20限目 西園寺さんとバミューダ・トライアングル
「んんだぁお前ぇ?女はすっこんでな!!!」
「・・・はい?」
ヤンキーの言葉を受けた西園寺さんは、不機嫌そうな顔になり、彼らを睨み付けた。誰に口きいてんだゴミが、と言わんばかりの表情だ。流石、西園寺さん。彼女のプライドの高さの前ではヤンキーだろうと何だろうとお構いなしなのだろう。
「・・・私の推察ですと、恐らく下衆3人がそちらの男子生徒を傷めつけようとしている局面なのでしょう。多勢に無勢で、なんともお可哀想なことですわ。」
客観的な視点で、この状況を整理する西園寺さんは笑顔を浮かべていた。しかしあくまでそれは作り笑い。その裏にはとてつもない怒りが隠されているに違いない。
「まぁわたくしにとっては、庶民同士の取るに足らない争いにすぎませんわ。哀れも哀れ。醜いことこの上ないですし、わたくしがあなた方の愚行にとやかく言うつもりはございません。しかし・・・」
西園寺さんから笑顔が消えた。そして般若のような顔で、声を荒げて続けた。
「庶民の分際でわたくしを侮蔑したこと・・・しかも『女』呼ばわりするなど無礼千万!!!万死に値するほどの愚劣!!!よってわたくしがあなた方を成敗して差し上げますわ・・・!!」
ヤンキー3人に対し、西園寺さんは堂々と宣戦布告をした。僕はその姿に男気を感じた。女性に、それもお嬢様に対して使う言葉ではないと分かっているが、とにかく今の僕にはその言葉しか出てこなかった。
「んだと女だからって調子乗ってんじゃねぇぞボケがぁぁぁ!!!」
西園寺さんと同様、彼らにもプライドがある。女性に舐められては彼らのプライドはズタズタなのだろう。僕の胸ぐらを離すと、ヤンキーたちが一斉に西園寺さんに向かって走り出す。僕は助かった。だが、このままでは西園寺さんが危ない!と思ったが、わざわざ自ら宣戦布告をしたほどだ。ヤンキー3人を同時に相手できるほどの力があるのかもしれないと、僕は不謹慎ながらワクワクした思いで刮目していた。
ヤンキーたちが近づいてくる中、西園寺さんは扇子を取り出した。まさか、その扇子で戦おうというのか。ヤバイ、ますます格好いい!僕は呑気にも、カンフー映画を観ているような気分に襲われていた。
「その可愛らしい顔面を歪ませてやるぜぇーーーーッ!!!!」
女性に対し外道な叫びをしながら拳を構えるヤンキー。それに対し、西園寺さんは優雅に立ち尽くしたままだ。どうする、どうするんだ西園寺さん!?避けるのか、それとも拳を受け止めるのか、それとも記念に一発だけ殴らせるのか!?どれなんだ一体!?
「『B・T・A』・・・!!」
ここで西園寺さんが小さく叫んだ。「B・T・A」という意味不明な英単語の羅列だった。必殺技かなのだろうかと幼稚なことを考えていると、どこからやって来たか、サングラスをかけて黒服を着た3人の男たちが西園寺さんの前に飛び込んできた。
「な、なんだお前らァ・・・えっ、どっから沸いて出た!?」
普通に困惑するヤンキーたち。どこから出てきたかも分からぬ謎の黒服に勢いを奪われてしまったようだ。それもそうだ。だって怖いよ、グラサンかけた黒服が目の前に現れたら。しかも突然。多重債務者じゃなくても怖いよ、そんなん。
「やっておしまい!」
「Yes my lady(承知しました、お嬢様)」
西園寺さんの声で黒服たちが動き出す。まるで兵士だ。独裁国家に従う兵士たちの図が目の前にあった。そして彼らは、立ちすくむヤンキーの眉間に向かって鉄拳を食らわせた。
「ぐぇぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ぎょぁぁぁぁぁぁぁ!」
「げぇぁぁぁぁぁぁぁ!」
断末魔の三重奏を響かせると、ヤンキーたちは倒れて気絶した。それを見て涼しい顔をした西園寺さんは、扇子を優雅に扇ぎながら言った。
「劣等種が・・・、身の程をわきまえなさい!」




