ぼんやり令嬢の味方づくりはあっさり進む。
あれから色々いきさつを説明して、状況を把握したのか、冷静さを取り戻したシャロが最初に口を開いた。
「まぁ、そういうことね。なんていうかニーチェさんお人よし過ぎない?」
「わかる、彼の将来が心配」
うんうん、と頷くもシャロは、おいおいと、私のほほをもちもち触りながら、すこし意地悪そうに唸る。
「どの口が言ってんの?」
「あぁぁ~」
「これは止めたほうがいいのか?」
「仲良しは可愛いねぇ」
されるがままの私を見て、マオ先生は戸惑うばかりだが、シャルル先生はその様を、にこにことみてるだけで止めようとはしなかった。
大丈夫、それであってます。
我々の業界ではご褒美なので、と考えているとギャラン様が、少し吹き出しそうになっていたが、それはあえて触れないでことは進む。
「まぁ、そういうことなら侯爵夫人は納得……するかしら」
「流石にしてくれないかなぁ」
シャロの疑問に、私はもう、項垂れることしかできずにいると、シャロは冷静に考えを述べた。
「ほら、夫人権力至上主義な所あるから、いくらニーチェさんが王女付きで、優秀でもハイルガーデン家って男爵家でしょう?」
「絶対うちよりお金あるのに?」
うち、そこまで貧乏じゃないけど、フロルウィッチって、首都だけじゃなくて主要な都市いろんなところにあるし、知らない人いない。
なおかつニーチェさんは王女付き、絶対、地方の領地運営しかしてないうちより資産あるでしょうよ、と遠い目をしてしまった。
「……そこはノーコメントね、とにかく爵位主義っていうの?そういうところあるでしょ?」
「あー、まーあるね、あったわぁ」
フィリア様は元々、歴史ある純粋なキャシャラトの伯爵家のノルドハイム伯爵家の出身。
たしか根っからのお嬢様気質なせいで、自分より下位の貴族や市民のことを、憐れんでいるようで、すこし見下している節あるんだよなぁ。
……爵位だけが全てじゃないと思うけれど、幼いころから植え付けられた概念ってなかなか覆らないだろうしなぁ、と聞き流していたが、今になって思い出しちょっと頭が痛くなってきた。
「まぁ、流石に王女付きを馬鹿にはしなくない?」
私の、説得力あるのかないのか分からないぼやきに、確信が持てずシャロは深くため息をついた。
「あぁいう箱入りお嬢様が一番厄介なの、夫人は女学校でて、すぐダイアン様と結婚して割と早く子供産んだじゃない?」
「そうだねぇ」
「つまり社会経験ほぼないってことよ。そんな人が、侯爵夫人という強すぎるステータス引っ提げて、好き放題やってたんだもの。固定概念が覆らないわよ」
シャロの圧倒的説得力に、私は納得しながら肩を深くため息をついた。
そうだよなぁ、フィリア様って思い込みが激しいというか、よく言えばいつまでも少女みたいに無邪気だが、悪く言えばちょっと願望を言えば周りが叶えてくれていたせいで、あまり周りのことを考えない節がある。
つまるところ自分本位、自分の思い通りにならないと感情をぶつけてきて、周りを従えようとする。
それも無自覚に、いろいろと思い出してだんだん胃が痛くなってきた。
「ごめん、シャロちょっと胃薬キメてきていい?」
「やばい薬みたいにいうのやめな?」
気持ちは分かるけどね、と憐みの表情でシャロは続ける。
「まぁ、牽制の意味も込めてだけど、ニーチェさんの予定さえ開いてれば、今度のうちのガーデンパーティ二人でくれば?」
「牽制?」
「なるほどなぁ、流石、ロゼットロア公爵令嬢」
疑問が解け切ってない私をよそに、それを聞いていたギャラン様は、何かに納得したように深く頷き、シャロもまんざらでもない顔をしているものの、本当に何が何だか分からないので小さく手を挙げた。
本当、何がなるほどなんだろうか、点と点がつながってとかよく聞きますけど、その点すらみつけられていないから本当疑問符が消えない。
ちょっと、頭いい人同士にしか流れない第六感で喋るのやめてもらっていいですか?とぼんやり理解することをあきらめ、いつも魔法の授業の時のように窓を見ていると、ギャラン様はいつも授業で困ったときに、こっそり助け舟を出してくれる時のように控えめに笑うが、シャロは仕方がないといった雰囲気でため息をついていた。
「あぁ、悪い悪いフルストゥル嬢」
「私から説明するわね」
「はぁい」
「簡単な話よ、爵位は爵位で殴る。うちの母親を味方につければいいのよ」
まぁ、このこすごいこと言ってるわぁ、と驚くも、ギャラン様は何かに納得された様子だ。
本当、この人には何が見えているんだろうか、頭よすぎてもう未来見えてるんじゃないんでしょうか?
