ぼんやり令嬢、レアもの贈呈が確定する
翌日、事のいきさつを話すと、アイン様は思ったより収穫が良かったのか機嫌よさそうに呟いた。
「それでロゼットロア公爵家を、まるっと味方につけたってこと?」
やるねぇ、とアイン様は目を細めて笑った。
その様はまるで、優雅な猫みたいで、可愛らしさと美しさが同居していて、うっかり気絶しそうになるも、どうにか言葉を紡いだ。
「なんていうか、ニーチェさんのおかげで」
「いや、もともとシャルロット嬢と、仲がよかったおかげだよ」
「そうですかね」
ほぼ初見で、ヨハンナ様とヴィクトル様に、あそこまで気に入られたニーチェさんの、おかげでしかないんだけどなぁ。
本当、ニーチェさんって人に好かれる才能ありすぎる。
ちょっと爪の垢もらおうかなぁと、ニーチェさんの爪をみながら思案すると、ニーチェさんは少し困り顔で答えた。
「なぁ、俺の爪みてどうした?」
「いや、ニーチェさんの爪の垢を煎じて飲んだら、私もハイスペックになれるかなぁと」
「うん、汚いからやめような?」
「でも、飲んだら友達増えそうじゃないですか」
「そこまでして友達ほしかったのか……」
少し驚いたよう呟くと、アイン様がふとつぶやいた。
「シャルロットちゃん以外だと、フルルちゃんって誰と仲がいいの?」
「最近仲がいいのは、レベッカ様ですかねぇ」
あちらは、どう思ってくれているのかは分からないですけど、悪印象は持っていないと信じたい。
いや自信を持て私、最近は三人で休みの日や、私が仕事がない日お買い物にいったり、お昼も三人で食べてる。
なかば祈りながら思案してるが、それを知ってか知らずかアイン様は答えた。
「あぁガリアーノ伯爵家の、彼女も優秀よね」
「レベッカ様、本当にすごいんですよ。女性だけど男性を軽々あしらってしまう程の剣術の腕も優れてますし、軍略や作戦などもたくさん知ってますし、それに、錬金術がとっても得意なんですよ」
ガリアーノ伯爵家は、貿易やいろんなことを手広くやってる資産家だ。
歴史ある錬金術師の血筋で、きっと重圧もあるのにそれを苦としないし、分からないところを人を聞くのを、恥としない。
その人柄を含め、見習うとことしかない……。
私は、分からないところが分からないから、本当にすごいと思い。
レベッカ様のいいところを言っている私を、ニーチェさんは、ものすごく優しい顔で見ていた。
「フルルちゃんって、友達のいいところ本当嬉しそうに言うよね」
「あ……騒いじゃってごめんなさい」
「ううん、私フルルちゃんのそういう所好きよ。」
「……ありがとうございます。」
アイン様は、にこにこと答えると、今度はニーチェさんに向き直った。
「ニィリエ、今日仕事それが終わったら、今日終わりでいいわよ」
「へ?確かに余裕はありますけど…」
何で、どうしてと、首をかしげるニーチェさんにアイン様は全く、と頭を横にふった。
「鈍いわねぇ、フルルちゃんのドレスを買ってきなさいっていってるのよ」
「言ってない、一言も言ってない」
「考えないで感じなさい」
「無茶いってないこの王女様……」
いつもの、兄妹のようなやり取りを聞きつつ、いま、とんでもないことが聞こえたが、あえてスルーしようとしたが、アイン様は笑顔で続けた。
「今日、予約取っといてあるから行ってきなさい?なんて言ったって、あの、世界にほとんど流通してない、セレスのレースが使われてるドレスや、小物入ってきたんですって。」
「セレスの作品ってすごい高いんじゃ……」
「お母様が仕入れたみたいで」
セレス、というのかなり珍しいデザイナーで、正体不明だが、その繊細な刺繍、というより作りこみが、もはや狂気レベルのレースやドレスをたまに、本当にごくまれに、市場に何も言わずにぽっと出して消えていく神出鬼没なデザイナー。
その作品は、平民の方の月収を軽々超え、もはや、うちの一か月の領地運営で得た収入を、超える作品はざらにある。
