【放っておけない苦労人】
「そういえばさ、最近聞かなくなったよね」
「何が?」
「なんて言われてたっけ…空飛び屋?」
「あーそんな話あったね」
電車を待つどこかの列からそんな会話が聴こえてくる。
「あれって結局なんだったんだろ」
「ここ最近は全然聞かなくなったよね」
「一時期すごかったじゃん、写真とかもけっこう出回ってたみたいだし」
「あったあった、でも正直わたしは半信半疑だったかな」
「でもなんか検証とかされて本物らしいって聞いたけど」
「実は…わたし色々調べたりしたんだけどさ…」
「え、調べたの?」
「だって本当にいるならお願いしたくない?」
「なにを?」
「わたしを空に連れてって~って」
「そ、そうだね…でも空飛ぶのってちょっと怖くない?」
「それ言ったら終わりじゃん」
「てかさ、顔とか分からないんだっけ?」
「フードとマスクで男か女かも分からないって、けど服装…てか容姿的に若いとは言われてたよ」
「え~若い男ならわたしも連れてって欲しいかも~」
「あんたねぇ…」
〈お客様にご案内いたします。先程⚪⚪線⚪⚪駅において信号機の故障があった関係で、現在全線で運行を見合わせております。お急ぎのお客様は…〉
「えーマジかぁ」
「どうする~これ遅刻確定じゃない?」
「どうしよっか…今日休んじゃおうか?」
そんな会話をよそに、さっき入ってきたばかりの改札口へ戻る。
既に人混みのできはじめてきていた改札を出て、人の流れがない道を探す。
流石に朝は駅に繋がる道は人がいる。
仕方ない、と裏道を探そうと適当に歩き始めると、泣きながら誰かに謝っている声が聴こえてくる。
声がする方をみると自分より少し年上であろうスーツ姿の男性が、電話越しに頭を下げていた。
電車が止まった影響で上司あたりに詰められてるのかな?と少し可哀想だなと思いつつ、男がいる所とは逆方向に歩き始める。
「申し訳御座いません!…いえ、いえ、本当に電車が止まって…はい、仰る通りです。あの、これからタクシーで…はい、時間は…」
あー…取引先か何かなのかな…。
(つーか声がでかいんだよ、もっと誰もいないとけで喋れよ)と内心で悪態をつきながら、止めてしまった脚は踵を返し男へ歩いていく。
傍に近付く間には既に電話は終わり男は顔を青くして突っ立ていた。
「すんません、ちょっといいです?」
「…はい?私ですか…?なんでしょう…」
生気の抜けた、とはこういうことを言うんだろうなと思いながら続ける。
「何も聞かずに俺の話を信じれるなら、今の状況何とかできるかも」
「一体何の話を?」
「さっきあなたが電話してたの聴こえてきて」
「…すいません、周りを気にしないで…声大きかったですよね…」
「いやそれは全然いいんだけど、間違ってたらあれだけど、電車止まって困ってるのかなって」
「ハハ…そうですね、でももうどうにもならなそうで…」
「詳しい話聞かないと何とも言えないけど、多分どうにかできると言ったら?」
「へ…?いや無理ですよ…タクシーでももう間に合わないくらいなのに」
「…俺とあることを約束してくれるならタクシーよりかは確実に早く着けるとしたら?」
「します!約束します!何でもしますからら」
「…時間ないだろうし簡潔に話すんで、しっかり聞いて判断して」
「はい、お願いします!」
「まず目的地までの運賃は3万円。 次にあなたの身分を明かすこと、そして俺の事やこれから起こる事を誰にも話さないこと」
男はコクコクと首を縦に振る。
「それと、この後起こる事については何も聞かない。 この条件でいいなら確実にタクシーより速く連れていく」
話終えると男は鞄をまさぐり財布を取り出す。
「今は1万円しかないけど、残りも必ず払います!あなたのことも話しません。あと、これ名刺です」
「ん、じゃあ早速だけどこっち着いてきて」
少し歩き人気のないところに移動し、じゃあ自分に乗ってと話す。
「え?乗る?」
浮かせた体を真横に向ける。
「ほら、早く背中に乗って」
「え?え?どうなって」
「約束…覚えてる?」
「あ、あぁ分かりました、聞かないです。で、では、失礼して…」
そう言うと男は恐る恐る背中に跨がる。
「んじゃ行くよー、適当なとこに掴まっといていいから」
そう言うとその体勢のままエレベーターが上昇するように真上に飛び上がる。
「え…ぇぇ」
男は思考が追い付かないようだ。
「あー、そういえば目的地聞いてなかったわ、どこまで行けばいい?」
「え、あ、そうでした、ええと⚪⚪駅の近くなんですけど」
「じゃとりあえず⚪⚪駅に向かうよ」
空を飛ぶなかで男が話しかけてくる。
「あ、あの、少し前にネットとかで見た記事ってあなたの事なんですか?」
「んー、他に飛べる人がいないなら」
「…人間…何ですよね?」
「自分ではそう思ってる、というか少し前に事故で怪我をしてそれからって感じ」
「はぇー…なんか超能力に目覚めた的な感じなんですかね?」
「さぁね、自分でもよく分からない」
「…あ、あの何で自分に声をかけてくれたんですか?」
「それもよく分からない。ただ気付いたら足が向かってたってだけ」
「…本当にありがとうございます。自分いつも運が悪くて。今日も大事な契約があったのに…間に合わなかったらクビになってたかもしれなかったです」
「…そう?俺は運良かったんじゃないって思うけど…俺と会えたんだから」
「は、はい!」
「まっ、大声で謝罪してたからってのが大きいと思う。だから…よかったじゃん無駄にならなくて」
「…本当に、本当にありがとうございます」
「これから仕事なんだから泣くなよー」
しばらく飛んでいると男の目的地の最寄り駅の上空に着いた。
「駅着いたけど、間に合う?」
「え……いや全然時間早いんですけど…」
「まぁタクシーより速いって言った手前だからね」
「いや速すぎますって…」
「じゃあこの辺で降ろしてもいい?」
「はい、お願いします」
適当に人がいなそうな場所を探し着地する。
「本当に、本当にありがとうございます!」
「間に合ったならそれで良かった」
「あ、時間あるのでコンビニでお金おろしてきます!」
「じゃあここで待ってるよ」
「すぐに行って戻ってきます!」
走っていく男の背中を見送り再び飛び上がる。
「真面目な人だな……せっかく間に合ったんだから仕事がんばりなよ」
そのまま今来た空路を戻っていく。
「すいません、お待たせ…あ、あれ?あの人は…」
空を見上げた男は、もう既に微かにしか見えなくなっている飛び去る姿に頭を下げる。
-その夜-
「ハァーーやっぱそうだよなーー見られてるよなーーー」
スマホを見ながら嘆き声をあげる。
「あんな明るかったらこうなるよなぁ…」
見ている画面に映る空を飛ぶ自分の姿。
「はぁ…まぁあの人送った後だったし、一応マスクしてたからギリギリ……アウトだろぉぉ」
スマホをベッドに投げると同時に体も投げ出す。
「はぁ…やっと噂が収まってきたってのに……やっぱ明るいうちはもうダメだ…絶対夜にしか飛ばない」
天井を見上げて思う。
(力の使い方は分かったけど、未だに使い道が分からないな…俺はこの力で何をすればいいんだろ…)
そのまま眠気に誘われ目を瞑る。
「(あ……は……す……の…お…………る…ね)」
「(……し…し………だ……よだ……も……)」




