ぼんやり令嬢の自尊心
首都で元婚約者が廃嫡されたことなど知る由もなく、私は、領地での休日を、ニーチェさんと、お兄様と過ごしていた。
といっても、ちろん24時間ずっとそばに、というわけではなく、年は少し離れているものの、お兄様と仲良く話したり、お父様やお母様に話しかけられたり、お兄様とお話したりすることもある。
何よりびっくりしたのが、あっという間に使用人たちとも、仲良くなっているところだった。
いやいや、社交性の天井破壊してるじゃないですか、どこを目指しているんだ、といいたいのをおさえつつ、食後、私とお兄様、ニーチェさんでカードゲームをしながら話をしていた。
「俺、実は兄が欲しかったんですよね」
という言葉に、ニーチェさんは唸りつつ答えた。
「あー、俺は親戚多いから、あんまそういうの、感じたことないかもなぁ」
「へぇ……羨ましいなぁ」
お兄様、そんなこと考えてたんだなぁと、ぼんやりゲームにいそしんでいる間に、ニーチェさんとお兄様の話は進んでいく。
「真ん中は大変だよな」
「わかってくれます?」
お兄様は、ニーチェさんの肯定に、嬉しそうに答える。
「中間管理職だもんなぁ」
「ちなみに末っ子は一番楽です」
私が意気揚々と手を上げると、お兄様ははいはいと、苦笑しつつ頭に手を置いてきた。
「知ってるよ……って言いたいとこだけど、フルルはなんだかんだ、途中から急に、厳しく育てられたからなぁ」
お兄様の言葉に、ニーチェさんは疑問符をつけつつ答えた。
「それって婚約のせいで?」
「うん、そうそう、元々、領地から通える女学校に通わせるつもりだったのが、王立学院に入るようにあっちからいわれてなぁ」
こうやって、他人から言葉にされるとすごい理不尽だなぁ、と思いつつ、当時のことを思い出すとボヤキが漏れ出た。
「淑女教育も、最初は基本的なことができてればいいって、言われてたんですよ……はぁ」
お兄様の言葉につけたしリノンもそう続けるとニーチェさんは私の頭を撫でながら優しく言う。
「可哀そうになぁ……」
「なぁ、フルル、結構、お母様にひっぱたたかれてたしな」
お兄様は、心から気の毒そうに私を見つめるが、なにもそこまでの顔しなくてもという思いで、首をかしげながらこたえた。
「ねー」
「ねーですませていいのものなのか……?」
ニーチェさんは、戸惑うを超えてやや驚いてるが、我が家にとっては日常茶飯事すぎて、どう答えていいか分からず、とにかく心配しなくていいですよという気持ちで、ニーチェさんに説明をした。
「まぁ叩かれるだけならまぁ……ご飯は食べれたしねぇ?どっか閉じこめられたりしてないし?」
だから安心してくださいと、元気いっぱいに答えるも、なぜか効果は逆に働いてしまった。
「そういう問題じゃないだろ…」
ニーチェさんは、マオ先生のように頭を抱えている間に、兄妹でカードゲームがすすみ、私は手札を全部出し切った。
「あがりー」
「フルストゥルは強いなぁこれ」
お兄様はそう感心しつつ、カードを整頓していると、ニーチェさんはがくりと肩を落とした。
「いや、うぅん……元気ならいいんだけど……いや?いいのか?」
「すいませんねぇ、うちのお嬢様、こういう所あるんで」
リノンが何故、ニーチェさんに謝っている理由も分からず、首を傾げていると、リノンが優しく微笑んだ。
「大丈夫です。お嬢様は何も悪くないですから……。クッキー食べますか?」
「食べるー」
「えぇぇ……」
ニーチェさんはその後も戸惑っていたが、とりあえず、私にできることは無いかなぁと思いつつ、料理長特製のナッツ入りのクッキーをぽりぽり食べながら、眺めるしかできなかった。
「フルルは苦労してるんだなぁ」
「うぅん、そこそこ?」
お兄様と解散して、ニーチェさんと、のんびりヴィオルまで向かう馬車の中で、労わるようにそう言われたが、あまり実感はわかなかった。
