〜凛とシルバー〜
おじいちゃんが主役です
おじいちゃん「あ゛ぁ゛?テメェすかしてんじゃねぇぞォこらァ!」
孫「おじいちゃん!自動販売機に喧嘩売らないで!」
私は孫!
おじいちゃんっ子の今をときめく小学五年生!
愛されガールな私はいま、おじいちゃんとお散歩中なの!
おじいちゃん「あ?おっといけねぇ!
ワシもヤキがまわったか」
孫「ボケるにはまだはやいよ、おじいちゃん」
最近おじいちゃんがちょっと変なの。
これがいま流行りの痴呆ってやつかなぁ?
流行を先取りするなんてさすが私のおじいちゃん!
おじいちゃん「んでよォ、ダチとそのまんまオールしてよォ」
孫「おじいちゃん、その話5回目だよ?」
でもでも、やっぱり心配。
時代の先端を行くにはリスクがいるからね。
おじいちゃんの話が37回目にさしかかったとき、家に帰りつきました。
お母さん「お帰りー、ずいぶん遅かったわね。
ご飯出来てるわよー」
孫「ただいまー」
おじいちゃん「あ゛?なんじゃって?聞こえんわい」
お母さん「ご飯出来てるわよー!!」
おじいちゃん「マジか、入れ歯とってくる」
おじいちゃんが靴はいたまま洗面所へ向かいます。
おじいちゃんってば、アメリカン!
私は食器の用意をします。おじいちゃんも装備を整え、食卓を囲みます。
おじいちゃん「おー、今日はすき焼きじゃな!」
お母さん「いっぱい食べてくださいね」
楽しい夕食。
そういえば、とおじいちゃんが思い出したように口を開いたよ。
おじいちゃん「本屋で最近買った『おじいちゃんのための痴呆予防』がどこかに置いて忘れてしもうた」
孫「もーう!おじいちゃん!その本なくすの10回目だよ!」
お母さん「…」
お母さんは私とおじいちゃんのやりとりに悲しそうに首を振ります。
そんなこんなでご飯を食べ終わりました。
おじいちゃんは、庭で煙草を吹かしています。
おじいちゃん「あ゛ー、かったりぃなァ」
おじいちゃん、縁側に座ればいいのに。
なぜか庭で股を開いて膝に肘を乗っける、俗に言う『うんこ座り』をしていた。
孫「おじいちゃん、明日老人会だよ」
おじいちゃん「ぉお、そうじゃったな!」
おじいちゃんが嬉しそうに顔を輝かせ、続けます。
おじいちゃん「ター坊の野郎からまだ麻雀のツケとってねぇからなぁ」
おじいちゃん…その人、先月亡くなったじゃない…
おじいちゃん「あいつとはガキん時からやんちゃしてよォ」
でも、嬉しそうに話すおじいちゃんにそんなこと言えなかった。
翌日、私はおじいちゃんと老人会にいきました。
おじいちゃん「うぃーす」
桶川さん「チャッース!」
片岡さん「おうおじいちゃんぢゃェか」
笠松さん「大変じゃー!」
息を切らして笠松さんが飛び込んできました。
大丈夫?
おじいちゃん「どうしたんじゃァ」
よく見ると笠松さんは背中に村田さんを背負っています。
笠松さん「村田がやられた…!」
「「な、なんじゃってー!!?」」
おじいさんたち十数人の声が重なります。
おじいちゃん「たっつん!相手は誰なんじゃァ!?」
村田さん「相手ァ隣の街の老人会の連中じゃ…ざまぁねぇな、若葉町の切り込み隊長のワシが…」
片岡さん「ぐぅ!奴らはワシ達の老人会と何回も抗争しとるからのォ!」
まぁ大変!
なんか物騒な話になったよ!
桶川さん「まぢパネェ!」
笠松さん「奴らとの長げぇ抗争に終止符をうつぞい!入れ歯ガタガタいわしたる!」
笠松さんがゲートボールに使う木の棒を掲げます。
またぎっくり腰になるよ笠松さん。
おじいちゃん「いくぞィ!!!!
奴らの介護用おむつを狩ってやるんじゃァァ!!!」
じじいs「おぉぉぉぉおぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
これは大変!
最近のキレやすい老人は私の手に負えません!
