ぼんやり令嬢とのんびりとした朝
祭りの余韻のせいか、入浴後もなかなか寝付けず、談話室でコースターをちまちま作っていると、ニーチェさんに優しく声をかけられた。
「相変わらず器用だな」
「ニーチェさん」
ニーチェさんは、また息をするように褒めた後、向かいのソファに座った。
「元気でよかったよ。本当」
しみじみと、本当に安心したようにニーチェさんは言う、その表情はとても優しかった。
「ありがとうございます。」
「いいよ、でもさっきの話聞いたけど、本当に、昔はあのバカと仲が良かったんだな」
「昔だけですけどねぇ……。あっちが本格的に忙しくなってからは、あまりこちらに来ることも無かったですし、お手紙の返事もなくなっちゃいましたしねぇ。」
もうはるか昔のように思いながら、遠い目で話を続けた。
「で、こっちが首都に出たら、あの対応ですからねぇ」
「あぁ……そうだよな」
その後は言わずもがな、と二人で納得したあと使用人が気を利かせて、コーヒーを淹れてくれた。
「お部屋はどうですか?」
私がそう聞くと、ニーチェさんが少し楽しそうに、それこそ少年のように答えた。
「あぁ、とてもいいよ。アルコーブベッドには驚いたよ。」
「珍しいですよねぇ。伯父様もそう言ってました。最近の家では、あまり見ないですもんね」
私がそう答えると、ニーチェさんは、本当に驚いたのか本当に嬉しそうな表情で続けた。
「あぁ、なんか秘密基地みたいで楽しかったよ。でも、この屋敷本当に、レウデール時代そのままなんだなぁ」
「ええ、気に入っていただけて良かったです。」
いつも、私の前で余裕のある大人な所ばかり見てきたので、こういう少年っぽいところを見ると、可愛いなぁとほっこりしてしまった。
「にしてもベルバニアは本当に全体的に空気がのんびりしてるなぁ」
「えぇ、そうですねぇ。土地が広いからかもしれないです。」
「そうかもな、来るときも思ったけど、一個一個の家に対しての土地も、広かったり畑とかも大きいし、驚いたよ。」
「土地が安いですからねぇ、空き家も結構ありますし」
まぁ空き家があっても、土地が余ってても、良くも悪くも、開いてるところを埋めなきゃと躍起になることは無い性分、というか人がいない土地のことより、道の整備とか、関税の見直しとか、馬の世話のこととか、そういう、今いる人間のことを優先してるからなぁ。
帰りの馬車で、お兄様から聞いたけど、そういう空き家とかを格安で売りに出したら、結構若者が来てくれたみたいで……、まぁ家賃とかもろもろが安いのと、首都に比べて、店を出すときの手続きが本当に楽なのが、ひそかに話題になったらしく、主に、様々な若い職人らが暮らしているロテュスは、栄えつつあるらしい。
……前帰ってきたときは町をみる余裕もなかったしなぁ。としみじみのんびり考えていると、ニーチェさんは、もう私が話の途中でぼんやりしてるのに慣れたらしく、それを、咎めることが無いのがありがたい。
「俺も仕事でなんかやらかしたらベルバニアに逃げようかな」
ニーチェさんの呟きに思わず私はぽかんとした表情で答えた。
「ニーチェさんがやらかすなんて、想像できません」
「それは、俺を美化しすぎだって」
がくりと、演技っぽくうなだれるニーチェさんをみて、自然と笑みが零れた。
「ふふっそうかも……。そうなったら、館にかくまうか、家を手配しますね、お父様が」
「ありがたいなぁ……。でも、動くのはチェーザレ様なんだなぁ」
「私には、その権利ないんでねぇ」
和やかな会話をしているうちに、コースターも段々完成に近づいていった。ニーチェさんはそれをみて、また当たり前のように褒める。
「おおー、綺麗だなぁ」
「ありがとうございます」
その後も、眠気が来るまで、二人で話し込み、お祭りにもいってきたせいかぐっすり、それもなぜかお昼ごろまで、ぐっすり眠ってしまった。
「え?誰も起こさなかったの?お母様もなにも言わなかったって本当?」
