7. 肉好きは正義
おいしい、めっちゃおいしい。
和希はむさぼるよう牛肉を食べる。先ほど切った一切れでは足りず、魔法を乱用して、次々と切り身を作っては焼いていった。
牛を捌いた経験がないので、血抜きも不十分だし、内臓の周囲は無駄が多くなってしまっているけれど、それでも、これまで食べた中で一番おいしい肉だった。
「ねえねえ、何を食べてるの?」
「お肉様だよ! めっちゃおいしい! ……って、誰!?」
耳元で声が聞こえて、ぎょっとして振り返る。
が、誰もいない――
「ひ、人寂しすぎて、幻聴が聞こえたかな……」
ぶるりと震えた後、和希は「気のせい、気のせい」と自分に言い聞かせ、再度肉にかぶりつこうとする。
「ねえ、無視しないでよ!」
再度声をかけられて、今度こそ和希は飛び上がった。
「だ、だれ!?」
震えながらきょろきょろと周囲を見回した和希の視界に入ってきたのは、ふわふわとした光だった。
「ひ、人魂!?」
ぎょっとして、ひっくり返りそうになる。
「なによぅ、人聞きの悪いこと言わないで」
その光はくるりと回転すると、ポワンッと音を立てて小さな人形みたいな形をとった。
「人魂なんかと一緒にしないで。あたしはれっきとした精霊よ」
掌サイズのちっさい人形みたいな可愛い女の子だった。背中には羽が生えている。精霊というよりも、妖精みたいだ。
「せ、精霊? ってなに? どういう存在?」
そもそもここがどういう世界なのかもわからない。
初めて意思疎通ができる対象と出会い、和希はここぞとばかりに尋ねた。
女の子は、ふわふわと浮かびながら答える。
「どういう存在かって? うーん、そういって聞かれちゃうと困るけど……万物をつかさどる要素を、形にしたものっていうか、人格をもったものというか……」
コテンと首をかしげる姿が、和希の心をわしづかみにする。
(くう~、なにこの可愛い生き物!)
和希は心中で身もだえした。
「……つまり、精霊は万物を構成する一部なの。って聞いてる?」
怒ったように聞かれて、和希は我に返る。
「あ、ごめん。聞いてなかった」
「もう~っ、自分で聞いたくせに! ……ねえ、それよりも何を食べてるの?」
ぷんぷん怒ったあと、再度尋ねる。
「牛肉だよ。牛のお肉を焼いたもの」
「ふん、おいしいの?」
「もう、すっごく!!!」
力強く答える和希に、精霊が興味津々の顔をする。
「へえ~、ねえ、あたしも食べたいな」
その申し出にぽかんとする。
「え? 精霊ってご飯食べるの?」
和希の知るネット小説の精霊は、人間の食べ物など食べなかったので、ちょっとびっくりした。
「食べなくても生きていけるけど、食べられないわけじゃないわ。ふだんは果物とかを食べる程度だけど、その牛肉ってやつ、すごくおいしそうに食べてるから」
肉好き仲間に悪い奴はいない!
和希はぐっと拳を握ると、さっそく手にしていたお肉を差し出した。
「さあ、食べて! がぶっと食べて!
ふわふわと飛んでいた精霊が差し出されたお肉に近づき、思い切りよく食いついた。
可愛い外見に似合わぬ、雄々しい食べ方である。
「……おいしー!!!!」
可愛らしい叫びが森に響いた。