見えてるかもしれないから、否定できないので続きを大人しく、それはもう姿勢よく聞くことにした。
「こほん、簡単にいうと、フルルとニーチェさんの仲をうちの家は応援する、というより認めることを、ガーデンパーティで言うだけでいいってこと」
「だけって、そうかそういうことねぇ」
シャロのお母様、つまるところロゼットロア公爵夫人は王室派の中でもかなり力を持っている。
その力は、社交会では圧倒的、お母様がただいるだけで人の目を奪う華だとして、圧倒的権力、そしてかつて才女と謳われていたその才覚は衰えることはなく、またすべてのバランスをみているからか簡単に、それこそお母様の影響力ごと支配してしまうほどの力を持っている。
私の前では優しいお母様にしか見えていないけれど、流石にその影響力は知っている。
だからこそ、味方に付いてくれれば、フィリア様をも簡単にいなしてしまうだろうけど、とある疑問が浮上した。
「でも、味方にって……なってくれるのかなぁ」
「いや、ヨハンナ様はベルバニア伯爵家、気に入っているから」
「というか、うちのお母様、フルルのことだいぶ気に入ってるから」
「え?そうなの?」
意外と私の疑問はあっさり解決したのだが、話は思っていない方向に飛んで行った。
「お母様、私とフルルが友達だから気にかけているってのもあるけど、婚約破棄の話聞いた時すごい怒ってたからねぇ」
「ヨハンナ様、不貞に厳しいからな」
思わぬとこに味方がいるんだなぁ、と感心しているとシャロがびしっと私を指さした。
「とにかく、お母様のことはわたしがなんとかするから、フルルはとりあえずニーチェさんに話付けること、いいね?」
「わかったぁ」
「相変わらずロゼットロア公爵令嬢は頼もしいなぁ」
ギャラン様はそう笑うが、本当にシャロって心強い本当に頼りになりすぎる。
その思いがあふれてシャロにくっついた。
「シャロ、好き、結婚して、私以外の誰かと」
「どう返すのが正解なのかしらこれは、新しいパターンね」
「なかよしだなぁ。」
戸惑うシャロと、通常運転の私を見ながら、ギャラン様は穏やかに頬杖をついてつぶやいた。
そうして迎えた放課後、事情の説明もあることから、シャロに同行してもらい事情を説明すると、ニーチェさんは快く頷いてくれた。
「あぁ、その日は俺休みだから大丈夫だよ」
「せっかくの休みをごめんなさい……」
「気にするなって」
ロゼットロア公爵家の印章が入った手紙を眺めていると、背後から月の精霊、もといアイン王女様が背後から現れた。
「ニィリエ、フルルちゃんそれなぁに?なんの招待状?」
「あぁ、ロゼットロア公爵家のガーデンパーティーですよ。」
「へぇ……」
アイン様は少し考えた後、しっかりと、王家への礼をしているシャロを一発でロゼットロア公爵令嬢と見抜いたのか、にこにことシャロに近づいた。
「ねぇ、ロゼットロア公爵令嬢」
「何でしょうか、キャシャラトの若き月」
「ふふ、礼儀正しいのね」
美しく微笑みながら、シャロに頭をあげさせると、それはそれは優雅に首を傾げた。
「私もこのガーデンパーティー参加していいかしら」
「アイン様?」
「だって、この二人の社交デビューみたいなものでしょう?私はシャペロンみたいなものだし?」
どういう理屈、と驚く暇はなく、シャロは上品に可愛らしく微笑んで答えた。
「喜んで招待させていただきます、王女殿下」
もしかしたら、今とんでもないことが確定してしまったんじゃなかろうか、おそらくニーチェさんもそう思ってるのだろう、二人して窓の外を眺めている間に、アイン様とシャロが、意気投合していた。
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