今、それが入ってきたって言った?というかそれを確保する王妃すごくない?どうやって流通経路とか探したんだろう。
……いやでもまさか、私に使うなんてことはないだろう、と思ったらニーチェさんが頷いた。
「流石、王妃様」
「もうちょっと早く、パーティーとかの話が分かってたら、ニィリエのお母様に、任せたかったけどね」
「まぁ母さんも断らないだろうけど、侯爵夫人への牽制ってなると、セレスの作品は強いですね」
「で、それをニィリエが、フルルちゃんに買うと」
つまり、王妃が確保してくれたレアすぎるドレスを、王女の仲介で、ニーチェさんが私に買って、それを着て私は、ロゼットロア公爵家のパーティで夫人、小公爵、あとシャロの後ろ盾を得るって、私は何者なのか分からなくなってしまい思わずアイン様に問いかけてしまった。
「……私、普通の伯爵令嬢ですよね?」
「そうね」
アイン様は、にっこり微笑んだ後に続ける。
「うちに長く仕えていてる、信頼の厚い伯爵家の、多国の言葉を流暢に話し、読み書きもできる上に、気遣いもできる、行儀や所作がとてもきれいで、貴賓にも覚えがいい普通の伯爵令嬢ね」
「うん普通ではないな、フルルは自分の立ち位置を確認した方がいいと思うぞ」
もはや、だれの話をしてるか分からないほど、美化された私の人物像と、それを否定しないニーチェさんをみて、今まで母や婚約者様に言われたことや、マオ先生に深いため息を何度もつかれたことや、魔法の授業で、チェルシー先生以外の先生からも頭を抱えられたことも思い返した。
なんなら、入学したばかりに言われていた言葉もを思いだし、口からぽろっと言葉が漏れ出た。
「え?私って地方貴族のできの悪い末っ子なのでは?」
「うーん、どうしたものかな?」
ニーチェさんは、怒るわけでもなく、困ったように首をかしげ笑いながら、頭を撫でてきた。
「あっ、でも最近、補習しなくても魔法の授業なんとかなってます」
「お、偉いなぁ、お兄さんがドレスを買ってあげよう。」
「あぁ、結局そこに着地するのぉ?」
頭の回転が速いというか、なんというか、もうびっくりしすぎて口調が、砕けすぎて粉々になってしまった私を、咎めるわけでもなく、ニーチェさんはアイン様に向き直った。
「とりあえず、俺らは何処に行けば?」
「離宮ね、ドレス以外にも色々アクセサリーや靴なんかも揃ってるみたい」
あぁ、それまで買ってもらってしまったら、申し訳がなさすぎる。
すごい高価なものじゃなければ、小物くらいは自分で買おうと思った矢先、アイン様は笑顔で続けた。
「フルルちゃん、流石に、小物は自分でかいますとか言わないよね?確かに、たくさん慰謝料もらってて、なおかつここのお給金見習い価格とはいえ払ってるけれど、ニィリエのメンツをつぶすような真似、しないわよね?」
大いに猛毒を含んだ言葉と笑みで詰め寄られ、泣きたい気持ちで首を、それこそ首がもげるほどに激しく振った。
「しませんしません」
「こらこら、圧かけない可哀そうでしょうが。」
ニーチェさんは、半泣きの私の頭を高速で撫でると続けた。
「まぁでも、俺稼いでるから気にしなくていいからな?」
「あぁ、すごぉい」
あぁ買うことは確定なんですね。
たぶんこれなんも覆らないやつですね。
あきらめて、思考を一回停止しよう、と天井を仰ぎ見事な壁画を眺め、心を落ち着けようと試みたが、金額を考えると落ち着かなかったため、ずっと心の中で素数を数え続けていた。
「ところで、セレスの作品一つで、馬って何頭買えるんでしょう?」
「一般的な牧場なら馬で埋めつくされるな」
「……聞くんじゃなかった。」
変なことを聞いてしまったことを、深く心の中で後悔しながら、ニーチェさんに手をつながれ、これから、出荷される家畜のように、とぼとぼと離宮へと向かうのであった。
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