一瞬考えたが、それを振り払うように頭を振ってから、王妃様に答えた。
「この前ファジィル王子がたくさん果物を厨房に送ったと聞いて、昔、おじいさまに今の時期に取れるクティノスのオレンジは酸味と甘みのバランスがよくて、ジュースにしたら絶品だと教わったので、一回のんでみたいなぁと」
だって、学院でもすぐ売り切れちゃうし、そもそも市場でてるとこ、あまり見たことないし、当たり前だが領地でも見たことがないから、こういう時飲まないと、と下心万歳だったが王妃はそれをしってかしらずか感心した様子だった。
「アインから聞いてたけど詳しいのね」
「えっとぉ……」
いえ、聞きかじりの知識です。
なんなら欲望丸出しです。
とはいえず戸惑ってると、オレンジジュースが届き飲む様に促され、じっくりしっかり味わってるうちに、商人さんや、業者や、メイドさんが準備を終わらせてくれたようで、先ほどまで、ばらばらに配置されていたものたちが、綺麗に見やすく配置されていた。
「さぁ 選んで選んで」
「え?王妃殿下の分は……?」
「私はもう確保したもの、だから遠慮なく選んでちょうだい」
選んで残ったのがこんなにあることに驚く私と反対に、ニーチェさんは、もくもくとドレスを見ていく。
「これ、結構可愛いですね、フルルに似合いそうだ」
「そうねぇ、でも、こっちもよくない?」
「あぁ、可愛らしいですね。フルルは、肩とか出てても大丈夫か?」
「大丈夫です。」
「初夏だから、さわやかなのがいいわよねぇ」
待て待て待て、ぼんやりしている間に王妃様も一緒になって選んでません?
怖いよぉ、なんでうちの国の王族の方々距離感がおかしいの?
ありがたいけど、むしろみんながみんな、王みたいに何考えてるかわからなかったら、それはそれで怖すぎるけれども、と思っていると、ニーチェさんに手招きされ隣へ行った。
「フルルはどっちがいいと思う?」
「どっちも可愛いですね……」
そう示されたドレスは、ミントグリーンの、さわやかな花の装飾と、幾重にも重なったレースが可愛らしいドレス。
もう一つは、淡いレモンイエローの、白いリボンが可愛らしく、ふんわりとしたフリルが花のように愛らしい、ドレスだった。
そのどちらも、セレスの特徴である、よく見ると細かな花や雫、蝶の刺繍が、とても細かく美しかった。
……うちの領地の二か月分かぁ……、とぼんやり考えていると、ニーチェさんは少し考えた後つぶやいた。
「前に、母さんの試作きたとき、ミントグリーンがよく似合ってたから、こっちかな?」
「あら、いいんじゃない?あとセレスの作品じゃないけど、イズゥムルから、いい魔石が入ってね。いろいろアクセサリーがあるけど、それに合うのは……」
言いながら、またもノリノリで、王妃はニーチェさんと選んでくのを見ながら、なけなしの計算能力で、頑張って計算していると、豪奢な扉が開きミドガルド様が現れた。
「相変わらず、よくそろえたなぁ」
「ミド、ミドもなんか買っていく?」
「私というか、娘にかな」
いいながらサクサク選んでいき、感心したように呟いた。
「あぁ、イズゥムルの魔石か、不思議だなぁ。まさか、役に立たないと思っていた石が、ここまで立派になるとはな」
「うちの職人は腕がいいからね」
不思議そうなミドガルド様と、得意げな顔の王妃殿下は、銀髪同士なのと、同じくらい美しいからか、姉妹みたいだなと見ほれていると、ミドガルド様はニーチェさんに問いかけた。
「事情はきいているが……いまはアクセサリー選びか?」
「あぁそうですドレスがこれで」
「ふぅん……いいじゃないか」
少し考えた後、ミドガルド様は、気前の良すぎる提案をしてきた。
「フルストゥル、欲しいものを言うと良い、私が買ってやろう」
「あら?珍しい」
「彼女には大変世話になっているし、まぁ小遣いみたいなものだ。年の割に苦労してるしな」
いやいやいやいや、あなた、私と同じ年齢の時、すでに、世界各地の狂神を殺す旅をしていたじゃないですか。
それに比べたら、こんなこと何でもないんで、本当に。と思ったが、ミドガルド様に促されては、もう断ることなどできなかった。
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