思わず、着替えを手伝ってくれているエマに思いのまま言うと、エマもすこし首を傾げた後に、呟いた。
「奥様が、このお休みの間は、ゆっくり過ごさせてあげて……と」
その言葉が信じられず、私はもしやと思いエマに聞いた。
「……お母様、やっぱおからだの調子が悪いんじゃ……」
「お嬢様もそう思います?」
エマもそう思ってたらしく、即座に頷きながら答えた。
「やっぱりエマもそう思う?」
「だって、奥様がお嬢様に、嫌みを言うどころかねぎらうなんて……」
エマは、昔から私とお母様の関係を知ってるからこそ、同じ温度で考えてくれた。
「そうなんだよねぇ、逆に怖いなぁ」
「はぁ……」
「はい、お嬢様支度が出来ましたよ」
「ありがとぉ」
エマが着せてくれた、さわやかなグリーンのドレスとは反対に、心にうっすら靄がかかっていた。
「とりあえずブランチにしますか?」
「うーんそうだねぇ、流石にお腹すいたかも」
エマの意見に賛成しつつ、流石に、こんな時間にもうお母様はいないだろうと、ダイニングへいくと、まさかのお母様とニーチェさんがお話しているのが見え、思わずドアを一度そっと閉じてしまったが、お母様にあっさりそれはばれてしまった。
「何遊んでいるの?座りなさい」
「……はい」
冷ややかにそういわれ、私はもう頷くしか出来なかった。
「……ごめん、エマご飯少なめにしといて」
「了解です」
それだけいうと、エマはとても心配そうな表情でしぶしぶ、ダイニングを去った。
「よく寝てたわね」
開口一番に、お母様は優雅な仕草でそういうと、私は、条件反射的に頭を下げた。
「ごめんなさい、昨日はしゃぎすぎたみたいで」
「別に怒ってないわ……休日なのだし」
お母様から、嫌味や注意ではなく普通に返答がもらえる……だと?
あまりの意外さに、私の表情筋は一瞬で固まった。
「……何よその顔は」
「えっとぉ……」
お母様は華やかなアメジストの瞳を細める、はい、これはお小言が飛ぶ前の表情ですね、解ってますよ、と心に壁をはるが、お母様は、コーヒーを飲んで一言だけ呟いた。
「まぁ いいけれど」
……いいんだ?本当にお母様はどうしちゃったんだろう、と思っている間に、エマが食事をもってきてくれた。
「どうぞ」
配膳されたのは、注文通り、コンソメスープと野菜サラダに、茹で卵が少しずつの、少ない量だったが、本当に、このくらいでちょうどよかったのでありがたかった。
「ん、ありがとう」
私が配膳されたものをチラリと見たあと、お母様はゆっくりと立ち上がった。
「じゃあ私は行くわ あとは若い二人でゆっくりしてなさい」
「ティルディア様、貴重なお話、ありがとうございました。」
「いいのよ、別に」
颯爽と立ち去ろうとするお母様に、ニーチェさんは頭を下げた。
するとお母様は微笑を浮かべたあ、と菫のレリーフが彫られた扉を開け、ダイニングを後にした。
「おはよう、フルル」
「おはようございます。 ニーチェさん、ごめんなさい、お客様ほったらかしで寝入ってて」
ニーチェさんに謝ると、彼はゆっくりと首を横にふった。
「いいって、俺は押し掛けてきただけだし、朝御飯もちゃんと食べさしてもらったし、謝ることはなんもないよ」
「ありがてぇですわぁ……」
あまりの器の広さに、私は感謝しすぎて変な口調になってしまったが、ニーチェさんは微笑を浮かべるだけだった。
「ははっまぁそれ食べちゃいな」
「はぁい」
……というか、お母様がすぐにどっか行っちゃうんだったら、もう少し頼めばよかったかも?
と思っていたら、エマが口を開いた。
「お嬢様、後でケーキお持ちしますね」
「本当 ありがとう」
「よかったなぁ」
ニーチェさんが来たことは確かに驚いたけどベルバニアにきて二日目ものんびりとした時間が流れていくのだった。
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