【無愛想な世話焼き人】
「てゆーか、君って夜のみ?」
「何が」
「なんだっけ?運び屋?」
「…空を飛べるようになって最初は何も考えないでやっていたら、ネットとか騒ぎだしたから」
「知ってる知ってる!わたしもそれ知って、いつか運んでもらいたいなぁって思ってたんだ!」
「まあ俺だって空飛べる人がいたら一度はそう思うかもな」
「でしょ?てゆーか思ってた以上に感動してる!」
「…まあ俺は金さえ貰えればそれでいい」
「でもさー君の情報とかってほとんどないし、噂だとお客さん側から依頼できるってわけでもないじゃん?そもそも連絡の取り方すら分からないもんねー。私ホントにラッキーだったよー」
数分前に出会ったこの女。
酔っ払いにからまれていたのを気紛れで助け今こうなっている。
「ねぇねぇ」
「なに?」
「すこ~し相談なんだけど~」
「だからなに?」
「毎日送ってくれない?」
「無理だな、一人一回って決めてるから」
「えーなんでよー」
「継続するとだいたい厄介ごとに巻き込まれたり、ワガママになったりするのがオチだから」
「私変なことしないよー?ワガママも言わないしー」
「俺が決めたルールだから」
「倍払う!」
「金の問題じゃない」
「だってお金欲しいからやってるんでしょ?」
「…これまで得た金には手を着けてない」
「えっ?けっこう稼いでるでしょ、なんで?」
「……使う暇ないしな」
「欲しい物とかないの?」
「ない」
「車とか時計とか色々あるじゃん?」
「飛べる人間に車はいらないだろ、それに時計は…」
「時計はしない感じ?」
「…一つあれば十分だ」
「ふーん…あ、今してるやつ? …ま、まぁ沢山あっても付ける腕は一つだからねー……う~ん・・・」
「なんだ?」
「いやね、何だったら君は興味が沸くのかなぁと」
「そんなものはない」
「ねぇねぇ、彼女いる?」
「…」
「えーいるのー?」
「お前には関係ない」
「いいじゃんいるなら聞かせてよ」
「いない」
「えっ!ホントに!?じゃあじゃあ私なんてどう?」
「なぜ?なんか目的でもあるのか?」
「なぜって何よ、しかもその言い方は心外なんですけど! ただ純粋に彼女に立候補してるんですけどー?」
「いや興味ない、そもそも人に興味がない」
「……君って何のために生きてるの?」
「さぁ……何で生きているんだろうな…よくわからない」
「なんか冷めてるわね…ここはやっぱり私が彼女に」
「だからいらないって」
「よいしょ…」
「お、おい何してんだ!?」
「ちょ、ちょっとちょっと!危ないから暴れないでよ」
「お前が動き出すからだろ」
「いいからいいから~ 君はお客さんを安全に運ぶことだけ考えてなさーい」
「何して…ん?あっオイ」
「はい、スマホゲットだぜっ!」
「おい、返せ」
「あーこっち見てないで前見ててねー 事故ったら大変よ~」
「一体何がしたいんだ」
「んーと、あ、ここか…(チッ)…ねぇパスワードは?」
「何舌打ちしてるんだよ、つうか言うわけないだろ」
「あ、そう」
彼女は背中から飛び降りる。
「は?なに考えてんだあいつは!」
すぐに下降し掴まえ背中に戻す。
「お前いい加減にしろよ!」
「ちょ、ちょいまち!やっばぁーちょー怖かったんだけどー 心臓バクバク止まらない!」
「いかれてんのかお前?」
「また…飛び降りようかなぁ…」
「…わかったから大人しくしていてくれ」
「りょーかい、じゃあ、はいパスワード」
「だから言わな」
「よいしょっと」
「はぁ…わかった……0108」
「0108?これって誕生日ー?」
「言うわけないだろ」
「誕生日ね、りょーかい」
「…」
「フンフフン♪てか君、ちゃんと怒るんだね~」
「当たり前だろ、そもそもな」
「ずっとロボットなのかなぁって思ってたよ」
「…悪かったな、無愛想だというの知っている」
「いや別に人それぞれだからいいんだけどさー…むかーし、なんかあった?」
「・・・」
「…なーんてね、流石に踏み込みすぎたよね、ごめん…」
「…」
「よしっ、おっけー」
「はい、スマホお返ししますねー」
「何をした?」
〈ブーブーブー〉
「なんか電話鳴ってますよー」
「誰だ…ってこれお前か?」
「そだよー 私は君のスマホゲットしたから、君代わりに私の個人番号ゲットだぜ!