「まぁ、私がもっと要領がよければ……っくぅ」
「俺は聞いただけだけど、フルルは頑張ったと思うよ。」
「でも結果これですよ?」
力なく笑うとニーチェさんは、少しむっとした顔で、私の両頬をもにもにつねった。
「そうやって卑下しない……もうちょっと自分のことを認めなさい」
「うぐぅ……」
そのやり方を知らないんですよぉ……自尊心というか、なんというか、そういうのの守り方ってどこで習うんでしょうか。
……というか私、結構客観的に、自分のこと見れてると思うんですけどねぇ。
と思っているはずなのに、なぜかこうやって怒ってくれるニーチェさんの言葉に、温かさを感じている暇もなく、御者として乗ってるオルハの、淡々としながらも緩い口調で遮られた。
「はいはい、イチャコラしてないでつきましたよー」
「言い方よぉ……」
肩を落とす私の隣で、ニーチェさんは、明るく笑った。
「ははっまぁ間違ってもないかな?」
「ほっぺいじくりまわされたのに?」
「やっぱいちゃこらっすわぁ……。はい、転ばないように気を付けて降りてくださいね」
あきれ顔のオルハに言われ、しぶしぶ返事をした後、オルハにエスコートしてもらい降りた。
「やぁ……ヴィオルは久しぶりだなぁ」
「お嬢は基本、邸から出ないっすからね」
つまるところ引きこもり、ということだが、なんとかそう思われないように言葉を選んだ。
「ほら……なるべくみんなと一緒にいたいからさ……」
少し芝居がかった雰囲気と、口調で言うも、オルハは通常運転で返答する。
「本心は?」
「学院生活で疲れてるんだから、のんびりしたい、できることなら、一日中、誰とも会わずに家にいたい……」
「あぁごめんなぁ」
「あいやいや、今日は別です。デザートみたいなもんです」
「ん、ありがとうな」
私のフォローに優しく微笑むと、ニーチェさんは頭を撫でた。
「言い忘れてたけど、今日の格好も可愛いなぁ」
「ありがとうございます。」
相変わらず、息をするように褒めるニーチェさんを、オルハは相変わらず、未知の生き物を見るような目線で見ていたが、安心してほしい同じ人間だし、何なら性別も一緒なんだよ……と、思いながらも、久しぶりのヴィオルの町に目を見張る。
ヴィオルの町は、ロテュスから15分ほど馬車を走らせれば着く港町で、何が有名かといえば旧レウデール城の跡地や、旧レウデール時代の遺跡が多くあり、一部の歴史家からは、かなり人気らしい。
それを差し引いて目立つものといえば、港町特有の色とりどりの建物や、活気のある市場は目を見張るものもあるし、もう少し内地にいく、と色んな工場もあるが、どちらかといえば、それはロテュスのが盛んなのかな、と考えていると、領民の方に声をかけられた。
「フルストゥルお嬢様、ヴィオルまで来てくださったんですか?」
「えぇ、たまには……いつも顔を出さずに、ごめんなさいね?」
「いえいえ、フルストゥルお嬢様は首都で忙しいですから」
あまりにも理解のある領民……、あまりにもありがたい……と、思っていると、もう一人の方が口を開いた。
「あっもし、ジルベール様をお探しなら、蓮華の丘にいましたよ。」
「本当?ありがとう」
思わぬ情報を聞いて、そのままヴィオルの町を散策していると、ニーチェさんがぼんやり呟いた。
「ロテュスでも感じたけど、ベルバニアは時間の流れを忘れさせるな」
「全体的に穏やかですからね」
私のその言葉に、ニーチェさんは、頷いた後に労わるように呟いた。
「ベルバニアから、首都に急に行ったら、いろいろついていけないよなぁ」
その言葉、是非、一年前の精神疲弊してた私に言ってあげたいなぁ、と心から思うのだった。
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