片岡さん「入れ歯安定剤はいつもより30割増しで塗りたくれェ!
それだけで大分違うぞい!」
どうしよう。
片岡さんのせいでいらない知識が増えちゃったよ。
じじい達はそれぞれゲートボールの木の棒や杖を構えぞろぞろと移動します。
孫「おじいちゃん!奴らのシマは分かってるの!?」
おじいちゃん「あぁ!
敵さん、この時間はよォ、若葉川の土手でたまってんじゃ」
桶川さん「まぢ若葉川はワシらのシマなんですけどー、て感じでー!チョー片腹痛いしー!」
おまわりさん「こんにちはーいい天気ですねー」
片岡さん「やべ!ポリ公じゃ!」
みんなが杖とゲートボールのアレをさっと隠す。
おまわりさんはにこやかな笑みを浮かべ去っていった。
じじいs「ふぅー、まぢパネェー」
笠松さん「サツの厄介になったらまた息子とその嫁さんに老人ホームにぶちこまれっからなァ!」
笠松さんが誇らしげに武勇伝を語る。
おじいちゃんの老人会では突っ張って老人ホーム送りになるのは美徳らしい。
突っ張ることが年金暮らしのたった一つの勲章なんだって。
私は子供だから分かんないかな。テヘ!
じじいs「ゼェゼェ…」
土手に着いたときには太陽は沈みかけていました。
おじいちゃん「着いたぞい…!奴らもいるッ!!」
あ、本当に隣町の老人会の人たちだ。
おじいちゃん「たのもォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
おじいちゃんの咆哮が大気を裂いた。
隣町の老人会が一斉に顔を上げる。
青田さん「なんじゃァァ!!!ワリャァ!?」
そのうちの1人がおじいちゃんにガンをとばした。
桶川さん「あ、あれは青田ッス!」
知ってるの!?
桶川さん!
桶川さん「やつは隣町の老人ギャングチーム(老人会)『老眼狂』のリーダー青田ッス!」
青田さん「来たみてェじゃなァ!!
若葉町の長老にして若葉町老人会『MOMOHIKI』のヘッド、おじいちゃん!
てっきり逃げ出すかと思ったゾォイ!」
おじいちゃん「青田…ッ!ワシはテメェと違って逃げるなどしねェのじゃ!!」
おじいちゃんが言いながら土手をよたよたと丘を下る。
おじいちゃんに若葉町老人会…いや、若葉町老人チーム『MOMOHIKI』が続いた。
青田さん「なんじゃとぉ!もいっぺん言いてみィ!」
青田さんが凄い剣幕で怒鳴り、老眼狂の面々もおじいちゃんに野次を飛ばします。
おじいちゃんがゆっくりと歩き、青田さんと対峙し、言いました。
おじいちゃん「消えた年金問題…増加する高齢者の一人暮らし…介護問題…
背けたくなる現実はあろう。
じゃが!その欝屈したッ!テメェの想いは!
御しきれない!熱さで!
ワシの仲間を!傷付けたッッッ!!!!!!
それは許せん!許せんのじゃァ!!!」
青田さん「ぐ…!テメェなんぞに…何がわかるッ!!しょせんワシ達は社会から第一線を退いてしまってるんじゃァ!!!」
おじいちゃん「フッ…それは違うな…青田ッ!
言っても分かるまい!
これより語るは拳のみ!」
おじいちゃんと青田さんが同時に地を蹴った!
おじいちゃん「青田ァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアア!!!」
青田さん「おじいちゃァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!」
二人の獣の咆哮を合図に、戦が始まった!
片岡さん「かかってこいやァアア!!!」
桶川さん「まぢパネェ!」
笠松さん「ホァタァアアアアアア!!!」
砂煙が巻き起こり、視界が奪われます。
おじいちゃん!どこにいるの!
栗林さん「まちな!お嬢ちゃん!」
目の前に腰の曲がったお爺さんが現れた。
もう!邪魔しないでよ!
栗林さん「青田のダンナの邪魔ァさせねぇぞォ!」
栗林さんがよたよたと杖を振り上げ襲い掛かってきます。
んもう!この街のじじいはファンキー過ぎるよ!
栗林さん「ッ!!」
不意に、ゲートボールのボールが栗林さんの足下に迫ります。
栗林さんは素早く反応し、杖で弾きました。
笠松さん「こいつはワシに任せぃ!」
笠松さん!