あ、着拒したら許さないからね?」
「許さないもなにも二度と会わないから」
「はい残念でしたー」
「あ?」
「ていうか電話帳に自分の個人情報入れてる人っているんだねぇ」
「…」
「住所も入力してるとか面白過ぎるんだけど、ね、八千代壬桜《《ちゃん》》」
「お前…」
「アハハハ、ごめんごめん、怒らないでよー
いいじゃん壬桜って名前、私好きだよ?」
「その名前を呼ぶな」
「え?」
「お前がその名前を呼ぶな」
「え、あ、あのごめん…別にばかにしたいとかそう言うことじゃ」
「…そういうことじゃない」
「え、えーっと、そうだ私の名前」
「お前の名前なんてどうでもいい」
「はっ?ていうかさっきから思ってたんだけど、お前っていうのやめて」
「はぁ……じゃあ名前は?」
「えー聞きたいー?」
「いや大丈夫だ」
「私はアカネ、三谷原朱音」
「・・・」
「ちょっと、なんか反応しなさいよー…て、雨降ってきてない?傘無いよー」
「…」
「ねぇ何で何も話さないのさー」
「道…探してるんだよ」
「あーそろそろ着く感じ? ていうかさ、空から見ると当たり前だけど全然景色違うよねー、しかも夜じゃ全くわからないし」
「壬桜はよくわかるねー?」
「名前呼ぶなって言っただろ」
「えーいいじゃんー 私のこともアカネちゃんって呼んでいいからさー、あ、呼び捨てでも構わないよ!」
「呼ぶわけないだろ…そろそろ着くぞ」
「えーもう?…ちょっと寄り道しないー?」
「雨降ってくるぞ」
「でも時間で代金変わらないって話だったよね?だったらもう少しくらいいーじゃんかー」
「…こんな夜中にどこか行っても何も楽しくないだろ」
「ううん、私、夜のこの静寂に包まれる感じ好きなんだぁ…だから、どこかに行きたいとかじゃなくて、まだこうしていたいってのが本年」
「はぁ…わかったけど、とりあえず少し休む」
「えー」
「こう見えて空飛ぶの疲れるんだ」
「あ、ごめん、休もう休もう」
「普段俺がよく行く場所がある…そこでもいいか?」
「どこー?」
「どこでもいいだろ…ただ景色は悪くない」
「いくー」
「うわぁーー…超高い…これって何階建てなの?」
「60階だろ、名前からして」
「あ、そうか。でも普通の人はここまでこれないもんねー、すごいすごい!」
「あんま前…いく…なよ……」
「いつも来れるのズルい!……ってあれ?」
振り向いた先では既に眠る姿があった。
「スゥスゥ…」
「あら……よっぽど疲れてたんだね…無理…させちゃったかな……」
近寄り顔を覗き込む。
「ふ~ん……へぇ~……睫毛長いなぁ……ん?・・・この跡って…」
「ん…あ、悪い結構寝ちゃってたか?」
「ん~?そんなことないよー、でも風邪引いちゃうかなぁとは思ってたから」
朱音は自分の着ていたジャケットをかけていてくれた。
「これ……つうか俺は大丈夫だから、お前が風邪引くぞ」
「また言った」
「何が」
「あ・か・ね」
「悪い…人の名前呼ぶの馴れてなくて」
「じゃあ私にだけでいいから馴れてね~」
「…とりあえずこれ…ありがと」
ジャケットを手渡すと少し微笑みながら
「どういたしまして~」と受けとり着る。
「えへへ…」
「え?どうした?」
「いや、暖かいなぁって」
「……そろそろ行くぞ」
「もう!何かリアクションとかないの!?」
「いいからいくぞ」
「あーあ、結局小雨降ってきちゃったね」
「ここからならお前の家も…」
「ううん?」
「なんだよ」
「な、ま、え」
「あ…かね、の家も近いからな」
「あら、いきなり呼び捨てとか、もしかして本当は女慣れしてる感じー?」
「違う…ただちゃん付けで呼ぶのが…馴れ…性に合わないだけだ」
「あっ、そうですか!」
「…ほらもう着くぞ」
「はい、これ代金」
「確かに……じゃあな」
「ねぇ……私、毎日壬桜呼ぶから絶対きてよ」
「まぁ…気が向いたら」
「無視したり来なかったら私から家にいくからね」
「あーもう…わかったって。急用がなかったらまたな」
「うん!」
彼女は未だにその場から、見送った後の姿を追うように空を見上げている。
「・・・何でだろ……とっても懐かしい感じが…」