さすが街一番のゲートボーラー!
孫「笠松さん!ありがとう!」
栗林さん「ふんっ…憐れなもんじゃな…!
身の程を知らぬじじいはッッ!!!」
栗林さんが腰からもう一本取り出し、逆手に構えた。
そ、そんな!二刀流なの!
笠松さん「どっちが憐れか、今にわかるぞい!」
笠松さんがそう返して、ゲートボールの木の棒を上段に構える。
笠松さん「孫ちゃん!早く行ってやんな!」
孫「分かった…笠松さん!また腰に湿布貼ったげるからね!」
私はわき目も振らず駆け出した。
とたんに首筋に何か冷たいものを感じ、前転で回避動作をする。
私がいた地面は、大きく歯形が残され抉れていた。
一体なんなの!?
中尾さん(兄)「今のを躱すとはのう」
両手に入れ歯を装備したお爺さんが現れた!
中尾さん(弟)「じゃが、次は躱せまい」
いや、もう1人いる!
このお爺さん双子だ!
孫「ふん!体育の成績は5なんだからね!」
私は低い姿勢のまま駆け出そうとする。
が、まるで足をとられたようにバランスが崩れ手をついた。
靴の底にべったり付いてるのは…ポリデント!?
中尾さん(弟)「クックックッ…」
中尾さん(弟)がさも愉快そうにポリデントをちらつかせた。
しまった!罠だったのね!
中尾さん(兄)「唸れ!轟け!総入れ歯ァ!」
中尾さん(兄)が鋭い踏み込みとともに、右手の入れ歯を繰り出す。
やだ!死因が入れ歯なんてドンキーゴングじゃあるまいし洒落にならないよ!
その時、眼前まで迫る入れ歯が何かに弾かれた!
中尾さん(兄)「指弾ッ!?
な、何者じゃあァ!?」
『何か』が回転しながら自由落下する。
白い面と黒い面がある、平たい石のようだ。
ま、まさか!
片岡さん「間に合ったか」
片岡さん!
囲碁に使う碁石を握りしめた片岡さんが、そこにいた。
桶川さん「チョリッース!
片岡先輩、マヂ1人でカッコ付けすぎッスよ。
ワシにも戦う理由あるんすよ?」
桶川さんまで!
孫「2人ともありがとう!」
礼を言いながら、靴を脱いだ。
靴は完全に固定されてるためだ。
中尾さん(弟)「なぜじゃ!なぜ邪魔しやがるシャバ僧がぁ!」
片岡さん「ふっ、仲間の孫を助けるのに理由がいるかい?」
桶川さん「いやー!可愛い孫ちゃん見殺しにするってマヂないっしょ!?パネェ!」
中尾さん(兄)「ならば我が入れ歯の錆びにしてくれる!行くぞ弟!」
中尾さん(弟)「言われずとも!」
片岡さん「来る…!
あれだ桶川!
孫ちゃん!目を潰れ!」
私は言われるがまま目を閉じた。
桶川さん「桶川フラッシュ!」
一瞬、目蓋の上からでも強く感じる発光が起きた。
一体何が起きてるの!?
中尾(兄)「ぐう!目が!」
片岡さん「もう目を開けてもいい!
さぁ、おじいちゃんのとこまで行ってやんな!」
孫「ありがとう!」
私は頷き、走りだす。
橋の下に2つの人影があった。
おじいちゃんだ。
青田さん「くそ…!」
おじいちゃん「おらおらァ!
とれぇんだよォ!」
青田さんの大振りな右拳をスウェーで躱し、泳いだ身体におじいちゃんの容赦ない拳が突き刺さる。
青田さん「ぐ…!まだだ!まだ!働ける!」
青田さん…
もう定年過ぎまくりじゃない。
もう…いいんだよ…
青田さん「年齢に負けた!じじいがァ!!」
青田さんがほえながらハイキックを見舞う。
おじいちゃんが片手で受け、お返しとばかりにローキックを放つ。
青田さんが、がくりと膝をついた。
青田さん「く…そ…!
なんでじゃ…!」
おじいちゃん「青田ァ…
もういいんじゃ…」
おじいちゃん……
読んでくれてありがとうございます(*^_ ’)




